第135話 王家の守護者

 気が付けば朝だった。勿論ベッドは大惨事である。ちなみに未だに武藤は腰を振り続けており、下ではディケがハイライトの消えた瞳で喘いでいる。他の3人はつい先ほどまでエウノミアが頑張っていたが力尽きた。残り2人については早々に気絶である。これは武藤が避妊をせずにする行為に興奮してしまった為、本気でがんばった結果である。もちろん百合に避妊魔法はかけてあるが、残りの3人にはかけないことを約束している。何せリイズとのこれは快楽の為ではなく、本当に子作りのための行為だからだ。


 ちなみにディケとエウノミアについては妊娠する心配がないとのことなので問題はない。武藤はすぐに見抜いていたが、この2人は正確には人ではないのである。まだリイズにも言っていないようなのであえて武藤からは何も言っていないし、聞いてもいない。ただリイズを守る為にこの2人がいることは間違いないので、あえてそこは聞かなかったのだ。だが行為は別である。人ではないとはいえ体は人そのものである。それも超がつく極上の。とんでもない美人でありながらドエロい体をしており、感度も凄まじいまさに男の理想を体現したかのような体である。まだ15歳の男子高生にその魅力に抗える術はなかった。


 これが武藤に全くかかわりがないのなら武藤も手を出すことは憚られただろう。だが関係者であり、昔からの知り合いである。信頼のある超絶美人のお姉さんからの誘惑なんぞなかなか抗えるものではない。しかも女神からの呪縛が解かれた結果、武藤はその反動で今までなかった女性への興味がかなり増しているのである。表立ってそこまではその効果が表れてはいなかったが、女神の影響の強い異世界に来た結果、その効果がかなりあがっているのだ。むしろ皇達を襲わなかったことが奇跡的なほどである。皇達3人がベッドに紛れ込んでいたら間違いなく手を出していただろう。

 



「な、なんか股の間に異物感が……」


「大丈夫リイズちゃん?」


 朝食中、もぞもぞと椅子に座ってしているリイズに百合が心配して声をかける。

 

「初めての時はそんなものよ。直に慣れるわ」


 あれだけ乱れていたベッドもディケとエウノミアにかかれば、まさにあっという間に昨日の惨状が嘘のように綺麗にされていた。快楽の海におぼれたリイズと百合が意識を取り戻すのに時間はかかったが、2人共何とか持ち直し、朝食をとっている。

 

「でもあれが男の人なのね……」


「どうだったリイズちゃん?」


「すごかった……気持ちよすぎて訳がわからないうちに意識がなくなって……」


「武相手ならそんなものよ。意識を最後まで保てる人なんてそうそういないわよ」


「私達ですら気絶しましたからね。あれは人では無理でしょう」


「あれは無理」


「ですらって貴方達経験あるの?」


「あるわけないじゃないですか」


「まごうことなき処女だった。これで女になった、ブイ」


 そういってエウノミアはピースする。

 

「じゃあですらってなによ」


「私達は正確には人ではありませんからね」


「え?」


「人は人でも人じゃない。なーんだ?」


 まるでなぞなぞでも出すかのようにエウノミアが言うが、リイズとしては何を言われているのかわかったいないようだった。

 

「私達はこの地を守る者。今はこの王家で王に相応しいものを守る存在です」 

 

「王の守護者。キリッ」


「え? な、なんで――」


「何故姫様についていたかといえば、勿論姫様が一番王に相応しい方だったからです」


「姫様やるう」


「わ、私なんかが……」


「私達は今回の勇者召喚がおかしかったのはすぐに気が付いていました」


「あの勇者はポンコツだった」


 恐らく吉田のことだろうとその場の全員が理解していた。

 

「勇者のスキルはあれどあれは一般人の域をでない愚物。そして追い出された方は逆でまさに怪物の片鱗を漂わせていた一般人。姫様だけが武藤様を気にされてました」


「すぐに追いかけて位置を見張らせてた」


「あっ!? だから勇者召喚の後に私に付いたのね!!」


「そうです」


「そう」


 それまでは専属の侍従なぞおらず、日ごとに暇な人が交代で身の回りの世話を最低限だけされている感じだった。だが、勇者召喚が終わった後、専属としてこの2人がついたのだ。リイズとしても常々不思議に思っていたことだった。


「私達の存在は王にだけ代々伝わっていますので、あまり知られてはいません」


「王様も逆らえない陰の支配者」


 あまりの出来事にリイズは若干放心していたが、すぐに意識を切り替えたようで考え込んでいた。

 

「何故今まで言わなかったの?」


「聞かれませんでしたから」


「知らないんだから聞けるわけないでしょ!!」


「冗談です。王にだけ知らされてると先ほどいいましたが、それ以外にも条件があります」


「お子様には無理」


「それって……!?」 


「そう。伴侶となる相手と結ばれた時です」


「大人の階段ってなんかえっち」


 つまり昨夜の一件で条件を満たしたということなのだろう。リイズは昨夜のことを鮮明に思い出し、顔を真っ赤にしてしまう。

 

