第95話 魔力視

 大会が終わった日曜。武藤宅はまたもや恋人達が全員襲来していた。まるで春休みに戻ったかのように襲い来る恋人達に武藤は休まる暇がなかった。

 


「香苗これ見えるか?」


 みんながベッドに横たわる中、動き出した香苗に武藤が尋ねる。

 

「はてな?」


「正解。香苗はどうやら魔力が見えるようになったみたいだね」


「魔力!? これが!?」


「ええー何にも見えないよ?」


 他のみんなには見えていないようだ。

 

「それじゃあ、ほいっ」


「!?」


 武藤の言葉に百合だけが1人震えていた。 

 

「今、極弱く悪意を込めて魔力を放ったんだけど百合だけが反応してたね。百合はすさまじく感応力が高いみたい。でも耐性がないから敏感に魅了に反応しちゃったのかもしれないね」


「!? ど、どうすればいいの!?」


「今は俺の魔力が百合の中に沢山入ってるから魅了は効かないよ。まあ無くても強い意志があれば弾けるんだけど、普段から常に気を張ってることなんか無理だしね。不安だから向こうから持ってきた魔石をお守りに入れて持ち歩こうか。魔石なら魔法が込められるからそれに結界を込めれば魅了も効かなくなるはずだから。みんなにも配っておこうか」


 魔石は魔物からとれる素材である。勿論こちらの世界には存在しない。

 

 武藤達一行は初詣に行った神社に行き、全員お守りを購入した。そしてその袋に結界効果の魔石を入れた。

 

「ねえ、ダーリン。魔力が見えると何かいいことある?」 


「こっちの世界だとあんまりないかなあ」


 そもそも魔力を使った行動が殆どないのだ。

 

「でもあの魅了の糸は見えたよ?」


「ああ、あれか。確かにそういうのを感じて事前に防ぐのには使えるかもね。でもあいつの持ってるお守りはもう大丈夫じゃないかな」


「どうして?」


「この前ぱっとみた限りじゃ、あのお守りが持ってる魔力が少なすぎて、もう魅了効果はないよ。魔力消費して力を使うタイプかもね」

 

「そっか……よかった」


 百合は心底安堵していた。

 

「あっ魔力視できると一応幽霊とかそういうのも見えるようになるよ」


「!? そ、そそそれは私が見えるようになってしまったというこここことかい?」 


「そうだね。今なら無意識に見えちゃうだろうね」


「ひいいっ!! ななななんとかしておくれよお!!」


 香苗は非科学的な存在に弱い。だが魔法使いという非科学の権化が目の前にいるというのに幽霊の方を怖がっていた。


「そのお守りしてれば近寄れないから大丈夫。悪意がないのはまあ、見えちゃうかもしれないけど」


「いーやーだー!!」


「じゃあ制御できるように訓練するしかないね」


「それってあーし達もできる?」


「そりゃあねえ。ここ最近君達の中は俺の魔力であふれてるし」


 武藤の言葉に恋人達は一斉に顔を赤らめた。魔力とは武藤の出したアレである。それはつまり……そういうことである。

 

 ちなみに魔力はどんどん体内に吸収されやすくなっていく為、やればやるほど魔力が体内に蓄積されていくことになる。体質によるところもある為、一番吸収しやすかったのが香苗ということであった。

 

「まさかとは思うけど制御ってこの前みたいなアレじゃないよね?」


「アレだよ?」


 以前香苗と百合は体内の魔力を直接武藤に操作されたことがある。その時は二人ともあまりの快感に絶頂した挙句おもらしまでしたのだ。

 

「あ、ああれはさすがに厳しいんじゃないかな?」


「でも魔力を動かす感覚をつかまないことには制御なんてできないよ?」


「それより先に気絶してしまうのだが……」


 実際はなんの感覚も与えずに操作はできる。しかし、この男基本的に自分の手で恋人が気持ちよくよがるのを見るのが大好きな為、あえて操作に快楽を与えるようにしているのだ。酷い男である。

 

 結局、恋人達は全員快楽に耐えながら魔力操作の修行をすることとなった。




「むううりいいい!!」


 そう叫んで美紀が倒れた。ちなみに絶頂している。

 

 武藤宅のベッドの上で恋人達は魔力操作の修行をしていたが、あまりの快楽に1分耐えることもできずに全員絶頂して倒れていた。ちなみに武藤は意地悪している訳ではなく、直接魔力を操作すると魔力酔いと呼ばれる状態になることが多く、非常に気持ち悪くなることが多い為、快楽を与えてそれを防いでいるのだ。決して恋人がよがっているのを嬉しがっているわけではない……はずだ。

 

「こ、これ……無理じゃないかな……」


 既にこの短時間で3回も絶頂している香苗が息も絶え絶えに呟く。


「はあ、はあ」


 百合も同じように3回程絶頂しているが、まだ起き上がろうとがんばっている。


「やっぱり百合は魔力に対してかなり敏感だね。これは強い魅了に耐えるの難しいかも……ああいうのを想定して最初からお守りを作っておくべきだったね。ごめんね百合」


「ううん、いいの。魅了よりなにより、私が武よりクラスメイトのことを優先してたのは事実だから。誰よりも私だけは絶対武を優先しなきゃいけなかったのに……」


 新たな学校、新たなクラスメイト。新しい環境での人間関係は難しい。初動がなにより大事な人間関係構築にいそしむのは武藤としても理解できる。だからといってないがしろにされることをよしとするわけではないが、それでも長い間愛し合ってきた事実が消えることはない。今回の魅了の件も冷静に考えれば裏切られたというよりは、抗えなかったと考えれば裏切りではないと理解はできる。百合や香苗を見れば自分を一途に思ってくれているのはよくわかるのだ。なのに信じきれずに疑心暗鬼になってしまった自分はまだまだ未熟だと武藤は反省した。女性関係で自信が全くない武藤では仕方がないことではある。何せこれだけモテていても自分がモテていると思っていないのだから。女性が寄ってくるのは自分ではなく自分についた付加価値の部分だと。お金も魔法もなければ誰も寄ってくることはない。武藤はそう思っている。事実、お金も魔法もない時は浜本の方に女性は行ってしまった(ように見えた)からだ。

 武藤は肉体関係を持った女性は一生愛すべきと思っている。だが、女性側が他の男を選んだ場合は仕方がないとも思っている。最終選択の権利は女性側が持っていると思っているのだ。


「もう間違えないから。誰がなんと言おうと武を一番優先するから」


 そういって抱き着いてくる百合を武藤は優しく抱きしめ返すのだった。

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