第109話 眩しい集団
百合達と越智達の話し合いの結果、気が付いたら森にいたという所は同じだった。その後、森を歩き回ったが木以外の何も見つからなく、川や山すら見当たらなかったというところも同じであった。
「君達はどっちから来たんだい?」
「あっちだな」
越智が指さしたのは、香苗たちが来たのとは違う方向だった。
「私達はあっちだ。間に何かあるとは思えないから、少なくともこちら側1km四方は川がないということになる」
ほぼ直角で進んできた2組が川のような水源を見つけていないことから、少なくともそちらに水源はないと推測された。あるとしても相当遠くにあるということになる。
「木々が高すぎて進んでいる方角がわからないのが痛いな」
(ただ方角がわかったところでどうしようもないんだがねえ)
越智のつぶやきに香苗は心で答えた。ここが地球ならまだしも香苗はここが地球でないことを確信していた。
(そこまで植生に詳しくないとはいえ、こんな植物は見たことがないんだよねえ。それに……)
香苗は辺りの木々を見る。走っている時は気が付かなかったが、一部の木に妙な気配を感じる時があるのだ。
(正直言って興味は尽きないが、それ以上に恐怖を感じている)
百合や朝陽に言っても恐らくわからないだろう。無駄に怖がらせるのも得策ではないと思い香苗はあえて言わなかった。
「ん?」
お互いしばらく情報のすり合わせをしていると、森から人の近づく気配があった。
「あっ!?」
「チッ」
男の声に朝陽が思わず舌打ちした。
それは先ほどまいた1組のイケメングループだった。百合達が休憩し、その後それなりに2組のグループと話しているうちに追いついてきたということらしい。
「ま、また会ったね山本さん」
百合達としてはストーキングしておいていまさら何を? である。
ちなみにこの間、百合はガン無視して振り向きもせずにクリスと話をしていた。
「君達も1組か?」
「お前らは……2組か?」
まだ入学して2か月ちょっと。みんなまだ自分のクラスで手一杯で、他のクラスとそこまで面識があるわけではなかった。
お互い自己紹介をし、イケメングループ2つに女神グループという恐ろしく顔面偏差値の高い集団が出来上がった。
「何かあっても女子達は俺が守るから安心してよ」
お調子者の越智がそう宣言するが、皇はそんなことは当然と思っている為、無反応。百合達女神5人は見向きもしなかった。
場の空気が死にそうなその瞬間、「たよりにしてるよ越智君」と明らかに空気を読んだお世辞をいっていたのは2組の陽キャグループの1人、松井知美であった。
「全く、知美は気を使いすぎなんだよ。越智の言うことなんて放っておけばいいのに」
そういうのは同じ陽キャグループである見た目ギャルの加賀美真凛である。ちなみに2組の陽キャグループは男2人に女3人である。よってこの集団は男7人に女8人と女性の方が一人多い形だ。
「うるせえよ加賀美!!」
「何よ!!」
「まあまあ、落ち着いて越智君も真凛も」
そういって松井は2人をなだめる。この個性強すぎる面々は松井の人徳と配慮によって成り立っているのが、一目でわかる構図であった。ちなみに松井はやや太めというかむっちりした体形であるが、非常に容姿が整っている。クォーターということもあり、日本人離れした目鼻立ちをしており、女神と比較しても全くそん色ない容姿をしていた。何故女神に入っていないかといえば、皇が入っていないからである。友人である皇をおいて自分だけ女神に数えられたら皇は間違いなく気分を害するだろう。幼馴染である松井にとっては気は強くても自分達友人には優しい皇は親友であり、大事な存在でもある為、皇が入らないなら入れないで欲しいと周りに誇示していた。もちろん皇には内密である。
「それで、これからどうす――!?」
2組の玉木が発言をしている途中、突然木々が倒れる音が響き渡った。
「く、熊……熊?」
木を倒しながら現れたのは巨大な熊であった。だがよくよく見れば熊にしては大きすぎ、しかも額に角のような物が生えていた。
「熊……だよな?」
「そんなことどうでもいいから!! 早く逃げるぞ!!」
そういって1組の陽キャグループは百合達に見向きもせず、我先にと逃げ出した。
「お、俺達も逃げるぞ!!」
越智達もそれに釣られるようにすぐに逃げ出す。
「普通熊は背を見せて逃げ出すものを追いかける習性があった気がするのだがねえ」
全く逃げる者たちを見向きもせず、熊は香苗たちを睨んでいた。
「に、にに逃げ」
松井は腰を抜かしてその場に崩れ落ちたが、這いながらも必死に逃げようとする。場所的に熊に一番近い場所である。
「知美!!」
皇は恐怖を押し殺し松井の傍まで走り寄る。
「綺羅里ちゃん逃げて!!」
「知美を置いていけますか!!」
そういって皇は松井をかばい熊の前に立ちはだかった。足は恐怖ですくんでおり、膝は震えている。しかし、しっかりと立ち、両手を広げて親友を庇って立っていた。
「やらせはしませんわ。大事な友に庇われて死ぬなど皇の名折れ!! この私の親友を殺すというのならまず私を殺しなさい!!」
明らかな強がりではあるが、皇はしっかりと熊の目を見つめていた。熊に目を合わせたら反らしてはいけない。熊と目を合わせてはいけない。諸説あるが、実際は全く関係ないが正解である。子育て中なら問答無用で襲われるし、冬眠前でも同じく襲われる。何せ熊からすれば人間なんぞ只の餌だからだ。状況により、目を合わせようが併せまいが襲われるときは襲われるのである。ただ、背中を見せて逃げるのは熊の狩猟本能を刺激する為、非常に危険だ。
では何故男達が襲われなかったのか? この熊が熊ではなく魔獣と呼ばれる存在であり、その本能が魔力を持っている香苗達を警戒しているからである。
魔獣とは、通常の獣が魔力により変質した存在であり、変質前の性質は残るが基本的に食事の必要はなく、魔力さえあれば生存でき、排泄もしなければ繁殖もできなくなり、個で完成した存在となる。
この熊はこの森の王者であり、生態系の頂点である。故に自身の縄狩りに知らぬ魔力を感知してここまできたのだ。
熊としては魔力もない人間に等全く関心がないが、通り道にゴミが転がっていたら邪魔なのでどかす。それくらいの気持ちで熊は前足を振りかぶった。
「綺羅里ちゃん!!」
その瞬間ドゴンという鈍い音とともに皇ではなく、熊が木をへし折りながら遥か彼方へと飛んでいった。
「え?」
「悪い遅くなった。って……誰?」
死を覚悟していて固まっていた皇の目の前には、つい先日会話をしたクラスメイトの陰キャな男の姿があった。
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