第100話 覚悟

「へえ、貴方たちが武藤君の彼女さん達ね」


 デートを回避したら何故か自宅訪問されたでござる。武藤は居たたまれない空気に包まれながらくつろげるはずの自宅のリビングで緊張の面持ちで部屋の隅で様子をうかがっていた。


「たしか……3年の小鳥遊先輩ですよね?」


「よく知ってるわね。3年の小鳥遊弥生よ」


「それで武とはどういった関係なんですか?」


「ともに戦った仲よ」


「!?」


 自分以外に戦いを共にしたものがいたとは……それは百合にとって脅威となる言葉であった。


「それ格ゲーの話だよね?」


 武藤の説明もむなしく、百合は全く聞こえない様子で小鳥遊を警戒している。

 

「まあ、ダーリンが事務所に連れてきたからこんなことになるとは思ってたけど」 

 

「よろしくお願いしますね。先輩・・


 美紀は学年的には1つ下だが、芸能事務所的には先輩にあたるのだ。

 

「そうね。事務所の先輩で恋人・・の先輩として可愛がってあげるね」


 美紀のその言葉に小鳥遊はピクりと形のいい眉が動いた。

 

「そうですね。よろしくお願いしますね。でも恋人って1人でもいいと思いません?」


「無理よ」


「無理ね」


「無理だね」


「??」


 牽制の為の言葉だったが、恋人達に一斉に否定された。あまりにも即答だった為に言った小鳥遊の方がきょとんとした顔で固まってしまったほどだ。

 

「独り占めしたいと思うのはよく理解できる。だが、物理的に無理・・・・・・なんだ」


「物理的?」


「君はたった1度で快楽によって気絶させてくる相手に一晩中どころか翌日の夜まで抱かれ続けることができるかい?」


「?……!? ひ、一晩中?」 

 

「そう。彼は私達8人を一晩で全員気絶させることができる。しかもその気になれば翌日も終わらない・・・・・・・・

 

「!? お、男の人ってそ、そんなにできるもの……なの?」


「さあ? 私達は彼しかしらないからねえ。ちなみに言っておくと彼はそれを毎日でも続けることができる・・・・・・・・・・・・・


「!? り、理外の怪物……」


 武藤を象徴するようなその言葉をまさかバスケ以外で聞くことになろうとは……武藤は複雑な心境だった。



「タケシ、スゴクキモチイイ」


「……日本語覚えたことを喜ぶべきか、そんな言葉を真っ先に覚えたことに悲しむべきか悩ましいところね」


 拙い日本語でとんでもないことを口走るクリスに朝陽は頭を抱えた。

 

「ちなみにだが彼の恋人になる為にはある儀式を行う必要がある」


「儀式?」


「そう。ここにいる全員がしたことだ」


「なら、私も平気ね」


 小鳥遊のその言葉に香苗はにやりとほほ笑む。

 

「そうかそうか!! ちなみに儀式とは……初体験を録画することなんだが、いやあ了承してもらって嬉しいよ」


「!? ろ、ろろろ録画!? 初体験を!? 嘘でしょ!?」


「嘘なんかつくものか。なんなら見せようかい?」


 そういって香苗は自身のスマホを何のためらいもなく小鳥遊の前に差し出す。

 

「!? う、嘘でしょ……」


 そこには避妊すらせず・・・・・・に濃厚にまぐわう香苗と武藤の姿があった。

 

「ちなみに見てわかる通り避妊なんて一切しない。その覚悟がないのならやめておくことだ」


 魔法で避妊していることはもちろん言わない。魔法のことは武藤と関係を持つまでは内密である。元々恋人達は全員そのことを知らずに武藤のことを受け入れていたからだ。

 

「……貴方達すごいのね。今まで妊娠は?」


「それはまだ仲間でない貴方には言えない」


 これは言い換えれば堕胎経験はあるのか? という質問である。妊娠があるといえば堕胎経験があるということになり、ないといえば武藤側に問題がある・・・・・・・・・ことになる為、香苗も安易に答えることができない。

 

「正直、私には覚悟が足りなかったみたい。少し考えさせて欲しいわ」


「ほう」


 ここですぐに無理と言わないだけで、香苗達は小鳥遊の本気さを感じ取った。何も考えない愚かな者か、最初から覚悟ガン決まりの者以外は、普通高校生で妊娠等土台無理な話なのでである。そして小鳥遊は今までの会話から察するに馬鹿ではない。と、なれば本当に武藤とのことを真剣に考えているということに考えが行きつくのだ。

