第115話 寝室
その後、1組の生徒達と教師を見つけ同じことを言って武藤はそそくさと立ち去るという行動を繰り返した。武藤はメガネにマスクの怪しい姿であったが、中央高校のジャージを着ていたことで怪しまれることはなかった。ちなみにオリエンテーリングは全員学校指定のジャージを着ているので、当然こちらに来た生徒達は全員同じ格好である。
(居ないな)
1組発見後森の全域を探したが他の人間を見つけることはできなかった。
(つまり吉田達の場所が限界範囲だったというわけか)
3組の生徒が見つからないということは、吉田達と3組の間に範囲の限界があったということになる。
(いや、待てよ……まさか俺が召喚の中心地ということもありえるのか?)
武藤は高速で百合達の場所へ移動中だった。そこはちょうど1組と2組の中間地点でもある。
(距離的に百合達と吉田達との距離が変わらなかったと考えれば……それなら1組と2組しか来ていないのもわかる)
武藤を中心として、武藤と百合を結んだ半径の円形の範囲を呼んだのなら、ぎりぎり吉田達まで呼ばれることになる。
(移動しておいて良かったと考えるべきか、もっと早く移動しておくべきだったと後悔するべきか)
もっと早く百合達の所についていれば、極小数の範囲で転移は防げたかもしれないが、あの短時間でそれはいくらなんでも無茶である。自重を捨てて移動すれば間に合ったかもしれないが、見られた人物の記憶を一人一人消すなんてどれだけの魔力と労力を使うのか考えたくはない程だ。
(まあ、過ぎたことを考えたところでどうしようもない。戻るか)
武藤は拠点まで転移で戻った。
「問題ないようだな」
問題なく転移部屋へと転移できた武藤は、転移ポイントが正しく機能したことに安堵した。
「あら、武藤君。いらっしゃったの?」
転移部屋から出て唯一、机と椅子が置いてあるリビング(仮)へと向かうと、拠点に居る全女性陣が集まっていた。同級生の湯上りの火照った姿はとても新鮮で、全員ジャージ姿にも関わらず非常に淫靡な気配を感じさせた。
「なんかエロいな」
「!? な、なんてことをいいますの!!」
皇は顔を真っ赤にして体をよじり、自身の胸元を隠した。ちなみに武藤は別に胸を見ていない。
「あら? じゃあ私は?」
「……えっろ」
「!?」
前かがみになって上目遣いで武藤を見つめた松井は、普通にえろいと言われて顔を真っ赤にした。明らかにジャージに納まりきらないサイズの胸が、はちきれんばかりだったのだ。武藤でなくとも男子高生なら間違いなく前かがみになる案件である。
「じゃあ私は?」
「……」
「なんで目を逸らすのよ!!」
自信をもって胸を反らした加賀美は、ただの元気な小学生である。これに反応したらさすがにヤバいかと武藤は視線を逸らしていた。
「くっくっく、身長が近いとはいえ真由さんとは一部の成長に違いがありすぎるからねえ」
どことはいっていない。まあ真由は一言でいえばトランジスタグラマーである。
「それより武、タオルはもっとあるの?」
「あるけど何か使うの?」
「何枚か敷けば多少は寝心地が改善されると思うのよ」
「ああ」
そういえば寝具は何もだしていなかったことを武藤は思い出した。
「じゃあ寝室を整えるか」
武藤は寝室予定の部屋に行き新品のダブルサイズマットレスを3つ取り出した。
「なにこれ!?」
「……武君はどこに行くつもりだったんだい? まるで無人島で生活でもするつもりのような準備の良さだねえ」
「前安くなってたんで買いだめしておいたんだ。引っ越したら必要になるからいくらあってもたりないだろうし」
