第130話 2日目

「だからさあ」


 翌朝。リビングで出会うなり開口一番吉田が愚痴りだした。

 

「どうした吉田? 寝不足か? やっぱり枕が――」


「枕とかそういう問題じゃねえだろっ!! 2日目だぞ!! お前性の獣なの? 性獣なの!?」


 そう。昨日、昼間に散々やりまくったのにも関わらず、結局昨夜も一晩中武藤ハーレムは盛っていたのだ。

 

「さすがに少し自重していただきたいところですけれど……」


「そもそもこの拠点自身が全部武藤君が作ったものだしねえ」


「食事もそうだよ。だから居候である私達がとやかくいうのはちょっと……」


 遠慮なく文句を言う吉田達と違い皇一派はあえて提言を避けた。追い出されたら行くところがないからだ。

 

「ぐ……確かにそこはその通りだ。だが文句の一つは言ったっていいだろう!! あんな美少女達相手に……」


「そうだそうだ!! うらやましいにも程があるだろ!!」


 結局は欲望が駄々洩れる吉田、光瀬の2人だった。

 

「本当にうらやましいか?」 


「当たり前だろ!!」


「1日10回以上出すとしても?」


「え?」


「それを毎日だとしても?」


「……すみませんでした!!」


「無理無理無理!!」


 吉田達も一晩中とは知っていてもまさかそこまで回数をしているとは想像していなかった。

 

「3回でもきついだろ」


「それを毎日10回て……1日で腎虚で死ぬわ!!」


「ハーレムって大変なんだよ……」


 虚空を見てしみじみと呟く武藤にさすがの吉田達も声をかけることができなかった。

 

 


「それで朝食なんだが、昨日、夜寝る時に大豆を水に戻してある」


「大豆?」


「ああ、乾燥大豆だ。北海道産が1kg500円もしなかったんで大量に買いだめしてある。まあ水で戻したりアクとりしたりで手間暇かかるんだけどその分安いんでな」


「それが朝食?」


「これから火にかけて好みの柔らかさになるまで煮込む必要がある。1時間はみた方がいいな」


「1時間!? そんなに!?」


「ライターあるから火はすぐ付けられるだろうけど、弱火にしないといけないんで一生懸命調整してくれ」


「この竈でどうやって弱火作るんだよ!!」 

 

「木の位置と量で調整するんだよ。まあがんばれ」


「お前はどうするんだ?」


「訓練所と洗濯物干す場所を作る。まあ朝昼兼用のスープと思って作ってくれ」


 今までの食材が全て武藤の提供である以上、吉田達も文句は言えない。食材はまだ豊富にあるにはあるが、いつまでここでの生活が続くのかわからないのだ。質素な食事や料理も経験しておく必要がある。武藤が暗にそう言っているのをメンバーはすぐに察した。

 

「アクとりは女子に任せて吉田達は洗濯板の続きを掘れば?」


「わかった」


 吉田と光瀬の二人は昨日からずっと武藤提供のナイフで必死に板を削っていた。彫刻刀ですらきつい作業なのに単なる小刀で掘っているのである。時間がかかるのも当然であった。

 

「それでは私達が豆を煮ることにしますわ」


「アクとりが終わったらどうするの?」


「百合を起こして味付けをしてもらってブランチとして食べよう」


「わかったわ」


 武藤の言葉に皇一派の3人と陰キャグループ女子二人が頷く。ちなみに今朝は香苗も起きてきていない。

 

 その後、武藤が訓練所と物干し場を作り終える頃、漸く恋人達が風呂あがりの姿を見せた。

 

「山本さん、さっそくですがこちらに来て下さる?」


 百合は起きるなり皇に連れられ豆のチェックと味見をさせられ、武藤から貰った調味料でスープの味を調えていった。ちなみに早起き組はアクとりと発電を交互にしており、薬をもらった2人はまだ薬を飲んでいないようだった。

 

「食べてからじゃないと力が出ないだろうから」


 概ね二人の意見は同じだった。

 

「遅くなってすまないねえ。その代わり夕食の準備と午後からの発電作業は私達が行うことにしよう」

 

 起きてくる時間的に武藤の恋人達5人とその他の5人でちょうど仕事の時間が別れるようになった。体調等も考慮してその辺りはうまく調整していくことになるだろう。

 

 気が付けば昼になり、全員で出来上がった煮豆を食べることになった。

 

「美味しい!!」


「豆と昆布しか入っていないのにおいしいですわ」


 ちなみに煮る時に武藤が乾燥昆布を入れている。 

 

「こんなに大量に作ったことないから心配だったけどなんとかなったわね」


 百合が安堵の息を漏らす。寸胴でしかもキロ単位で煮豆なんて普通は作らない。 

 

