第128話 秘薬

「ただいまー」


 その後、薪と湖の近くで見つけた竹等を集めて武藤達一行は拠点に戻った。 

  

「ぐううっ」


「がんばってクリスちゃん!!」


「だめですぅ」


 案の定、クリスはロープを上れなかった。結局岩重と同じように武藤にキャッチされて上まで運ばれることとなった。  

「岩重と一緒に特訓だな」


「がんばるますデス!!」


 フンスと気合を入れるクリスの姿はまさしく天使と呼べるように可愛かった。

 

「おおっ竹だ!!」


 武藤が持ってきた竹を見て吉田が叫ぶ。

 

「干す場所はどうするんだ?」


「入り口から横に通路を作って干す専用の広場を作ろうかと」


「了解。じゃあ先にこっちで竿を作っておく」


 そういって吉田と光瀬は竹を数本持って入口の方へ去っていった。入り口付近の高台近くは完全に吉田達の作業場となっていた。元々入り口とはいってもそこから誰も出入りすることはなく、ただ明るくて広いので寧ろ最初から作業場といった方がいいような場所ではあった。

 

「武藤君。これ全然電気たまらないんですけど?」


「一定以上の速度を保たないとたまらないぞ?」


「なんですって!? まだ遅いというの!?」


 武藤の指摘に皇が崩れ落ちた。そもそもお嬢様である皇は殆ど自転車なんぞ乗ったことがないのだ。その為、非常にのんびりとした速度でクランクを回していた。

 

「ほらっだから言ったじゃん。それなりに速く回さないと駄目だって武藤君言ってたって」


「それなりがわからなかったんですの!!」


「まあ、綺羅里ちゃんはそもそも自転車乗らないからね。乗れたっけ?」


「乗れますわ!! 馬鹿にしないでくださいまし!!」


 ちなみに皇は幼い頃に数度乗ったことがあるだけなので、現在は乗ってもコーナーで曲がれずに転ぶ可能性が非常に高かったりする。

 

「これ結構なダイエットになるよね」


「結構っていうかかなり疲れない?」


 加賀美の視線は倒れこんでいる岩重と佐藤に向いていた。

 

「ひぃひぃ」


「これは……疲れ……ます」


 二人とも息も絶え絶えであった。インドア派の筆頭ともいえば、その運動不足たるや相当なものなのだろう。

 

「そうだ。いいものがあるぞ」


 そういって武藤が取り出したのは1つの小瓶だった。

 

「なんですのそれ?」


「これは努力が努力として実りやすい薬だ」


「……全くわかりませんわ?」


「簡単に言うと、これは飲んだ後に1時間だけ効果が出る薬だ。その効果は……」


「効果は?」


「運動した結果、消費される脂肪の優先順位をある程度自分で決められる薬だ」


「?? どういうことですの?」


「例えば今の自転車で発電するだろ? 普通運動してる部分て足じゃん?」


「まあそうですわね」


「これを飲んでお腹の脂肪よ減ろーって思いながらやると、何故かお腹の脂肪から減っていく」


「!?」


「全く腕を使ってなくても二の腕の脂肪減ろと願うと何故かそこの脂肪から減っていく。しかも減りすぎないし、体調が悪くならない自動制御付き」


「!?」


「さらにさらに、ものすごく脂肪燃焼効果があがるおまけつきだ。下手な運動を1か月するよりこれ飲んで1時間運動する方が効果が高い」


「な、なんですって……」


 ちなみにこんな苦労をしなくても武藤は普通に痩せ薬とか持っていたりする。ただ特定の部位だけを痩せさせるわけではない為、ただ痩せたいだけではないのならこちらの薬の方が有用なのだ。特にやせ薬は女性の場合、胸から痩せる場合が多い為、武藤としてはあまりおすすめはしたくなかった。

 

「今ならこのお薬がなんと……」


「お、おいくらですの?」


「無料でご提供いたします!!」


 武藤のその言葉で場が一瞬静まった。

 

「武!! それもちろん私達も貰えるんだよね?」


「1つしかありません!!」


「!?」


 勿論嘘である。それこそ売るほど持っている。 

 

「……」


 だが武藤のそんな冗談は女性陣には通じなかった。

 

「あれ? なにこの空気?」 

 

 ダイエットなんぞ縁のない武藤では、美しくなりたい女性の気持ちなんぞ理解できなかった。そもそも武藤はここにいる女性陣はそんなことしなくても全員可愛いと思っているので、ダイエットなんぞ必要ないと思っているのだ。

 

「ここはやはり私が――」


「スタイルいい綺羅里ちゃんにそんなの必要ないでしょ!!」 

 

「と、知美?」


 皇の親友である松井のその言葉はもはや殺意すら混じっていた。

 

「わ、私は遠慮しとくよ」


 それに怯えたのか加賀美は参戦しないことにした。そもそも小さすぎる加賀美には、痩せるうんぬんより逆に栄養が必要な程なのだ。そして松井はといえば……少々ふっくらとしていた。

 

「わ、私もほ、欲しいです」


 そういって手を挙げるのは死にかけの岩重である。岩重もまたふっくらというかむっちりというか、そんなスタイルである。

 

「わ、私も遠慮しとこうかな」


 珍しく岩重の強気な主張を見て佐藤も身を引いた。佐藤も別に太ってはいないのである。

 

「私達は遠慮しておくよ」


「香苗!?」


 女神5人は香苗が何故か参戦しないことを明言した。達といっていることから、それは女神5人の代表という意味を込めて言っているように聞こえた。

 

「まあまあ、百合。ここは私に任せて」


 香苗は普通に理解していた。武藤がそんな薬を1本だけ所持していることなんてあるはずがないと。収集癖のある武藤なら必ず何本か所持しているはずである。ただのハンバーガーすら複数持っている武藤である。そんな貴重なものを1本所持で満足するはずがないと。

 

「今朝のように二人には勝負してもらおうか」


 そういって香苗は一人ほくそ笑んでいた。

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