武藤恋人多すぎ問題である。普通は1人、多くても同時には2人くらいであるが、武藤は同時に10人であろうが相手できるのである。ともなればベッドの広さはキングサイズですら全く足りないのである。ならどうするかといえば、特注で強大なベッドを作るよりも床にマットレスを直接敷き詰めた方が拡張性もあり、部分的な取り換えなども簡単にできて掃除もしやすいと結論付けたのである。現在の武藤の部屋はシングルベッドが部屋し敷き詰めてあるが、引っ越したらベッドをなくして部屋にマットレスを敷き詰めてやろうと思い、武藤は既に大量の各種サイズのマットレスを購入していたのである。
女性陣は真空パックされて丸くなっているマットレスのビニールを嬉々として破っている。本来のサイズを取り戻したマットレスを2つ並べてしくと、その上に飛び込んでいた。
「すごーい!!」
「新品のマットレスはいいねえ」
普段そんなことはしないであろう香苗まで飛び込んでその感触を楽しんでいた。そんな光景を尻目にもう1つの部屋に行き同じようにマットレスを2つ取り出す。
「皇さん達はこっちの部屋ね」
「!? わ、私達にもくださるの?」
「君は床になんて寝られないでしょ」
「ありがとうございます!!」
そういって皇は無意識に武藤に抱き着いた。岩肌の上にそのまま寝るのが本当に無理だったようだ。
「綺羅里ちゃんが男の人に抱き着くなんて初めてみたよ」
「!? し、失礼しました、つい興奮してしまい……はしたないマネをいたしましたわ」
「ああ、美人に抱き着かれて喜ばない男はいないよ」
「!? そ、そうですか」
皇は顔を赤くして武藤を見つめていた。武藤は聖女の呪縛があった時は何も感じなかったが、現在は普通の男子高生としての感覚を取り戻している。美人と思う女性に抱き着かれれば武藤も歳相応に嬉しいのだ。例えそれが全く興味のないクラスメイトだったとしてもそれはそれ、これはこれなのである。感情と肉体的な欲求は別。それは悲しい男の性なのである。
「じゃあ私が抱き着いても嬉しい?」
松井の言葉に武藤は無意識に腕を広げてウェルカム状態になっていた。
「!? じ、じゃあ失礼して……」
松井は武藤の腕の中に納まった。豊満な胸が武藤の胸に当たり、武藤は幸せな感触を味わっていた。
「なんだか、武藤君の腕の中にいると安心する」
松井はそういって武藤に体を預けてくる。武藤はそれを優しく抱き留めており、傍から見れば完全な恋人である。
「……」
じっと見つめるもう一つの視線に武藤は視線を向けると、加賀美がじっと武藤を見つめていた。
「あ、あたしは二人みたいにその……」
サイズを気にしているのだろう。主に胸の。
「あっ」
武藤は松井を離して加賀美を抱きしめた。
「いっただろ。美人に抱き着かれて喜ばない男はいないって」
「!? び、美人じゃ……」
「十分かわいいだろ」
胸は小さいが。武藤はその言葉を飲み込んだ。空気の読める男だった。
「あ、ありがとう」
そういって加賀美は顔を赤くして武藤の胸に顔を埋めた。
「貴方……女ったらしにも程がありませんこと?」
「誑かしたつもりは1度もないんだが、何故かよく言われる」
武藤は無意識に女性に優しくしてしまう為、結構落ちている女が多いのである。学校ではあまり女性との接点がない為、その被害が拡大していないだけであった。
それぞれのマットレスにシーツをセットし、同じ大きさの羽毛布団とタオルケットを人数分用意して寝室は完成した。ちなみに吉田達の部屋にもそれぞれ同じものを1セットづつ設置してある。
「ありがとう、武藤。床に直接寝ないだけでもありがたいのに布団まで」
「しかし、どこに持ってるんだこれ? まさかアイテムボックスか?」
「それっぽい能力だな」
「「すげえ!?」」
ここまできたらどうせ隠していても意味がないので、武藤は普通に答えた。
「誰にもいうなよ?」
「格ゲーの神に誓って」
「全てのVtuberに誓って」
「実在の人物じゃねえか!! やっすい誓いだな!!」
そういって笑う3人はやはりいつも通りであった。
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