第144話 評価
「本当男子は器がちっちゃいよね」
「女を養う甲斐性くらいは見せて欲しいよね」
吉田達が女子生徒達の拠点に到着すると、ちょうど生徒達が男子生徒の甲斐性について語っていた。男子である吉田達は思わず気まずい表情を見せる。
「あら? 私達を見捨てた男子生徒が何の用?」
そういって吉田を見つけて睨みつけてくるのはこの社会主義メンバーのリーダー、
「まあ見捨てたっていえば見捨てたな」
「こんな環境だし、自分達のことで手一杯だから正直赤の他人なんて気遣う余裕なんて誰もないと思うぞ?」
「それは!?」
光瀬の正論に東海林は思わずひるむ。そう。武藤以外、おかれた条件は同じなのだ。そこに男女差はない。
「中林先生と武藤の二人は除くべきだろ」
「ああ、確かにな。あの二人は例外だ」
「武藤? 武藤君のこと?」
「ああ、クラスメイトの武藤だ」
「中林先生はわかるけど、武藤君がどうかしたの?」
「お前らに獲物を捕ってきてくれるんだと」
「え?」
「武藤君が?」
「どうやって?」
吉田の言葉に女子生徒達がざわつく。それはそうだろう。クラスの中でも普段は全く目立たない存在である。何せそもそも気配を消しているのだから。
「普通に捕ってくると思うぞ。アイツは特別だからな。それより獲物は捕ってくるけど処理なんかはしないらしいから、捌いたりするのはお前達でやれってことだ」
「え? 無理無理無理!!」
「無理じゃねえよ。先生に教えてもらって自分達でやれ。それが獲物を譲る条件だ」
「な、なんで吉田君がそんなこと決めるのよ!!」
「俺が決めたわけじゃねえよ。武藤が決めたことだし、俺も賛成だ。完全に他力本願で何もやらないやつは助けないってことだろ」
「……」
吉田の言葉に女子生徒達は口を開くことができなかった。自分達も薄々はわかっていたのだ。認めたくなかっただけで――――自分達が現環境では役立たずであるということを。
だが只の女子高生である自分達にできることなど殆どないのである。自分達ができることは大抵男子もできるのだ。だが男子ができることを自分達はできない。つまりサバイバルにおいてはほぼ完全に下位互換の存在になってしまっているのだ。
故に体を使うという行動をした長谷川に対して、汚らわしい等という感情よりは劣等感のようなものを東海林が抱いてしまったのは事実だ。例えどんな行為であれ
だが未だギリギリではあるが極限状態に陥ってるわけではない。ここ3日は殆ど食べられていないが、まだ完全にのぞみが立たれたわけではないのだ。これが飢餓状態にでもなれば否が応でも体を売る女子生徒も出てくるだろう。だがまだ自分達にできることを全てやったわけではない。わがままでアレも嫌だこれも嫌だといっているわけではなく、ただ体を売るのは最終手段だと思っているのだ。
何故なら上の立場である男から、先に抱かせろと言われた場合、後で食事を分ける等という約束は
犯した後にそんな約束してないといわれればそれまでなのである。先払いでもないかぎり無理なのだが、決定権は立場が上の男の側にあるのだ。1度でも体を許せばそれまであり、後には一生の後悔しか残らないのである。
東海林達もまだなったばかりの女子高生なのだ。男と付き合ったこともなければ、恋すらしたことがない者もいる。そんなものたちに男に体を売れというのも酷な話である。追い込まれればなんでもするだろうが、ここにいる者達で武藤以外に本当に追い込まれた経験があるものなんていないのだ。
故に限界の境界線がどこにあるか判断が付かず、そうこうしているうちに長谷川が行動を起こしたのである。
「確かに甘えてた部分があるのは事実だと思う」
「結愛!?」
吉田達の言葉に苦い顔をしながらも商事はその事実を認めた。
「事実でしょ? 結局私達は水汲みと薪拾いしかしてないわ」
「だってそれはしょうがないじゃない。役割分担でしょ?」
「適材適所とはいうけど、男子にしかできないことはあっても、私達にしかできないことなんてないのよ」
「……」
東海林の言葉に周りの女子生徒達も沈黙する。
「調味料もないから調理もできないし、周りの探索だってできないわ。水汲みも薪拾いも結局はそれしかできないからやらせてもらっているだけなのよ」
「い、いいじゃない!! それでも仕事はしてるんだから!!」
「男子がだったら自分達で水汲みも薪広いもやるからお前らも自分達で獲物を取ってこいよと言ってきたらどうするの?」
「それは……」
東海林の言葉に再び女子生徒達は口を噤んだ。
「結局今、私達は男子に生かされてるのよ。そして現状それを覆す手段もないの」
「だったら長谷川さんが言うみたいに体を売れっていうの?」
「……このまま何も対処できなければそうなっていたわね」
「いた?」
「武藤くんが助けてくれるんでしょ?」
