第96話 徒然草?
「チャリティカップみたか? やっぱ世界1位ってすげえんだな」
「それよりマーちゃんやフーちゃんの放送見たか? 何にもしてないのに優勝しちゃったとかいって嘆いてたぞ」
明けた月曜日。いつも通りの友人二人は朝からテンションが高かった。結局昨日は夕方まで魔力操作の修行という名の恋人いじりを続けた結果、香苗と美紀が少しだが感覚をつかんだのだ。元々2人は無意識に武藤の魔力に惹かれていた部分もあった為、その辺りの感覚が鋭かったのだろうというのが武藤の考えである。
修行はこれからも続けるという話にはなったのだが、えっちの後では体が持たないという理由で、えっちと交互にするということで落ち着いた。
聞き流していた光瀬の話を聞くと、大会で優勝メンバーだったVtuber達は寄生じゃないかという意見も若干あったが、そもそもなんでもありのお祭り大会みたいなものだったので、そんな意見は殆どでなく、逆にVtuberを知らない一般層にかなり名前が売れて、登録者がかなり増えたらしい。メンバー曰く、「1回も勝ってないのにCcup優勝の肩書がついてきて泣きそう」とのこと。まあ頑張ってほしいと武藤は全く関心もなく心に思った。ちなみに武藤は大会後、その格ゲーは引退すると宣言し、みんなを驚かせた。理由としては負けない勝負はつまらないからという、全方位を煽る恐ろしい理由だった。大会最後に戦った神と呼ばれるプロは「絶対勝ってやる」と武藤の使うキャラの対策を死ぬほど詰めているとか。ちなみに他の賞金が出る大会で武藤の使うキャラクターで出場しているプレイヤーはいない。性能がピーキーすぎてプロシーンでは使えないキャラなのだ。つまり神と呼ばれたプロは大会を犠牲にしてでも武藤を倒すと意気込んでいるのである。それがまたそのプレイヤーに対する評価をあげているらしく、そのプロのチャンネル登録者数がかなり増えたらしい。
そんな感じで武藤がたった1度大会に出ただけであらゆるところに影響を及ぼしていたのだった。
「武はどうだった?」
5月の終わり。中間試験が終わった結果が帰ってきた頃。武藤宅では百合がイチャイチャ武藤に抱き着きながら百合が武藤へと成績を尋ねていた。この学校では順位は出るがそれは各自の成績表に書かれるだけで公には発表されない。その為、誰が1位なのか等はわからないのだ。
「えーと5位だな」
「すごいじゃない」
「2位の人に言われてもなあ」
ちなみに今回の中間試験。1位は香苗で2位が百合、3位月夜で4位が朝陽である。英語が壊滅的だったにも関わらず武藤は5位に入っていた。問題は……。
『はうう』
下から数えた方が早いくらいに位置するクリスである。
「クリスちゃんそんなに成績悪かったの?」
「仕方ないよ。問題文が読めないんだから」
何せ英語の試験ですら問題文は日本語なのである。ひらがなは読めるようになってきたが、漢字が混ざるとさすがにまだ難しい。一応武藤が教師に頼み、問題文を英語で訳す人と監視の英語教師を加えてもう一度試験をしてもらったところ、普通に10番台に入っていた為、クリスは補習を免れたのだった。だがそれとは別に日本語の補習が入ったのはいうまでもない。と、いうわけで現在クリスと斎藤姉妹は毎日武藤宅でクリスの日本語補習と武藤達の英語の勉強を行う為に通っていた。
「ああ、そういうことか。朝陽は教え方が上手いな」
「!? こ、これくらいで調子に乗らないでよね!! あんたなんかちょっとかっこよくて、すっごく優しくてお金もちでえっちが上手で、それで……それで……」
「……なあ百合。あれ、ほめちぎってるだけのように聞こえるのだが」
「いつも通りいちゃついてるだけでしょ」
ツンの部分はどこへやら。気が付けば朝陽はデレしかなくなっていた。ちなみに以前色々あった後、次の日曜に再び恋人達と盛っている時にクリス達3人が訪れた。そしてまた色々とみられた後、
「そういえば美紀って最近ちょくちょくTV出てるよね」
珍しく仕事が休みで武藤宅に来ていた美紀に対して百合が尋ねる。
「そうなんよ。今度ドラマにも出ることになってさあ」
「えっ!? すごいじゃない!!」
「つっても脇役だけどねえ」
「それでもすごいよ」
「いやあ、それほどでもお」
百合が本気で褒めてくれていることに気が付き、美紀は珍しく照れていた。
