第97話 魔法使い見習い

「すごい……これが魔力」

 

 連日の修行結果、香苗と百合、そして美紀が魔力を少し制御できるようになった。正確には魔力ではなく、魔力とオーラが混じったものである。基本的にオーラ、所謂気というものが操れなければ魔力は操れない。だがオーラを操る術は非常に習得が難しい。ならばどうするか? 武藤はオーラと魔力を混ぜて操作して、その感覚を恋人達に教えたのである。故に恋人達はオーラと魔力の違いが判別できない。本来はすさまじく難しいことをしているのだが、知らないのであれば概念を考えることもなく、感覚で使えるのではないか? 武藤はそう考えて実行した結果、実際できたというのが現状である。その為、百合達は細かなことはできないが大雑把には操ることができるという状態である。

 

「目に集中させてみて」


「目に集中……こう? !?」


 目に魔力を集中させた美紀が武藤を見ると、そこには大きな滝が天に逆流しているかのような、膨大なエネルギーがあふれる武藤の姿が見えた。

 

「ダーリンすごい!!」


「これが……いやはやすごいねえ」


「すごい……圧は感じるのに全然怖くない。寧ろ安心感すら覚える。これが武の魔力」


 魔力を見られるようになった3人は武藤の持つ膨大な魔力を見て感動した。ちなみにこれは武藤の魔力ではなく、実際は武藤が持っている魔力玉の魔力を引き出して、オーラとともに体に纏っている状態である。魔力は本来は体内に持っていない。武藤は引き出した魔力を体内にとどめているだけで、従来持っているものではないのである。百合達が武藤も知らない特殊な状態といえるのだ。これは女性の子宮だけは魔力を溜めこむことができるという特性の為である。武藤はオーラを用いて意識的に魔力を肉体に纏わせている。だが女性は魔力さえ体内に吸収できれば、オーラを使えなくとも溜めこむことが可能なのだ。勿論子宮に直接が一番効率がいいが、体内に摂取さえ出来れば自然と子宮に溜まっていく。

 

「魔力を使ってイメージを具現化する。それが魔法だ。まずは薄く体全体に纏ってみて身体能力があがることをイメージしてみるといい」


 武藤に言われるがままに美紀達は魔力を薄く体に纏ってみる。そして美紀が軽くジャンプしてみたところ――

 

「うわああああ!?」


 軽く天上に届いた。

 

「すごい!? どうやったの美紀!?」


「え? なんか体が軽くなるイメージを思い浮かべたんだけど……」


「なるほど……」


 そういうと香苗も同じように天井まで飛ぶ。

 

「ええ!?」


 しかし、その後が美紀とは異なった。ふわりふわりとゆっくりと降りてくるのである。ミニスカの為もちろん色々と丸見えの為、武藤としては非常に眼福であった。

 

「羽のようになるイメージだとこうなるのか」


「ってことは……えいっ!!」


「ええええ!?」


 百合の動きに全員が度肝を抜かれた。

 

「う、浮いてる……」


 そう。百合は空中に浮かんでいるのである。

 

「すごーい、!? きゃっ!!」


 しかし、それは長続きせずすぐに落ちた。

 

「世の理に反することは魔力を膨大に使うから」


 つまり、美紀と香苗のようにジャンプするくらいならそこまで魔力は消費しないが、百合が行った重力遮断となればそれなりに魔力を消費するということである。ちなみに武藤が行っている転移等はこれの数十倍以上の消費の為、現在の百合達が保有できる魔力では使うことができない。

 

 しかし、それでも他人にはできない、特別な力が使える。それはとても魅力的なことである。他人と違う特別になれる。それは何よりも甘美な言葉であり、年頃の少女を夢中にさせるのには十分なことであった。

 

 目の前で起きた不思議な出来事。これを行ったのが武藤ではなく、一般人の百合達ということもあり、武藤の恋人達は補習もそっちのけで魔力制御の訓練にのめりこんでいくのだった。

 

 だが途中で重大な事実に気が付く。彼女達は自力で魔力を補充する術がないのだ。補充する手段それは……。

 

(めっちゃ見られてる)


 それに気が付いた恋人達の視線が武藤へと向けられていた。

  

「ねえ、ダーリーーん」


(きたっ!?)