そういって東海林が吉田の方を見ると、そこにいた全女子生徒たちが吉田を見てきた。
「ああ。だけど働かざるもの食うべからずっていうのはあるから、先生に教えてもらって肉は自分達でさばけるようにしろってのが最低限の条件だ」
「……わかったわ。鳥や魚を捌くのと変わらないわ。むしろそれだけで食事の心配がなくなるのなら夢のような条件だわ。それこそ武藤くんに肉体関係を迫られても拒めないくらいには魅力的で怖い条件だと思う」
「その辺は安心していいぞ。絶対にお前達に手を出すことはないと言える」
「……なぜだか聞いてもいいかしら? 絶対いらないと言われるとちょっとイラっとくるのだけど?」
「あいつは5女神と俺達のクラスの皇達3人組を彼女にしてるからな。それ以上は体が持たんだろ」
「……はああああ!?」
周りで話しを聞いている全女子生徒たちが叫んだ。
「武藤君て私、顔も覚えてないんだけどそんなイケメンだったっけ?」
「だめだ、全く顔を思い出せない」
「なんかメガネしてたような記憶くらいしか……」
周りの女子生徒たちが騒然とするが、誰も顔を覚えていないことに吉田が戦慄する。
(そんなことあるか? 最近は結構目立ってたとおもったんだが……)
吉田がそう思うのも無理はない。越智と揉めたり、9女神の一人である小鳥遊との噂もあって結構武藤は目立ってきていたのである。にも関わらず誰も顔すら覚えていない。どう考えても異常である。
(なんか魔法とか使ってたのか?)
吉田の予想通り武藤は認識阻害に属する魔法を使っていた。対象が気にならなくなる魔法である。とはいっても認識できないわけでなく、対象に対して気にもとめなくなるという逆に違和感すら抱けなくなるような高等な魔法であった。故に武藤という存在は認識しても興味を抱かなくなるのである。但しこの魔法はある程度関わりを持っている相手には効果が薄い。其の為、武藤を気にしていた陰キャグループと皇達には効果がないが、他のクラスメイトには効果が高いのである。
「本当に山本さんや皇さん達と関係を持っているの?」
「山本さん達は元々付き合ってて隠してたらしいけどな。皇達はこっちにきてから猛アタックかけてて漸く彼女にしてもらったらしい」
「は、8人も?」
「もっといるらしいぞ」
「もっと!?」
「しかもあいつ遊びじゃなくて全員ちゃんと責任取るとか言ってるからなあ」
「責任て?」
「ちゃんと子供と嫁の一生の面倒を見るって」
「!? できるの!?」
「まあ、あいつならできるだろうなあ」
「むしろできないことあるのかあいつ?」
そういって吉田と光瀬は顔を見合わせる。何せ元勇者様である。魔法も使えるしとんでも効果の薬とかも色々持っている。そして見る限りとんでもない財力もあるのだ。嫁の100人や200人養えても不思議ではない。
吉田達の言葉に、その場にいる全女子生徒たち全員の目が一瞬輝いたことに吉田達は気づくことができなかった。
(女神と呼ばれる山本さん達にカースト上位の皇さん達が目をつける相手)
(絶対超優良物件だわ)
女子における男子の評価というのは何も見た目だけではない。その男子生徒が付き合っている、もしくはその男子生徒を狙っている女子生徒の評価も関係するのである。ようはブランド品と同じで、ハイスペック女子が狙っている、もしくは付き合っている男子はどんなに平凡でも「あの子が狙っている男」という評価が水増しされる為、どんなに平凡であろうとかなり下駄を履いた評価となるのだ。多分に漏れずこの瞬間、武藤もその対象となったのである。
「あいつらはさ。師匠に助けられなかった俺なんだよ」
吉田は武藤に対して色目を使おうとしている女子達を見つめながら武藤の言っていた言葉を思い出す。
「なんの力も持たずに異世界に放り出されて、ただの中学生がなにかできるわけないだろ? 例え高校生だったとしてもそれは変わらん。しかも女だった場合、街中なら大抵悲惨なことになるし、そうでなくても肉体的なハンデが多い。こっちに来たのが俺のせいっていう可能性がゼロじゃない以上、本当にどうしようもなくなった時は男も女もある程度は助けを出すつもりだった。まあ今回の件で随分と男には余力があるようだから女子生徒だけ助けることにしたんだけど」
本当に武藤による巻き込みという可能性があるのなら責任感の強い武藤なら助けようと考えても不思議ではない。自分に責任が絶対ないと言い切れるのなら問答無用で切り捨てるだろうが……男は。
目立つからとかどうでもいいとかいいつつも、やはり女にあまい男だと吉田も光瀬も武藤を評した。そこがまたモテる理由なんだろうなとも。
恐らく武藤のことを狙っているであろう女子達を見ながら吉田と光瀬はそんなことを思っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます