第137話 この野郎
「ここがお城!!」
「お城なんて初めてだねえ」
「素敵ですわ!!」
結局、皇達3人と恋人5人を連れて武藤は城へと戻ってきた。
「初めまして。貴方がたが向こうでのお兄様の伴侶ですわね。私はこの国の女王、リーゼリット・グランバルドよ。こちらの世界ではお兄様は私の伴侶であり、王配になりますからそのつもりで。勿論、貴方方をないがしろにはしませんからご安心を」
玉座の間へと案内されたメンバーはそこに座るリイズに圧倒された。今朝までの単なる可愛い女の子という感じはどこへやら。まさに女王と言わんばかりの雰囲気と圧力を漂わせ、こちらにきたメンバーはその雰囲気に固まってしまっていた。今朝まで一緒にいたはずの百合ですら一緒に圧倒されていたことにリイズは苦笑する。
「はあーリイズちゃん本当に女王様になっちゃったんだねえ」
「そうよ。信じてくれた?」
「信じた信じた。まさに女王様だったよ!!」
「お姉さまにそう言っていただけると嬉しいわ」
先ほどまで威圧はどこへやら。仲のいい姉妹のように二人はじゃれ合っていた。
その後、女王自らの案内により城見学を行った。仕事どうしたと思えば、エウノミアが代行してやっている。ディケとエウノミアは侍従という扱いではあるが、実際は王代行権限を持つ存在なのである。その為、普通にリイズしかできないはずの仕事もやれるのだ。
「ここが宝物庫よ」
女王自らに案内され、一向は宝物庫にたどり着いた。
「宝がありますの!?」
「見てみたい!!」
皇と百合が息もピッタリに叫ぶ。
「百合は前来た時に見てないのかね?」
「こんな所に聖女が用があるわけないでしょ」
「それは確かにそうか」
そういって香苗は納得する。欲にまみれた聖女でもない限り、普通は宝物庫に来る必要なんてないのだ。
「うわあああ」
「これはまたすごいねえ」
結界で塞がれていた大きな扉が開くと、中には輝かんばかりの宝石や美術品のような物が並べられていた。
「しかし、今日初めて会った部外者をこんな所にいれてもいいのかね?」
「お兄様の嫁なら平気よ。盗難をするような者はお兄様はすぐわかるから、絶対嫁にするようなことはないもの。だからお兄様に選ばれている時点で大丈夫なのよ」
「そうか。まあ、盗んだところで売る場所も無ければ伝手もないし、そもそも置く場所もないからねえ」
そもそもこの世界の人間ではないのだ。拠点以外に住む場所もない。そんな中で宝物を盗んだところでなんの意味もないのである。
「すごい!! 本物の剣なんて初めて見た!!」
「あっちは盾があるよお姉ちゃん!!」
武具を見て斎藤姉妹が興奮している。近代武器以外の実物の武具を見るのは初めてなのだ。
「よくわからない物がいっぱいデス」
「よくわからない物は大体魔道具ね」
「魔道具!? なんだいその興奮が抑えられない名前は!!」
いきなりハイテンションになる香苗にさすがのリイズも若干引き気味である。
「えっと、魔力を使って動かす道具ね」
「なら私も使えるのか!?」
そういって香苗は武藤をチラ見すると、それに武藤は気が付かないかのように明後日の方向を向いていた。もちろん武藤は視線に気が付いている。むしろ直前まで香苗を見ていたのだ。やばいと思った時瞬間、武藤は視線が会わないように一瞬で向きを変えたのである。絶対碌なことにならない……と。
「……ねえ、武くーん」
(来た!?)