「美紀のすごいところは彼氏がいること公言してるのに、人気が出てきてるってことだよね」
「え? 公言してるの!?」
「そうだよ? だってあーしにはダーリンいるし。だからラブシーンあるような役は受けないって言ってあるし」
あくまでも美紀の中では武藤が一番優先順位が高いのである。仕事は楽しいが、それでも他の男に近づくのは拒絶していた。
「なのに顔合わせの打ち上げ見たいなのでさあ、主役の男が寄ってくるわけ。だから
「そんなことしておいてよく干されないねえ」
「スポンサーに猪瀬の系列会社がついてるからね。そんなことで干されたりしないよ」
そういって洋子が笑う。現在の芸能界はタレントは少ないが事務所としての力は猪瀬が抜きんでて強い。あの日本一のアイドルグループ事務所も日本一のお笑い事務所も真向から喧嘩を売れないくらいには影響力があるのだ。
「ところで斎藤さんから今度クリスちゃんモデルやってみないかって聞かれてるんだけどどう? 一応アレックスには確認してあって、クリスちゃんがやりたいならいいって了承はとってあるんだけど」
洋子の言葉を朝陽が訳すとクリスは悩んだ末にやってみたいと答えた。ちなみに斎藤さんとは猪瀬の芸能事務所の社長であり、朝陽達の父親でもある。
「クリスがモデルなんてやったらとんでもないことにならない?」
「すごい人気になるだろうねえ」
「ここにいる子は全員超が付く程可愛い子ばっかりだから、誰がモデルでもトップクラスでしょ」
英語のノートを見ながら武藤は無意識に本音が漏れる。何気ない一言だったが、その言葉に全員が武藤を見る。武藤は本当に無意識に言ったようで、ノートから目を離していなかった。それはつまり本気でそう思っているということである。
「ダーリンたら……正直なんだからあ」
「え?」
気が付けば武藤は恋人全員に囲まれていた。そして美紀と洋子が左右からしなだれかかって腕にくっついている。
「あれ? どういう状況?」
武藤は困惑するが、周りが全員肉食獣の目でこちらを捉えていることに気が付き、自分の未来が正確に予想できたのだった。
結局、気が付けば夜までかかって武藤は恋人8人全員を気絶させていた。その後、百合、香苗、真由の3人は帰ったが、残りの5人は武藤宅へと泊まった。明日が平日にも関わらずである。武藤もさすがに自重しようとは思ったのだが、むしろ恋人達の方が積極的だった為、結局武藤は朝までノンストップだった。クリス、朝陽、月夜の3人は早々にダウンしたが、洋子と美紀は結局朝までがんばっていた。
「あんたも月夜みたいに大人しい子が好きなんでしょ」
明け方。洋子と美紀が倒れるのと交代するように朝陽と月夜が目覚めた。そして朝陽の開口一番の台詞がこれである。
「なんで?」
「だって昨日、月夜だけは2回してたじゃん」
「お前の体調が悪そうだったから、無理させたくなかったからな」
「……本当に?」
「嘘言ってどうするんだ。双子とはいえお前らは全然違うよ。どっちかを優先なんてしない」
「どう違うの?」
「そうだなあ。朝陽は強気な性格に反して可愛いものが好きだし花が好きだろ?」
「!? なっなんで知って!?」
「道歩いてるときよく花に視線が行くし、UFOキャッチャーのぬいぐるみを視線で追ってるからな」
武藤のその言葉に朝陽は顔を赤らめて俯いた。
「対する月夜は花よりも猫とか鳥とか動物全般に視線がいってるし、店先なんかにガチャガチャがあると全部チェックしてるだろ?」
「!? ななななんで知ってるんですか!?」
「恋人のことはちゃんと見てるからな」
鈍感な割にこういうところはよく気が付く男なのである。
「徒然草にだって書いてあるだろ。春はあけぼの、冬は早朝、夏は夜で秋は夕暮れ。朝にも夜にも素晴らしいところはある。どっちが上かなんてないんだよ」
何気ない武藤のその言葉に朝陽と月夜は思わず武藤に抱き着いた。
「じゃあ証明して」
「ちゃんと平等にお願いしますね」
二人の言葉に武藤は朝から体で答えることになった。
結局時間ギリギリまで寝ていたクリス達3人はそのことに気が付かなかったが、朝から双子の顔はツヤツヤだった。
「ちなみにさっきのは徒然草じゃなくて枕草子ですけどね」
月夜のその言葉に格好つけた挙句間違えていた武藤はその後酷く落ち込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます