第136話 カップル

「ええっ!? お城に行けるのデス?」


 拠点に戻り報告すると、何故か普段一番静かなクリスがいの一番に叫んだ。

 

「お城か……確かに1度見てみたいねえ」 

 

「行けるのは私達武藤の恋人だけ?」


「後宮に泊まる予定だからそのつもり」


 朝陽の言葉に百合が同意する。


「ずるいですわ!!」


「私達も見てみたいよね」


 しかし、その言葉に皇と松井が反発した。

 

「でも3人は恋人ってわけじゃないし……」


「武藤君なんで私に手をだしませんの!!」


「え……」


 百合の言葉に反応した皇の言葉に武藤は言葉に詰まる。


「私にも手を出してくれてもいいのよ?」


「ええ……」


 そして松井の言葉で言葉を失い。


「わ、私でも良ければ――」


「城に行きたいだけでそこまで……」


「そんなわけないでしょ!!」


 武藤の見当違いの言葉に加賀美が叫ぶ。


「貴方は私に相応しい男。それだけのことですわ」


「綺羅里ちゃんずるい!! ねえ、武藤君、私どうかな? 結構スタイルいいと思うんだけど……」


 豊満な胸の下で腕を組み、松井は自身の強大な胸部装甲を強調する。以前はやや太ましいという感じの方が強めだったが、お腹がへこみ腰がぎゅっとしまった為、まだ女子高生でありながら松井はエウノミア並みの凄まじいスタイルとなっていた。

 

「……」


「大ちゃん?」


「浩一?」


 その真由をも超える強大なそれに武藤だけでなく、吉田と光瀬も生唾を飲み込むが、それぞれの隣にいる岩重と佐藤に腕をつねられていた。

 

「……」


 その光景を見て慎ましやかな胸の加賀美が自身の胸を触りながら絶望した表情をしている。


「胸の大きさなんて気にしない方がいい。それにいつでも大きくできるぞ?」


「ほんと!?」


「ああ。でも加賀美はそのままの方がいいな」


「え?」


「今のままの方が加賀美は肉体的にバランスがいいから、胸が大きくなると不自然な感じになりそう」


 元々真由よりも背が低い加賀美の胸が大きくなると、真由を超える歪な体型になってしまう。それはそれでドエロいのだが、一部の趣向の人を呼び寄せる危険性もはらんでいる。


「でも……」


「加賀美には加賀美の魅力がある。外面だけで寄ってくる相手は相手の内面なんて見ないから碌な奴がいないぞ」


「それは確かにそうですわね。真凛の良いいところは私達が一番よく知っていますわ」


「そうそう、大体こんなものあっても邪魔なだけだから」


「!? これかっ!! これのことか!! 邪魔ならよこせ!!」


「あんっやめて真凛ちゃん!! あっ」


 そんなつもりはないのだろうが、明らかな挑発ともとれる松井の行動に加賀美は思わず松井の胸を乱暴に揉みしだいた。いいことを言ったはずの皇の言葉は完全にスルーされていた。


「おおっ!! って痛っ!?」


「大ちゃん?」


「浩一?」


「俺は何も言ってないだろ!?」


 松井達のじゃれ合う姿に興奮する男2人。それに嫉妬して隣にいる陰キャ女子2人がつい男どもをつねってしまう。明らかに彼氏に対する反応である。

 

「まさかお前達……」


「いや、あはははは」


「いや、その……」


 武藤の言葉に陰キャグループの4人が顔を赤らめて武藤から視線をそらした。

 

「昨日の夜は2組ともお盛んなようだったしねえ」


「えっまさか聞こえ「浩一!!」」


「な、なんで知っ「大ちゃん!!」」


「おや、やはりそうだったかい。大丈夫。こちらには全く聞こえてこなかったよ」


「「!?」」


 どうやら香苗にカマをかけられたらしい。吉田と光瀬はまんまとそれに引っかかった。ちなみに吉田の本名は吉田大輔、光瀬の本名は光瀬浩一である。その為、岩重は吉田を大ちゃんと呼び、佐藤は光瀬を浩一と呼んでいるようだ。

 

「どうみても君達付き合いたてのカップルじゃないか。まさかすぐにそういう関係にまで発展するとは思わなかったけどねえ」


 どう考えても武藤達のせいである。夜な夜なあんな声を聴かされ続ければ、リビドーあふれる高校生なら過ちを犯してもおかしくはないだろう。


「お前ら……まさか生で――あっ!!」


 途中まで言って武藤は香苗に視線を向ける。香苗はにこりとほほ笑んでいた。実は昨日香苗に頼まれて魔法の避妊薬を渡していたのである。他のクラスメイトの女子達が男子生徒に襲われていた場合の為に必要なのかと思っていたのだが、まさかの陰キャグループの為だったのだ。

 

「香苗?」


「私は何もしてないよ? ただ、岩重さん達にはいい男は早く手に入れないと、誰かにとられるというようなアドバイスはしたし、岩重さんも佐藤さんもすごく可愛くなったから男が放って置かないだろうねえと、吉田君たちにもアドバイスはしたけどねえ」


 陰キャグループの行動は完全に香苗の掌の上であった。

 

「まあ、見ていてもどかしかったというのが一番の理由かねえ」


 他のメンバーから見ても陰キャの4人はどうみても2組のカップルにしか見えなかったから、正式にくっつくのは今更かという感じではあった。

 

「ということは、まさかここのメンバーで恋人がいないのは私達3人だけということですの!?」

 

「えっでも私達は実質武藤君の女じゃないの?」


「それもそうですわね」


「なんでだよ!?」


 いきなり既成事実を歪めて広めようとする松井達にさすがの武藤も驚いて突っ込んだ。

 

「やっぱり私には魅力がないのかな……」


「!? 違うぞ? 加賀美も皇も松井もすごく魅力的だぞ? ただよく知りもしないのに手を出すなんてことはしたくないだけで……」


 昨日5年ぶりにあったばかりの3人を気絶させるまで犯した男の言葉である。

 

「なら恋人にしてくださいまし!!」


「だが断る」


「!?」


 地球のしかも同じ学校だけで既に9人も恋人がいるのである。武藤としてはさすがにこれ以上地球での嫁は増やしたくなかった。しかもこちらの異世界でも現地妻のような感じで既に3人手を出している。恋人だけで野球どころかサッカーのチームが作れてしまうのだ。

 

 武藤は地球人の恋人は1桁までという謎の倫理感を持っている為、これ以上地球では女性に手を出さないように気を付けていた。そして皇達に手を出さない一番の理由は、小鳥遊弥生というVtuberの恋人に手を出していないからである。

 

 先に恋人になっているにも関わらず例え恋人になったとしても皇達に先に手を出すのは、いくら武藤といえでも憚られたのだ。じゃあ女王達に手を出すなよという話であるが、異世界はそもそも手を出していい世界・・・・・・・・・なのである。そしてリイズ達は小鳥遊よりも先に知り合っており、さらにその女性の側からのお願いである為、武藤からすれば順番通りである為、問題ないのだ。

 

 ちなみにこれでも武藤はリイズ達に手を出すことなど万に一つもないと自信を持っていた。その結果は秒で落ちるというまさに即落ち2コマであったが。これは武藤にかかっていた女神の力を打ち消したことによる反動の強さと、リイズ達が昔からの知り合いでもあり、既に身内という扱いであったが為の結果である。だがこれによって武藤の異世界での精神的なタガが外れかけていることに誰も気がついてはいなかった。



「2組のカーストトップ3の美少女を総なめとか、さすが武藤さんはパねえな!!」


「武藤さんさすがっす!! 肩おもみしましょうか?」


「おまえら洗濯板後100枚な」


「「やめろおおおおおお!!」」


「あれ作るのすげえ大変なんだぞ!!」


「掘っても掘っても進まない、まるで賽の河原なんだぞ!!」


 既に2枚作れているが、それでも作成に丸々2日近くかかっているのだ。ノイローゼになりそうになりながらなんとか作れたが、小刀で板を延々と掘り続けるという地味な作業は精神的にかなりきつい。これ以上続ければ間違いなく精神を病んでいただろう。

 

「では恋人候補としてならどうでしょう? 宿泊せずに見学したらすぐ帰るということなら?」


「それならいいかなあ」


 だれかに目をつけられたとしても、2度と会わなければ利用しようにもできない。それに候補なので手を出す相手ではないし、泊まることも無ければ物理的に手をだすこともないはずだ。武藤はそう考えて気軽にOKした。まずは肩書からでも徐々に距離感を近づけていき、気が付けば逃れられないように外堀を埋めようとしている3人の作戦だとは全く気が付かないままに。

 

 武藤はなんだかんだと情に熱く、面倒見もいい責任感のある男である。既成事実さえ作ってしまえば裏切らない限り何人いようとも平等に愛されることは、現状の恋人達を見ればすぐに理解できる。寧ろ夜の声を聞く限り現在拠点にいる5人でも全然余裕があることから、今なら自分達が加わる余地が十二分にあると確信した3人は、この隙を逃さないとばかりに作戦を練っていたのである。

 

 ちなみにこれには百合達5人も加わっている。百合達としては肉体関係の順番などは特に気にしていない為、この3人が小鳥遊よりも先に関係を持ってもいいと思っている。数日付き合えば、この3人が悪い子達ではないということがわかったし、なにより命を助けられたこの3人は武藤に非常に強い恋心を抱いているのが百合達にはわかっているからだ。

 

 単なる吊り橋効果なのかもしれないが、実は自然に近い場所にいることにより、本能的に優秀な雄を見分けたということも考えられる。教室では武藤は吉田達以外には気配を消していたために、普通では気が付かないのも無理はない。ここにきて武藤と直接関わることでその本質を見抜いたということも十分考えられた。そうでなければ、助けたといってもあそこまで武藤にすり寄っていく理由がない。

 距離感さえ間違えなければ、一度関われば武藤は女性を簡単に見捨てるようなことはしないことはわかっている。だから見捨てられる不安よりもなによりも武藤に積極的に迫る姿勢は、本当に武藤に対して心を許していると女には理解できるのだ。


 幸いにも皇達は自分だけを愛して欲しいという独占欲のようなものは見せていない。元々いつも3人で行動しているからか、3人で武藤を共有すればいつまでも一緒に居られるという感覚のようだ。それはつまり武藤のハーレムに入っても別に問題ないということでもあった。何せ自分達も百合派、美紀派、クリス派のように別れているように見られるからである。実際には武藤の恋人達は全くギスギスしておらず、全員非常に仲がいい。特に美紀と百合は偶にライバルのようにいがみ合っているかのように見える時もあるが、単にじゃれあっているだけで、普段は普通に買い物に行ったりお茶したりと非常に仲が良かったりする。

 

 一番問題があると思われた朝陽達斎藤姉妹ですらメンバーは受け入れており、あまり接点がない弥生のみがまだ若干この関係に慣れていないという感じである。そんな感じなので皇達3人が加わったところでこのハーレムには何の問題もないのであった。

 

(力はあっても困ることはないからねえ)


 香苗は皇の家の力を知っている為、武藤に取り込むために動いていた。隠すにしろ公にするにしろ、武藤の背景に力は有ればあるほどいいのである。動いていたとはいっても実際は皇を武藤に勧めたという訳ではなく、単に邪魔をしなかったというだけである。

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