「それで貴方達は具体的にどういう存在なの?」


「この地に人の安寧を築く存在を守護すること」


「だから血にはこだわらない」


「愚王であれば警告は出しますが、従わない場合は私達が処分します」


「警告の美女」


 ふふんとドヤ顔をするエウノミアにリイズのコメカミに青い筋が浮かび上がるが、なんとかリイズは抑えたようだ。

 

「でも……その……き、昨日勇者様とその……」


「はい。初めて女として、とても濃密な時間を過ごさせていただきました」


「脱処女宣言」


「それってどうなの? 人じゃないんでしょ?」


「体は人そのものです。ただ、不老のスキルがあるお陰で病気にもなりませんし、子供もできません」


「中だしし放題」


 実際に体は人そのものであるが、肉体的に時間の進みが限りなく遅い状態に近いのである。


「それでなんで急に……その……」


「私達の持つスキルは非常に強力ですが欠点もあります」


「魔力が必要」


「魔力?」


「ええ。単なる魔力では無理です。並の魔力では私達の方が強い為、流れてきません。魔石ならかなり大きなものでなければ補充できないでしょう」


「勇者の魔力は異常」


 水圧のようなものと考えるとわかる。圧力が弱い方から強い方に流すのは基本的に無理なのである。

 

「長年城にため込んでいた魔石もなくなり、どうしようかと途方にくれておりました」


「勇者の絶倫は世界を救う」


 ちなみに本当はこの2人は武藤が持つ人造の魔石を貰うつもりだった。その為に体で篭絡しようとしたのだが、武藤から吸収した精子が思いのほか魔力が強く、しかも普通に魔石から接種するよりもかなり早い。そして何倍も効率的に摂取できた為、手段と目的が同じになり、そのまま作戦を変更したのである。

 


「子供はできませんのでいくらして頂いても大丈夫です。そうすれば姫様の子孫も私達でお守りできます」

 

「都合の良いセフレ


「うーん、まあ問題ないわね」


「ないんかい!!」


 あっさりと了承したリイズに武藤が思わず突っ込んだ。

 

「本当は同時に子供を作ってもらって子供の乳母になって欲しいんだけど、できなければできないで何の問題もないわ。それに王家の守護者が子供も引き続き守ってくれるというのならこれ以上いい案はないわね。あっ勇者様、城に居る侍従は誰でも手を出しちゃっていいから」 


「誰でもて……俺どんな獣だと思われてるの?」


「実際、勇者様は獣ですけど?」


「性の獣と書いて性獣」


「!?」


 まさか異世界でも同じあだ名が付けられて武藤は驚愕した。


「やめてといっても全くやめてくれませんでしたし」


「テクニシャンで獣で性豪は手に負えない」


 ディケとエウノミアに好き放題言われているが、全くの事実のため武藤は反論できなかった。


「できれば無理矢理はやめてほしいけど、子どもの乳母が欲しいから誘われたらガンガンやっちゃって」


「それって前の勇者といっしょなんじゃ……」


「あのポンコツは人妻だろうと婚約者のいる娘だろうと見境なく無理矢理襲ってたから……」


「マジか……」


 思わぬところで吉田の悪行が判明した。武藤は百合へと視線を向けると、呆れた表情で頷いていた。事実らしい。


「弘君は勇者は何してもいいって本当に好き勝手してたの」


「それを父上達が容認していたせいで涙をのんだ侍従や令嬢の多いこと多いこと。一応私の方である程度の補償はしておいたからそこまで大きな問題にはなってないけど、あれで王家の威信は地に落ちたわね」


「逆にあれのおかげで城に居る侍従達の姫様への信頼度と忠誠は凄まじいことになりましたからね。何しろ王族で唯一襲われた侍従や令嬢を気にかけてくれた存在ですから。そしてその姫様がしきりに立てる勇者様はさらにすごい人気です。恐らくひっきりなしにお誘いが来るでしょう」


「下着をはく暇もなくなる」


「……マジか」


 武藤としては嫁達だけでもとんでもないことになっているのに、さらに肉体的関係を持つ女性が増えるのはさすがにやばいどころではない。


「あのポンコツとは違って、勇者様は自分からは絶対襲わないだろうから、その辺は安心してるわ。あのポンコツは本当にどうしようもなかったから……」


「当時1桁の姫様にまで手を出そうとしてましたからね」


「適当にボコって捨てといた」


 さすがにリイズはアウトだったらしく、この侍従コンビにボコされたらしい。王様公認で吉田は本当に好き放題していたようだ。それでさすがに付き合いきれなくなった百合は吉田を見捨ててリイズと協力して武藤を探す旅に出たそうだ。その途中で吉田が死んでしまった為、新たに勇者として武藤を擁立するという話を当時の国王にディケが進言してねじ込んだというのが、武藤が勇者になった原因のようである。


 