香苗がこんな甘えたような猫なで声ですり寄ってくるときは大抵武藤にとって厄介事である。武藤はそう経験から察していた。
「ここの宝物とは言わないから一般の魔道具でいいから買ってほしいなあ」
「……魔道具って大体危ない武器ばっかりだから駄目。それに使えないでしょ」
「使い方は武君が教えてくれればいいんじゃないかなあ」
「危ないから駄目」
「着てあげるよ」
「え?」
「持ってるんでしょ。コスプレ衣装」
「!? な、ななななんのこ、ここことだか――」
武藤は非常に焦っていた。何故香苗がトップシークレットであるそれを知っているのか? 誰にもコスプレ衣装を買ったことは知られていないはずだ。念には念を入れて気配を消し、姿を消し、変装してまで買いに行ったのである。しかも履歴が残らないように通販も使わず、直接お店で現金支払いしてまでだ。
「武君がそういうのに興味があることはムネ君から聞いてるよ」
「あの糞野郎があああああああああ!!」
「情報漏洩を気にするならムネ君の口はワイヤーで縫っておいた方がいいだろうねえ」
実際は武藤の幼馴染である稲村の彼女であり、香苗と百合の後輩である聖子が、稲村から世間話のように聞いた話を香苗に話したのである。しかも聞いたのはコスプレ衣装を買ったという話ではなく、そういうことに興味があるという話を稲村がかつて武藤から聞いたことがあるという話であり、衣装を買ったというのは香苗の推測である。まあ見事にそれは当たっていたのだが。
「どんなえっちなのでも着てあげるよ?」
(ぐっ……なんて誘惑だ)
美少女が多すぎる為、あまり目立ってはいないが、香苗もまごうことなき美少女である。
「なんなら向こうに帰ることができたら学校の教室で制服のまましてあげてもいいよ?」
「なん……だと……」
普段教室で接している制服姿で、日常的に生活している教室での情事。想像しただけで背徳感が凄まじい。武藤は想像してごくりと生唾を飲んだ。
「男の子はそういうの興奮するって聞いたんだがねえ? 制服を着たまま、後ろから下着をずらしたまま挿入してガンガン突いたら興奮しないかい?」
「ぐふっ……」
武藤は想像して思わず片膝をついた。魔王戦に匹敵する精神的なダメージだ。
「そのまま中に出して、武君の精液をお腹に入れたまま授業をうけさせたら興奮しないかい?」
「ぐはっ!?」
武藤はついに両ひざをついて崩れ落ちた。ついには魔王を上回るダメージ(主に精神的に)であった。
「武君?」
「あ、危ないから、買っても俺が魔力操作に合格を出すまでは使わせないから……」
「!? ありがとう武君!!」
そういって香苗は武藤に抱き着いた。武藤轟沈である。ちなみにそんな頼みを聞かずとも言えば武藤の恋人達ならコスプレ衣装だろうが、学校エッチだろうがホイホイしてくれることに武藤は最後まで気が付いていなかった。
「が、学校でなんてふしだらですわ!!」
「み、見つかったら退学になっちゃうよ!?」
皇と松井が顔を真っ赤にして香苗たちの言葉に反応する。加賀美は想像して興奮したのか、一人顔を真っ赤にして俯いてしまっていた。
「武君なら見つからずにできるからねえ。武君がその気になれば、授業中の教壇の上でだってできるだろうし。それに赤い人も言っていただろう? 見つからなければどうということはないって」
「赤い彗星を変態にすんな!?」
気が付けばとんでもない方向にとばっちりがとんでいた。
「くっふっふっ、武君がかかわるとあっという間にあらゆる場所にカオスを生み出すねえ。でもその人間関係は複雑でありながらも殺伐としたものを全く感じさせない。複雑怪奇でありながらもまるでローレンツ・アトラクターのように美しく、そして予測ができない。その一部になれていることに私は何よりも幸せを感じるのだよ」
そういって香苗は恍惚な表情を見せる。男が見ればまさに蕩けるようなその幸せそうな表情は、武藤をして他の男が見ていなくてよかったと思わせる程であった。
「これは……王冠ですの? 随分と質素ですわね」
一向が宝物庫を眺めていると、皇がすぐ近くに無造作に置かれていた王冠らしきものを見つけ、何の気なしにそれを自身の頭にのせた。
「だめっ!?」
「?? !?」
リイズが止める間もなく、皇は光に包まれた。
「なんですの一体……」
「綺羅里……ちゃん?」
「どうしたんですの知美?」
「なんか……変?」
「それはそうでしょう。今頭にのせたのは王家秘蔵の魔道具である【男性化王冠この野郎】です」
「は?」
「この野郎が名前らしいです。この国ができる遥か以前、千年前からある魔道具ですね。頭にのせると男性なら何も変化せず、女性なら男性に変わります」
「なんだってそんな名前に……ああ、男になるから野郎なのか」
武藤は冷静にそんなことを考えていた。
「ちなみに男性化王冠、通称ダンカンです」
「つまりつなげて言うとダンカンこのや――絶対名前つけたの日本人だろ!!」
思わず武藤が叫んだ。どうみてもこれはわかっていてやっている。武藤は遥か昔からこの世界に日本人がかかわっている可能性を感じた。
「これは……」
