第125話 朝食

 その後、寝てる恋人達はそのままに朝食を用意する。武藤が用意したのは各種ハンバーガーである。

 

「ハンバーガー選択、勝ち抜き選手けーん!!」


「「いえーい!!」」


「……なんなんですの?」


 突然の武藤の宣言にすぐさま吉田と光瀬は反応したが、皇は頭にクエスチョンマークが出たままであった。

 

「見ての通り色々なハンバーガーがあります。只のハンバーガーもあれば2重に肉が挟まっているやつ、さらには季節限定のやつまで色々とありますが……ここには全て1つづつしかありません。つまり……欲しいものは勝って奪え!! というわけさ」


「なるほど、わかりましたわ。勝って得るのは当然の理。それならば皇であるこの私が勝つのは目に見えていますわ!!」


「どうやって勝負するんだ?」


「普通にやったら時間がかかるから、これで勝負をつけてもらう」


 そういって武藤が取り出したのは――。

 

「サイコロ?」


 100均で買ったサイコロであった。

 

「4個サイコロを振って数字が大きい奴から選ぶ。簡単だろ?」


「同率は?」


「再度同率の奴で振りなおして順位を決める」


「いいだろう。まずは俺からだ!!」


 意気揚々と吉田がサイコロとコップを武藤から受け取り、コップの中にサイコロを入れる。

 

「気合気合きーあーいー!!」


「お前はどこのあげだマンだ」


 武藤の突込みには誰も答えなかった。言っている吉田本人も同じ元ネタがあるとは知らなかったくらい誰も元ネタがわからなかったのである。ちなみに武藤が知っているのは偶々ネットで動画を見たことがあった為だ。

 

「せいっ!!」


「1,3,1,7――7!?」


 サイコロの1つはよくみれば2桁の数値が混じっていた。上と下から見ると5角形、横から見ると6角形の20面体のサイコロである。1の裏が20,2の裏が19と足すと21になるサイコロだ。

 

「……このサイコロ1つでよくね?」


「そうともいう」


 武藤としては買った時のセットをそのまま出しただけである。実際は5個で1セットだったのだが、1つがどうやって使うのか意味不明の3角錐のサイコロだったのである。形からもわかる通り、どうやっても上に目が出ない・・・・・・・のである。恐らく下になったやつを目として採用するのだろうとは思っていたが、あまりに使いづらいため武藤は省いていた。


「しかし4つも振って12とか、下手したら2つのサイコロで追いつかれる数値じゃねえか」


「ぐはっ!!」


 武藤の何気ない一言で吉田はその場に崩れ落ちた。

 

「へっ所詮はやつは前座よ。この俺の運をもってすればサイコロくらい……」


「3,3,3,2」


「ぐあはっ!!」


 完全な噛ませ犬ムーブの光瀬はさらに大爆死であった。


「全く、何をしていますの」


 そういって皇が崩れ落ちた陰キャ2人を横目にサイコロを振る。

 

「6,6,6,20」


「「ええええええ!?」」


 理論上最高値であった。

 

「おーっほっほっこれくらい朝飯前ですわ!!」


「確かに本当の意味で朝飯の前だけども」


「綺羅里ちゃんこういうの信じられないくらい運がいいから」


 松井の話からどうやら皇はかなりの幸運持ちのようであった。

 

 その後、次々とサイコロが振られ結果、皇の1位と光瀬の最下位というのは変わることはなかった。

 

「ハンバーガー……せめてチーズバーガーに」


「うるせえっ最下位!! チーズバーガーは俺のだ!!」


 最後に残されたチーズバーガーとハンバーガーで最下位の光瀬とブービーの吉田の言い争いが勃発していた。値段の違いは30円である。ちなみに皇は1番高い……のではなく、季節限定のハンバーガーであった。毎年どんどんサイズが小さくなっていくのに値段はどんどん上がっていく不思議な冬限定のやつである。

 

「そういえば山本さん達の朝食はどうしますの?」


「ないよ」


「え?」


「どうせ起きてこないし食べないから」


 朝ぐったりと寝込んでいる恋人達のことを良く知っている武藤は、抱きつぶした恋人達が昼まで起きないことはわかっていた。

 

「というか香苗が起きてきたことに驚いてる」


「昨日は私が一番初めにダウンしたからねえ」


 一番最初に抱かれたのも香苗ならば、2週目の最初も香苗だった為、比較的睡眠時間がとれたのが起きれた要因である。

 

「場所が変わったせいか武くんが荒々しくてねえ。待ってっていってるのにうしろからガンガン突いてくるから、気持ちよすぎてすぐに気絶してしまったのさ」


 香苗が余計な情報を流したせいか、女性陣はそれを想像して顔が真っ赤になり、吉田達は椅子から立てなくなった。

 

