第127話 野外
昼食も終わり武藤と恋人達は北の森へと向かった。同じ北だが先程とは少しずれた場所である。
「武と一緒に居るだけで安心感が違うね」
「あの怖かった森が素敵な場所に見えますデス」
鬱蒼と木々が生い茂った森だが、武藤の恋人達は武藤という存在のおかげか、光に緑があふれる自然豊かな森にしか感じられなかった。
「長閑ねえ」
「心が洗われるようだねえ」
「私達はこういうところにいると、どうしてもサバイバルなことしか思い浮かばないわ」
「そうだね」
のんびりとした感想の百合達とは魔逆に斎藤姉妹はといえば非常に現実的なことしか考えていなかった。何せこの2人にとって自然あふれる森というのは、生きるか死ぬかの訓練の場所なのである。
「寧ろ今のところ日本の山奥なんかよりずっと安全なんだけどねえ」
「それより2人は魔力はわかるようになったのか?」
「もうちょっとだと思うんだけど……」
「なかなか……」
「私はなんとなくわかってきたデスよ?」
「「ええっ!?」」
なんとクリスはこの場の魔力認識3人目になった。
「まさか美紀達より先に覚えるとはねえ」
「クリスちゃんすごい!!」
そういって百合はクリスを抱きしめる。最近この2人は特に仲がいい。
「どれくらい制御できる?」
「えっと目に集めたりできますデス」
「これは見える?」
「丸デス」
武藤が指先に魔力で円を描くとクリスはそれを正確に答えた。
「ちゃんと見えてるね。それを足に集めてジャンプしてみて」
「えーっと……こうかナアアアアアア」
クリスは上手く制御できず木々よりも高く上空に舞い上がった。
「よっと」
「タケシ?」
武藤は一瞬で上空のクリスに追いつき、お姫様抱っこでクリスを抱えてそのまま空中にとどまった。
「空飛んでますデス」
「魔力が制御できるようになればクリスもできるようになるよ」
「!? 頑張るますデス!!」
「がんばれ――ん?」
上空にとどまっている武藤の目に何かが映る。
「どうしましたか?」
「いや、クリスはかわいいなあって思って」
「!? もう」
武藤が気が付いた時には既にクリスに唇を奪われていた。しかも熱心に舌を絡めてきており完全に犯る気満々のやつである。
「こらああ!! 抜け駆けするなああ!!」
下からは百合の絶叫が聞こえてくるが、クリスは気にすることもなく武藤の唇をむさぼっていた。
「はっ!?」
気が付いたらクリスは他の4人に囲まれていた。武藤が静かに下に降りていたのである。
「クーリースー?」
「……ごめんなさいデス」
「まあいいじゃないか。昨日あれだけやったというのに武君はまだ興奮しているようだし」
香苗がそういうと恋人達の視線は武藤へと向かった。正確には武藤の股間にである。
「もう、武藤ったらえっちなんだから」
「しょうがないわね」
恋人達は各々何かしらを口走りながらもじわりじわりと武藤との間合いを詰めていた。
「これは条件反射だから……何? え? まさか……ここで!?」
小一時間後。そこには野外なのに衣服と息が乱れる美少女5人の姿があった。
「またお風呂入らなきゃ」
「外でなんて……けだもの」
「自分で襲っておいてそれはないんじゃないかなお姉ちゃん」
野外という特殊な状況もあり、恋人達も興奮したのか昨晩あれだけやったばかりなのに結局武藤を襲っていた。しかし、なんだかんだといっても武藤もその気になってしまえばノリノリで相手をしていたが。
「でもみんな興奮したんじゃないかい?」
香苗の言葉に他のメンバーは全員顔を赤らめた。
「特に朝陽と月夜は乱れていたようだしねえ」
「ちょっちょっと香苗さん!!」
朝陽は顔を真っ赤にして俯き、月夜は香苗を諫めるように叫んだ。普段とは魔逆の反応である。
「で、どうだったんだい?」
「……すごく興奮して、気持ち良くて何がなんだかわかんなくなっちゃった」
「やはり外というのが関係しているのかねえ。それとも立ったまま後ろから激しく突かれるのが「わああああ
!!」」
香苗の言葉をかき消すように朝陽が叫ぶ。
「な、なんてこというの香苗!!」
「だって……気持ちよかったんだろう?」
「……」
「全く、真昼間から仕事もしないで何をやっているのやら」
「「「「お前がいうなあ!!」」」」
一緒になってえっちなことをしていた香苗のセリフに残りのメンバー全員から突っ込みが入った。
「一番最初に言ったの香苗でしょ!!」
「そうだったかねえ」
そこからわいのわいのと姦しい状態が続く。武藤はといえばそれを楽しそうに見守るだけだった。ちなみに体力的には武藤は全然平気である。問題は精神的な疲れである。これはエリクサーでも治らないことは実証済みであった。
異世界に居た時に同じように精神的に参っていた時、それをやる気にさせようとした百合からえっちなご褒美があるといわれた時、武藤はその精神的な疲れが一瞬で吹き飛んだことがある。その為、こういう疲れは本当に心からくるものだということを武藤は理解していた。男は単純な生き物なのである。
「それより向こうに湖みたいなのが見えたんだけど行ってみない?」
「!?」
武藤の何気ない一言にそれまで言い合っていた恋人達が全員黙った。そして全員一致で湖を見に行くことが決まった。
「わあああすごいっ!!」
「結構大きいねえ」
とりあえずこちらから対岸がはっきり見えないレベルで大きいことがわかった。
「山の麓まで続いているようだねえ」
「水の透明度もすごいね。底がはっきり見える」
「水には触れないように」
「どうして?」
「寄生虫がいるかもしれないから」
「!?」
「貝だけじゃなく水から直接入ってくる奴もいるからね」
その言葉に水に触れようとしていた恋人達が全員水辺から離れた。
「……見た限り巻貝はいないようだから大丈夫そうではあるけど、安心はできないからね。まあ治せると思うけど」
癌すら治す武藤には寄生虫なんぞものの数ではない。
「底の方に大きな魔力反応がある。ヌシみたいなのがいるのかも。かなり離れてるけど何が起こるかわからないから、あまりこの湖には近づかない方がいいかもね」
「わかったわ。武藤のおかげで水に困ってるわけじゃないし、ここには近づかないように留守番の人達にも言っておきましょう」
朝陽の言葉に全員が頷く。武藤がいつも一緒にいるとは限らないのだ。危険な可能性があるならなるべく近寄らないほうがいいのである。
「さて、今のところ収穫は君達のおなかの中にしかないわけだが……」
武藤のその言葉に恋人達が顔を赤らめた。珍しく香苗まで真っ赤である。勿論収穫とは武藤のアレである。しかも利用できるのは自分自身だけだ。
「水辺によらないように薪を探そうか」
武藤の言葉に全員はーいと元気よく答えた。働いていないことは気にしていたようである。
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