「綺羅里ちゃんかっこいい」
「知美……かわいいな」
そういって皇は松井の顎をくいっと上にあげる。
「綺羅里ちゃん……駄目よ。私には武藤君が」
「え?」
「なら3人で楽しめばいい」
「え?」
武藤を置き去りに2人はとんでもない会話をしていた。
「ちなみに元には?」
「勿論……戻せません!!」
「……」
拳を握って力説するディケに武藤は「だろうな」とため息をついた。
「本来王家に女系しか残らなかった場合に使われる代物なのです」
この王家に女王がいなかった理由が判明した。女しかいないのなら男にしてしまえばいいというとんでも理論だったのだ。そりゃ女王になった時のルールなんてあるわけないはずである。
「え? 戻れないのですか? わ、私と武藤君のこれから始まるイチャイチャネチョネチョの肉欲の日々は!?」
「……今とんでもない擬音が聞こえてきた気がするんだけどそれは置いておいて、お前達との肉欲の日々の予定はないからな?」
「そんな!? あっでも男の体でも別にできないことは「できねえよ!?」」
さらっと皇が恐ろしいことを言い出した。これ以上お尻を狙われるのは勘弁だとばかりに思わず武藤は叫んでしまった。
「百合達に手を出されるわけにもいかんからな」
そういって武藤は指をパチンと鳴らすと、武藤の目の前にSF映画もさながらに半透明のディスプレイが浮かび上がる。ちなみにこれは武藤にしか見えていない。
「最新でいいか」
そういって武藤は何かを選択すると皇は光に包まれ元の女性の姿へと戻った。
「あら? ここがお城かしら?」
「綺羅里ちゃん戻ったのね!!」
「?? どうしましたの知美?」
まるで今までのことが嘘のように振る舞う皇にまわりの面々は訝し気に武藤へと視線を向ける。
「これは俺がGitと名付けた魔法だ」
ギット。要はバージョン管理魔法である。何を管理しているかといえば……人である。武藤はことある毎に自身、そして恋人や知り合いの情報をこの魔法で記録している。転移したり、食事をしたりする時にその直前の情報を保持するのだ。何故かといえば、この魔法は記録したその時の状態に肉体を戻すことができるのである。つまり毒をうけたり、不慮の事故が起きた際にそれを無かったことにできるのである。
武藤の恐ろしいのは肉体とは別に記憶だけの保存も行っていることである。例えば肉体だけ30歳から15歳に戻した後に、記憶だけ30歳の状態を上書きすると、30歳の記憶を持った15歳の肉体になる。つまり……若返るのである。要は武藤は薬を使わなくても簡単に一瞬で肉体を若返らせる魔法が使えるということだ。それは時間を戻したり肉体の細胞を若返らせたりするよりも遥かに速く、正確に、そして必要魔力を少なくできるということでもあった。
「……お兄様は相変わらずとんでもないことを平然とするのね」
さしものリイズも呆れた表情をして武藤を見ていた。
「本来何をしても戻せないはずなのですが……」
本来この王冠で変化した場合、状態回復魔法や万能薬を使っても戻せないはずなのだ。何故かといえばその状態が正常という状態になる為である。正常なものは回復させようがないのだ。武藤の魔法は記録した状態に上書きするのであり、元に戻すという訳ではない為、結果的には戻っているように見えるだけであり、全く別のプロセスなのである。
「どうしましたの皆さま?」
皇は城に転移する直前の状態に戻っている為、現在転移してきたばかりだと認識している。つまりリイズ達のことも知らない状態だ。
Git魔法は1度記録してしまえば、2回目からは一瞬で記録できる。その為、それなりに頻繁に記録はしているのだが、それでも何もない時にまで常時記録することはない。常時バックアップをし続けるミラーリングのような管理にはなっていないのだ。保存、つまりセーブするのは任意のタイミングであり、武藤がセーブしようと思った瞬間である。
この魔法を使うとき、武藤は大抵直前に記憶のセーブを行う。そうすれば、そこまでの経緯を戻した本人に説明する必要がないからである。今回ももちろん戻す直前に記憶のセーブをしてある。
「それじゃ、ほいっ」
「!?」
武藤は徐にパチンと指を鳴らした。ちなみにこの指を鳴らすという行動に意味はない。ただ周りに知らせる合図のようなものである。
「あら? 女性の体に戻りましたわね」
ここで漸く皇は自身のおかれた状況を思い出した。
「折角、男として生きていこうと覚悟を決めていましたのに……」
「覚悟決めるのはええよ!?」
あの一瞬で覚悟を決めていたと聞いてさすがの武藤も驚く、覚悟決まりすぎだろうと。
「皇は決断が速いのですわ!! 知美を襲った後に武藤君も襲うつもりでしたわ!!」
「あのままいたら私は綺羅里ちゃんに襲われていたのね……」
実は貞操の危機だったことに気づき、さしもの松井の顔も青ざめていた。
「よかった……女に戻して本当に良かった」
いくら元が美女とはいえ、男になった奴に襲われる趣味は武藤にはないのである。
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