「百合お姉様はいいの?」


「ん? 私? こっちの世界ではリイズちゃんが第一夫人の立場なら何人いようと全然問題ないよ。向こうでも既に9人も嫁候補がいるしね」


「9人!? あれ? でも向こうって確か……」


「基本的に嫁は1人だね。でも武なら普通に養えるから」


「ああ、なるほど。あくまで制度だけの問題なのね」


 あくまで結婚できるのが1人だけで、別に養ってはいけないという訳ではないのだ。異世界でも貴族は普通に外で妾を囲っているような話はいくらでもある為、リイズは直ぐに理解した。

 

「ならなにも問題ないわね。ディケ、エウノミア。これからもよろしくね」


「ありがとうございます姫様」


「毎晩5人でくんずほぐれつ」


 エウノミアは拳をにぎりつつ前に突き出し、親指を人差し指と中指の間に出し入れしていた。


「あーそうなると香苗たちどうしよう?」


「香苗?」


「そういえば詳しい話をしてなかったな」


 そうして武藤はこちらにきた経緯をリイズ達に話した。

 

「ええっ!? 100人近く来てるの!?」 

   

 さすがのリイズも驚いた。まさか武藤と百合だけでなく、全く関係ない子供が100人近くもこちらの世界に来ているというのだ。

 

「召喚の儀式もなしに一体どうやって……」


「儀式だとしても魔力がどうやっても足りませんよ」


「特大の魔石がてんこもり必要」


 武藤達の言葉にリイズ達は3人共考え込んでしまった。

 

「それでその人たちはどうしてるの?」


「竜のねぐらの向こうで野生に帰ってる」


「!? あ、あんなところで!?」 

 

「……人が生きていけるのですか?」


 竜のねぐらとは、この国というかこの大陸でも有名な場所であり、麓ですら人が入れない危険地域である。武藤達が見た高く連なる山々がまさにその場所だった。

 

「あの山の向こう側は逆に安全地帯みたいになってたんだよ。ぽっかり空いた穴みたいな感じで。下手したらあそこだけ太古のままの環境なのかもしれない」


「!?」


「それは……貴重な素材や生物が残っていそうですね」 


「古代のロマン」

 

「非常に興味があるけど、そんなところに行くのは命がいくつあっても足りないわね。情報としてだけは残しておきましょう」


 いくら貴重な素材があるかもしれないとはいえ、一般人が言って帰ってくるのはほぼ不可能な場所だからだ。無駄に情報を公開したとしても無駄な死体を増やすだけである。

 

「それでその人たちはどうするの?」


「寧ろこっちより安全だと思ってるからそのままかな」


「確かにその通りかもしれませんね」


「人を一番殺すのは魔獣ではなく同じ人」


 エウノミアの辛辣な言葉にリイズも思わず苦笑する。そのドロドロの真っただ中で生き残ったのが自分だからだ。

 

「リイズちゃんはその……お兄さん達を……」


「殺してないわよ?」


「姫様は直接手を下されてはいません」 

 

「勝手に死んだ」


「え?」


 リイズは兄弟間が疑心暗鬼になるように仕向けた。その結果、血みどろの暗殺の応酬となり、気が付けば自分以外が全滅してしまっていたのだ。結果的には直接手を下していない。火種を撒いただけである。自分の手を汚さずに処分する分、余程悪辣なのだが、あえてそのことは言わないのがリイズらしかった。武藤はといえばもちろん気が付いていた。そもそもそういうやり方を教えた本人だからである。

 

「まさか姉様達まで亡くなるなんて思わなかったけど」


 権力を握った後に他国に嫁がせようとしていた姉達まで全滅してしまったのはリイズの想定外だった。今となっては逆にその方がよかったのだが。何せ権力が強くなりすぎてしまった為、どこか数国とつながりが強くなれば国家間の微妙なバランスが崩れてしまうからだ。

 

「その香苗って人達とは1度会ってみたいわね。後宮になってるところに勇者様の恋人達だけ連れてきたらどう?」


 現在女王になってしまった為、後宮は使われていない。王妃達はどうしたのか? 王妃達はそもそも王家の血は流れていないのである。そして王がいない以上、後宮にとどまる理由もないので追い出される……のだが今回はそんなことをしていない。何故なら既に全員亡くなっているからだ。ちなみにこれはリイズとは関係なく、元々仲が悪かった王妃同士が勝手に殺し合って相打ちになっただけである。

 

「1回聞いてみるね。すぐに連れてきていいの?」


「いいわよ。いつでも使えるようにはしてあるから」


 リイズは日々、武藤がいつ帰ってきてもいいように準備はしてあった。自分以外にも多くの勇者の血を残したいので、側室をかなり多めに許可するつもりであった為、今でも後宮の手入れは続けていたのである。普通は王配が他の女にうつつを抜かせばただの不倫であるが、女王であるリイズが認めている為、この国では問題がない。何せ女王が君臨したことがこの国の歴史上存在しない為、ルールがそもそもない以上、リイズの好き放題できるのである。。

 

「それじゃ一旦戻って話をしてきましょう」


 武藤は当人のはずなのに全く蚊帳の外のまま百合を連れて拠点へと戻った。

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