 

「貴方たちからすれば覚悟がないって思われるかもしれないけど、それでもさすがに学生での妊娠は色々と問題が多いから……」


 小鳥遊は元々大学に行きながらもVtuberを続ける気でいた。だがさすがに現在、大手の芸能事務所に所属したばかりなのにいきなり妊娠はさすがにまずいどころではない。いくらVtuberなら妊娠がバレないとはいえ、一応芸能人なのだ。ちなみに契約の上では妊娠するなとも男と関係を持つなとも書いてはいなかった。しかし、企業案件があった後に万が一それがバレた場合、どんな惨事になるのか想像ができない。人気が落ちるだけならまだしも下手したら殺害予告・・・・が届く可能性すらある。いくらソロの配信者とはいえ企業に所属している以上、仕事は一人でやっているものではないのだ。


「私が1人だったら何のためらいもなかったでしょう。でも今の私は一応芸能人だから。みんなの迷惑になる可能性がある以上、即答できないわ」


「あーしは芸能人だけど即答だったよ?」


「……さすがは先輩・・。すごいのね、本気で尊敬するわ」


「美紀は何も考えてないだけでしょ」


「それでも美紀と真由さんは誰よりも武くんのことを考えていたという実績があるからねえ」


「……悔しいけどそれは認めるわ。誰よりも一番忙しかったはずの美紀が、まさか仕事が終わってから旦那様のところにきていたなんて思いもしなかったし」


「逆に聞くけどみんなはダーリン成分足りなくならないの? あーしは1日会わないだけでダーリン成分足りなくなってどんどん気分が落ち込んでいくんだけど」


 ちなみに現在武藤の魔力・・・・・を一番体内にため込んでいるのは美紀だったりする。百合達が会っていない間もほぼ毎日のように会いに来ては抱かれていた為だ。真由の方は一応武藤を気遣って毎日は抱かれていなかった。逆にそのいじらしいところに武藤が興奮して襲ったことは幾度もある。実はその辺りすら真由の計算の内だったりするのだが、武藤がそれを知ることはない。


「武藤君は本当に愛されているのね。しかもこんなに恋人がいるのに全員がギスギスするどころかまるでみんな家族みたい。こんなのエロゲやラノベの世界だけだと思ってたわ。まさか現実にこんなことがあり得るなんて……」


 ちなみに小鳥遊は17歳である。もちろんエロゲはできない年齢だ。何故知っているかといえば、配信時にコメント欄に書かれていた情報を記憶していただけで、実際プレイをしたことはない。その為、ネタ元を知らずにコメント欄にいいように操られ、コメント欄に書かれた「大しゅきホールドって何?」と聞いてコラボ中の同期Vtuberの顔を青ざめさせたことがあったりする。それ以来、小鳥遊はエロゲについて警戒し、知識という部分においてだけ、それなりに調べていたりするのだ。その小鳥遊において「エロゲのような関係」といわしめるほど、武藤達の関係は異常と呼べるものだった。


「君が本当に武くんのことを思っているのはわかる。だが現在、致命的な問題がある」


「何かしら?」


「君が配信者っていうことだ。君、武くんとイチャイチャしてるような時間はあるのかい?」


「!?」


 それはまさに小鳥遊にとって青天の霹靂だった。配信者は普通夜に配信する。専業なら朝でも昼でも可能だが、小鳥遊は現役の学生である。基本的に土日以外は日中の配信は無理なのである。つまり平日の夜に武藤とイチャイチャするのはそもそも無理だし、土日に配信予定があれば学校が休みだとしても武藤に会うことはできない。他の恋人達と違って圧倒的に会う時間が少ないのである。


「他のみんなはどうなの?」


「最近は殆ど毎日会いに来てるねえ」


「!? 美紀先輩も?」


「あーしは基本夜中まで仕事ないし。どんなに遅くなっても天辺0時は超えないから」


 ちなみに0時は帰宅時間であり、仕事そのものは22時までである。未成年(18歳未満)はそれ以上働いてはいけないからだ。


「なんてこと……思いのほか問題が山積みだわ」


 色々と指摘され、小鳥遊は自分が如何に安易に考えていたのかを思い知ったのだった。






 

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