「それじゃ私はお風呂に入ってくるよ。武君着替えをくれないかい?」


「ああ、向こうで渡そう」


 一応下着もあるので、吉田達に見られたくはないだろうと、武藤は気を利かせる。

 

「それでは私達も入りたいのでご一緒しますわ」


 結局、女性陣は寝ている4女神を除いて全員風呂に入ることとなった。

 

 

 

「と、いうわけで男ども」


「何がというわけなんだ」


「というかお前も男だろうが」


 武藤の言葉に吉田と光瀬が辛辣に答える。いつも通りの光景だ。

 

「必要なものが増えた」


「なんだ?」


「まずは洗濯板」


「ああ、確かにいるな。でも洗剤あるのか?」


「石鹸はある。後は干すのに物干し竿と台が欲しい」 

 

「……難しいな。竿はいいが、竿を立てる土台はどうするんだ?」


「俺が岩に穴を開ける。ちなみに竹っぽい植物は既に見つけてある」


「なら素材集めは武藤に任せる」


「わかった。設計と組み立てはお前らに任す」


「任された」


「ちなみにトイレは評判いいぞ。そっち用のも作るか?」


 昨日作成した洋式トイレは女子専用として使われている。吉田達の方にあるトイレは未だに穴だけだ。

 

「材料はまだあるから後で作っとくよ。どうせこっちは俺達しか使わないし急ぐ必要もないだろ」


 陰キャの女子達も便器のある方を使いに来ているので、実質吉田達の部屋の近くのは男子トイレとなっていた。


「それじゃ木材をとりに行くか」


「必要なのは洗濯板、ダイニングの机と椅子、物干し竿と台、後は薪か?」


「そんなものかな。後は必要に応じて集めよう」


 そうして風呂から帰ってきた女子陣と合流し、武藤達は素材集めへと向かった。本来なら朝陽達が護衛としてついてくる予定だったが、寝ているので4女神はそのままおいていくことにした。誰か残る必要がある為、事情を知っている香苗もお留守番である。

 


 その後、滑り台を降りた一行は北へと向かい素材を集めることにした。案の定、他の生徒達の姿は見えない。

 

「薪とはどのようなものを拾えばよろしいんですの?」


「できたら落ちてる乾いた小枝なんかがいい。開いた松ぼっくりなんてあれば最高なんだが、昨日みた所は針葉樹なんて見当たらなかったな」 

   

 松ぼっくりは油分も多く、開いた物は基本的に乾燥している為、良く燃える。よって着火剤として非常に優秀なのである。

 

「わかりましたわ。知美、真凛聞いてまして?」


「もちろん聞いてたよ、綺羅里ちゃん」


「まかせといて!!」


「岩重さん達もOK?」


「わ、わかった」


「がんばろうね惠ちゃん!!」

 

 一向は森の中で薪等の素材集めを開始した。ちなみに武藤は開けた場所で動かずに周囲を探索している。これはみんなに危険が迫った時に即座に動けるようにすることと、拾ってきた素材をここに一旦集め、武藤が収納する為である。

 

「よいしょっよいしょっ」


「武藤君こんなのでいい?」


「OK,OK」


 陰キャ女子2人が沢山集めた小枝をこまめに運んでくる。薪集めのセンスがあるようだ。

 

「おーっほっほっほ、見てくださいな武藤君!!」


「おおっあったか」


 皇一派が抱えて持ってきたのは大量のまつぼっくりだった。

 

「あちらにいったら松のような木が沢山生えてましたわ」


「針葉樹があるってことか。全部拾って中林先生にお土産に持っていこう」


 その後、武藤は案内された場所で落ちている大量の松ぼっくりを全て収納した。数えるのもばからしい数だったが、奥を見ればまだまだ大量に落ちていた。

 

「とりあえずこれだけあればいいだろう。使いきれるかわからんし、後はなくなったらとりにこよう」


「薪はどうしますの?」


「あるだけとっておこう」


「武藤、この木はどうだ? 比較的新しそうだが」


「ああいいな。ここである程度切っていこう」


 今までの学校の教室ではありえなかったくらい、武藤は陰キャグループ以外とも普通に交流をしていた。そもそも武藤はコミュ障ではないのだ。ただ関わろうと思わなかっただけである。

 

「これくらいでいいか。一旦戻ろう」


 気が付けばお昼近くになっていた。武藤は別に転移で戻れるが、武藤がいないときもここに来る可能性がある為、みんなが道を覚える必要があるとそのまま歩いて拠点へと帰った。

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