 結局大量に作ったものの、全員お代わりをして結局、大量に作った煮豆は全て食い尽くされることとなった。

 

「武君夕食はどうするんだい?」


「ナンでも作るか」


「え? バターやドライイーストあるの?」


「あるよ。あっ冷蔵庫置いておくか」


「……電力どうするんだ?」 

  

 武藤の一言に吉田が恐る恐る尋ねる。冷蔵庫は止まったら終わりなのだ。常に電力を確保する必要がある。つまり下手したら夜中も延々と発電する必要が出てくるのだ。

 

「電力満タンで3日以上は持つし、予備の電源もあるからそっちは大丈夫。こっちのはスマホに回していい」


 武藤の言葉に武藤以外の全員が安堵した。

 

「よかった。ハムスター一直線かと思ったぜ」


「永遠に滑車回すことにならずに安心した」


 滑車を回し続けるハムスターのように同じ作業を延々と繰り返すことをとあるゲーム界隈ではハムると呼ばれていた。延々とペダルをこぎ続ける様はまさにそれである。

 

「それじゃ今から仕込みをしておこうか」 

 

「私達は発電にまわるね」


 百合、香苗、クリスは調理班に周り、朝陽と月夜は発電班に回る。まさに適材適所である。

 

「じゃあ俺達も作業に戻るか」


「おう」


 そして吉田達は再び洗濯板作成へと戻る。

 

「私達も交代で発電に回りましょう」


「OK」


「わかった」


 皇達5人も発電班に加わる。無党派といえば、寝室から階段を作って上の階に冷蔵庫を置く場所を作った。そしてさらに通路を作り、日当たりのいい場所を作る。

 

「ずっと晴れてれば人力発電なんていらないんだけどな」


 武藤はその場所にソーラーパネルを設置する。これは約3時間程の充電で今まさにみんなが漕いで溜めている発電機を満タンにすることが可能なものである。これがあればぶっちゃけ人力発電はしなくてもいいのだが、ただ暇を持て余すという状況も問題になると思い、武藤は人力発電を提案したのである。ただそこにいるだけなら無駄飯くらいと変わらないのだ。日本人はそういうのを本質的に嫌う為、ここにいることに後ろめたさを感じさせなくさせるのに必要な仕事というわけである。これは思いのほか上手くいっており、力のない女子生徒でもできる仕事であり、尚且つみんなで出来る仕事でもある為、あまり交流がなかった者達でも連帯感も生まれてきている。武藤の判断としては今の人数が、その辺りのことを維持できるギリギリの人数だ。これ以上増えると、間違いなく反発する者が発生すると武藤は睨んでいる。あくまで武藤の勘であるが、こういう時の勘を武藤は外したことはない。

 

 その後、武藤は冷蔵庫にバターやら牛乳やらを適当に入れておいた。ちなみに賞味期限は去年のものである。異空間に保持してあった為、時間経過していないので安全のはずである。そもそも武藤は牛乳が嫌いなので味などで確認ができない為、後は調理する人に任せるつもりだ。

 

 

「武藤、竿の軸はどうする?」


「3分の1くらい埋まるくらいの穴開ける」


「OK」


 武藤が作った物干し場に吉田と光瀬が物干し竿用の竹を立てる。上部には切れ目があり、Yの字方になるように小さな竹が括りつけられている。そこに長い竹を乗せて物干し台の完成である。

 

「ハンガーはないのか?」


「あっ」


「ないんかーい!!」


 さすがの武藤もハンガーまでは収納していなかった。自分だけなら魔法で服を綺麗にできるので、洗濯等する必要がないのだ。そんなこともあって、勿論洗濯用洗剤等もない。

  

「石鹸で洗ってそのままひっかけるか竿を通して干すしかないか」


「洗濯ばさみもハンガーもないならそうなるな」


「乾きにくいかもしれんが、ないよりはましだろう」


 武藤達男子生徒は衣服には基本的に無頓着だった。

 

「でも物干し場はもう1つ作った方がよくないか?」 

 

「なんで?」


「さすがに俺達と女子のものを一緒に干すのはまずくないか?」


「ああ、お前らも洗濯するつもりだったのか」 

  

「いや、ぶっちゃけ着替えなんぞなくても全然平気なんだけど……」


「さすがに女子達に嫌がられないか?」


「……その可能性もあるな。お前らの部屋の方にもう1つ作ろう」


 そうして物干し場は男子用と女子用で2か所作られた。



(少し時間があるな)


「ちょっと出かけてくる」


「どこへ?」


「あの山の向こう」


 お昼過ぎ。武藤はそう言い残して凄まじく高い山へと向かった。

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