 しなだれかかってくる美紀についに来たかと武藤は警戒する。

 

「魔力……欲しいな?」


 言葉は違えど内容はぶっちゃければえっちなお願いである。

 

「!?」


 気が付けば全方位を囲まれていた。肉食獣の檻に閉じ込められた肉の気分である。

 

(ここのとこ毎日なんですけど!? 明日も平日なんですけど!?)


 武藤の心の叫びは誰にも聞こえず、気が付けばどちらが食べられたのか分からない状態で、恋人達は大変満足した表情で全員気絶するのだった。

 

 

 

 



「炎上?」


「炎上って程じゃないけど話題になってる」


 翌日。いつものように吉田と会話していると先日のチャリティーカップが問題になっているという。

 

「プロがいるチームが優勝すれば良かったんだけど」


 このゲーム大会はそれなりに賞金が出る大会なのだが、高額の賞金はあくまでプロライセンス保持者にしか出されない大会だった。チーム内に誰か1人でもプロがいればよかったのだが、優勝したVtuberチームはだれ1人ライセンスを持っていない。その為、数万円しか賞金がでないという事態になっていた。もちろんそれが寄付されることになる。誰でも出場できる大会なのだから文句を言われる筋合いなど毛頭ないのだが、それでもプロが優勝していれば寄付金がーと声高に叫ぶ阿呆共が存在するのが実情である。

 

「それなにか問題あるのか?」


「いや、全然」


「マーちゃん達も困ってたぞ。そんなこと言われてもって」


 光瀬の言う通り確かに言われてもどうしようもない。だったらプロライセンス保持者だけの大会にしろというだけの話なのである。

 

「結局そういうことをいう奴らってプロ市民と同じで只目立ちたいだけなんだよ」 

  

「プロ市民は一応金貰ってるだろ。どこの国からとはいわんが」


「どっちかっていうと紅白の家建てたやつを訴えた奴らみたいな感じ?」


「あれこそ完全な活動家じゃねえか!! 近所がどうとかいってたけどアイツらの家、件の家から2kmだか3kmだか離れてるって話だぞ」


「世の中、頭がおかしい奴がいるってことさ。マーちゃん達が気にしなきゃいいんだけど」


「あ、あと1位のやつのチート疑惑がおもしろいことになってた」


「チート?」


「あの魔法使いとかいうやつが明らかにおかしいって話がでてたんだけど、生放送で他人の試合で予知みたいに行動を読んでたから逆にチート疑惑はなくなって、今度は未来視できるんじゃないか疑惑があがってた」


「ラノベの読みすぎじゃね?」


 そんなことを言っているが、武藤は未来視ができないこともない。ただ膨大な魔力を必要とする割に利点があまりない為、使わないのである。武藤がかなわないレベルの達人が相手ならば利点はあるが、そういう達人は武藤が未来を見て変えた行動をさらに見てから自分の行動を変えられるレベルなのである。つまり若干接戦に近づけるが、結局そういうやつにはボコられるのである。例にあげるならば武藤の師匠のような存在だ。ただし、師匠が全盛時の力を取り戻すには膨大な魔力が必要で、しかもかなり短時間しかその状態になれない。だがその時間、3分の間なら師匠は魔王をも倒した武藤より強い。すなわち3分の間だけは世界一強い存在なのである。ただしそれを使ってしまうとしばらく寝込むことになってしまう為、めったなことではその姿にはならないのだが。


「まあ、俺としてはマーちゃん達に影響がなきゃ未来視だろうが、チートだろうがどうでもいいんだけどな」


 光瀬はVtuberオタクだけあって心からVtuberを心配しているようだ。そしてその心配は予想外の方向で当たることとなる。

 

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