第112話 陰キャグループ

「ここはどこだ?」


「さあな。道に迷った? っていうか街道からそれて山になんて入ったっけ?」


 吉田と光瀬は木々に囲まれ混乱していた。武藤が走っていったと思ったら意識を失い、気が付けば森の中である。

 

「武藤は大丈夫かな?」


「とりあえず探すか」 


 二人はとりあえず走って行ってしまった武藤を心配し、探すことにした。

 

「あれは!?」


 しばらく探していると2人は狼のような生物に囲まれている女子生徒達を見つけた。

 

「岩重さんと佐藤さんか? どうする?」


「どうするも何も行くしかないだろうが!!」


「だよなあ……これでも俺達男だからな!!」


 二人は迷わず狼達の前へと飛び出した。

 

「ここから先は通さん!!」


「マーちゃんが言っていた。女の子のために命を懸ける男の子がタイプだと!!」


「吉田君!?」


「光瀬君!?」


 いきなり表れた男達に狼の方が混乱した。この弱い生物はなんなのかと。何をしに出てきたのか全くわからない。死ぬ為に出てきたのか? 全くわからないが、敵対していることはわかる。弱い方から狙うのがセオリーだが、1メートルのものさしで1cm単位を図ろうとしても違いなんぞわからないのである。狼達は普通に男達にターゲットを切り替えて男達に襲い掛かった。

 

「ぐわああっ!?」


「吉田君!!」


 吉田の腕に狼が噛みつく。しかし、吉田はそれをはずそうとせず、狼を抱き上げてそのまま木に向かって走り出した。そして木を足場に高く飛んだ。そして全体重をかけてそのまま頭から落下し、狼を鼻から地面にたたきつけた。

 

「ギャウっ!?」  

 

 魔獣は魔力の蓄積を行う体内の魔石が割れなければ基本死なない。だが痛みがないわけではないのである。

 

 魔獣とはいえさしもの狼も痛みには耐えられず、吉田の腕から口を離し、間合いを取った。基本獣の弱点はむき出しになっている鼻である。敏感な器官である為、犬や熊などは鼻を攻撃されると弱い。奇しくも吉田の攻撃はそこをピンポイントでついていた。

 

「いっただっきマーッチ!!」

 

 吉田と同じように腕をかまれていた光瀬だが、吉田とは違い肉体的スペックが優れていない。その為とった行動は……噛みつきであった。マーチが食レポするときに使う掛け声とともに光瀬は勢いよく噛みついた。

 

「!?」


 そしてそれは奇しくも吉田と同じように弱点である鼻であった。あまりの痛みに絶叫した狼は吉田に相対した狼のようにその場から離れた。

 

 まさかこんな手痛い反撃をされると思っていなかった狼たちは吉田達を警戒した。魔力を全く感じないのにこいつらは自分達を傷つけうる存在であると。

 

 群れのボスであるひと際大きな狼が指示を出すと、群れの狼たちは今度は1匹づつではなく、一斉に周りを囲むように動き出した。狼は群れで狩りをする生き物である。本来これが狼の戦闘の真骨頂なのだ。

 

「さすがにまずいな」


「直接ボスをやるか?」


「2人で命を懸ければ撤退ぐらいはさせれるかなあ」


「吉田君」


「光瀬君」


 二人の会話に岩重と佐藤が不安そうな声をあげる。

 

「俺一回やってみたかったんだ」


「何を?」


「女を命がけで守るってやつ」


「奇遇だな。俺はマーちゃんを守ってみたかったけど、まあ変わりに3次元ってのも悪くないか」


 本物のオタクは覚悟を決めるのが早い。己の信念に本当に命をかけるのだ。その辺りは武藤と同じである。

 

「!?」


 狼のボスは驚いた。こんな状況でも男達は自分を一心に見つめ笑っているのである。そして命を懸けて自分を倒そうとしていることが本能で伝わった。これは遠い昔、まだ自分が魔獣ではない頃に見た、親が子供を守るときの気配である。

 

 圧倒的優位に立っているのにボス狼は警戒した。こういう敵に油断をすると手痛い反撃を受けることを知っているのである。ボスは囲っている群れを自分の護衛に戻した。

 

「お前引いたな? ここでイモ引く奴に負ける気しねえなあ」


「命と引き換えにしてでもお前の足は食いちぎってやらあ!!」


 狼は押されていた。自分が一声吠えるだけでこの脆弱な生物は死ぬ。なのにそれができない。ボス狼は未知の恐怖におびえていた。野生ではありえない、死の恐怖を乗り越えた人間オタクという生物の存在を。

 

「!?」

 

 状況が膠着しているその時、吉田達と狼たちの間に何者かが轟音とともに着地した。

 

「すまん、遅れた」


「「武藤!?」」


「ウオオオオン!!」


 それを見た瞬間。ボス狼はすぐに撤退の遠吠えをした。狼たちは一斉に逃げ出したが、ボス狼だけはその場に残った。殿で群れを守る為である。

 

 恐らく自分は死ぬであろう。だが群れは残す。繁殖もない魔獣であるが、残った動物としての本能がボス狼にそうさせたのだ。

 

「へえ、さすが狼だな。魔獣になったとはいえ誇り高い。でもお前に興味はないから行っていいぞ」 

 

 武藤はそういうと全くボス狼を気にも留めず、吉田達と向かい合った。 

  

「無茶するなあ、お前ら」


「お、おい、大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫。来たら殺すから」


 ボス狼は武藤を見つめつつ後にさがり少しづつ離れていった。命は捨てる覚悟だったが、逃がして貰えるのなら逃げたいのだ。それは抗えない野生の本能でもある。

 

 しばらくするとボス狼はその場を去った。途端に吉田と光瀬がその場に崩れ落ちた。

 

「はあーしんどい」


「痛ってえ、安心したら急に痛みが」


「吉田君!!」


「光瀬君!!」


 そんな二人に岩重と佐藤が抱き着いた。

 

「ありがとう、ありがとう」


「かっこよかったよ」


 女子生徒にそんなことをされたことがない二人は動揺した。実際先ほどの狼との闘いよりも緊張した状態となっている。 


「これ飲んどけ」


「これは?」


「ポーションてやつだ」


「「ポーション!? マジで!?」」


 以前武藤がダンジョンで手に入れた奴である。

 

「マジか……傷がなくなってる?」


「痛みもない……本物かよ!?」


 ポーションを飲んだ二人は噛まれた腕が元に戻ったことに驚愕した。

 

「それじゃ俺の拠点まで移動するか」


「拠点?」


「そんなの作ったのか?」


「ああ、。歩いて1時間はかかるけど大丈夫か?」


「大丈夫だ」


「問題ない」


「不安しかない返事ありがとう。じゃあいくか」


 そうして武藤達陰キャグループは武藤の拠点へと向かった。

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