第93話 5股魔法使い
結局、騒動が終わってみれば、恋人達は如何に武藤に甘えていたのかを自覚し、武藤の方は聖女からの呪縛が解かれ、結果的には元鞘という形で収まった。ただし、今までのようになんでもかんでも百合にお伺いを立てる百合至上主義はなくなり、全員平等……やや美紀、真由が優位のような感じになった。
今回の件で、恋人達は絶対的な百合信仰が消えた武藤はいつ恋人を捨てるかわからないという不安感が募るようになった。その為、より一層武藤に甘えるようになる。それはわがままを言うというのではなく、単にイチャイチャするという意味である。
「う……ん」
朝陽を浴びて洋子が目をあける。寝たのではなく気絶しただけで、実は一睡もしていない。勿論相手をしていた武藤も寝ていない。久々に百合と香苗と致してしまった結果、興奮冷めやらず、洋子を朝まで抱きつぶしてしまったのだ。
「ほらっ洋子起きて。シャワー浴びて学校行く準備しないと」
「だめー起き上がれない。旦那様連れてって」
そういって甘える洋子を武藤はお姫様抱っこでシャワーへと連れていく。そんなことをすればどうなるか?
「あああっ朝から駄目えええ!!」
延長戦である。そして時間ギリギリで2人は何とか着替えが済み、朝食も摂らずに家を出ることとなった。
「旦那様一緒に乗って」
そういって猪瀬の車に乗せられ、2人はしばしの睡眠をとる。電車と違い寝過ごす心配がないので気が楽である。武藤に肩を預けて眠る洋子の姿は、いつものように気を張った姿が消え失せ、とても自然な感じで幸せそうだった。
学校につくと武藤は姿を消して車から降りた。さすがに猪瀬の車から降りるのがバレるとまずいのだ。
そうして再び武藤にとって平和な陰キャ生活が戻ったのだった。
「クラスのみんなはいいの?」
授業が終わり、自宅に戻ると連日のように百合と香苗も武藤宅に入り浸っており、今までの分を取り返すかのようにべったりとくっついて甘えてきていた。
「あっあっあっ」
「そんなことされてたらとても返事ができるとは思えないけどねえ」
ソファに座っている武藤の上に抱き合うようにくっついて座り、下からリズムよく突き上げられている百合を見て、香苗はそう呟く。
「ああああっ!!」
ビクビクっと大きく体を痙攣させた後、百合はぐったりと武藤へと体を預けるように倒れこんだ。
「次は私の番だよ。百合交代」
「待って……ちょっと……休ませて」
気絶していないのは主導が百合の方だったからである。武藤が攻めると気絶してしまう為、武藤にはあまり動かないで欲しいというお願いだったのだ。
その後、香苗も同じように武藤に美味しく頂かれ、2人供武藤の生命力を吸い取ったかのように顔がツヤツヤになっていた。ちなみに武藤の精液には魔力が大量に含まれている為、実際に若返りに近い効果があったりするが、本人たちは気が付いていない。
「あんまり俺を優先するとクラスで孤立しちゃうから、その辺は気を付けるんだよ」
「武……好きっ!!」
なんだかんだいって結局自分達を心配してくれる武藤に2人は心がキュンキュンとときめき、抱き着いた2人は結局そのまま2回戦が始まるのだった。
「うわあ、大惨事ね」
その後、武藤宅を訪れた真由はリビングを見て唖然とした。明らかに情事の後の匂いが充満しているのである。
「幸次が今日は部活で遅くて正解だったわ」
そういって真由はてきぱきとリビングの掃除を始める。その間武藤達はお風呂である。
「ふう」
「ご主人様。夕食できてますよ」
「兄ちゃんはやくっ」
いつの間にか幸次も来ており、夕食もできていた。それもそのはずで、案の定お風呂で3回戦が行われていたからそれなりに時間が経っているのである。
「ごめん、先に2人を送ってくる。先に食べてていいよ」
そういって武藤は急いで2人を家まで送り転移で家に戻った。
「ん?」
そして夕食後、久しぶりに格ゲー用に使っているゲーム機を立ち上げると大量のメッセージが届いていることに気が付いた。
「チャリティーカップ?」
先日東北地方で地震が起きた。その被害の為のチャリティーゲーム大会が行われるというお知らせだった。それは大会賞金が被災者への寄付となる大会であり、5人で1チームの1試合先取の勝ち抜きチームバトルらしい。それのチームに入ってくれないかという招待であった。
「土曜日の夜か」
今週は仕事もないので暇である。
「暇なんで参加してもいいかなあ。差出人は……」
メッセージの差出人はVTエージェンシー鷹濱マーチと書かれていた。
「ん? ……どっかで見たような……あっ!?」
武藤は思い出した。武藤がプレイ中、武藤から1ラウンド取得したプレイヤーはたった3人しかいない。約2000試合して3回である。その内の2人はプロプレイヤーであり、最後の1人がこのVtuberだったのである。妙に行動がかみ合ってあれよあれよと1R取られたのだ。
「そういえば光瀬が言ってたのってこの子だっけ?」
友人の光瀬が必死に良さを語っていたvtuberが確か鷹濱マーチと言っていた気がする。武藤はおぼろげな記憶でなんとなく思い出した。
「メッセージが来たのは……今日の昼か。それで土曜日試合っていくらなんでも連絡遅すぎないか?」
準備期間が殆どない状態で大会である。武藤なら何の問題もないのだが。
「とりあえずOKの連絡だけしとくか」
参加してもいいという旨のメッセージを返すと即返信があった。
「返信早すぎない?」
メッセージにはお礼と顔合わせをするので21時にこちらへとメッセージアプリのアドレスが記載されていた。
時間通りにそこへ向かうと既に同じチームで参加する残り4人全員が待っていた。
「あっ魔法使いさん!! まさか本当に来てくれるなんて!!」
ちなみに魔法使いは武藤のゲーム内の名前である。
「初めまして。魔法使いです」
「声若い!!」
「ちなみに残りの参加者は全員Vtuberなんです。今配信してるんですがよろしいですか?」
「ああ、大丈夫ですよ」
武藤は配信がよくわかっていなかったが、適当に了承していた。
「では一応ご説明しますと、本当はこのチーム仮想現実はVtuber5人で参加する予定だったんですが、急遽1人急病で参加できなくなりまして、それで誰を呼ぶかってなった時に1位の人呼んでみてっていうコメントがありまして、一応ダメもとでメッセージを送らせていただいていたのですが、先ほどなんと!! ご参加いただけるとの連絡を受けまして、急遽顔合わせとなった次第でございます」
「わあああああ」
「すげえ!! 本当に謎の1位の人だ!!」
「実在の人だったんですねえ」
「というわけで自己紹介させていただきます。私チームのリーダーをしております、VTエージェンシー所属、鷹濱マーチと申します。よろしくお願いします」
「同じくVTエージェンシーの風花風香です」
「同じくVTエージェンシーの冬空茜です」
「同じくVTエージェンシーの緑木葉です」
「全員同じとこじゃねーか!! 俺場違い感半端なくね?」
思わず突っ込んだ武藤にVtuber達もそのコメント欄も爆笑だった。
「魔法使いさん面白い」
「適切な突っ込みうける」
「これは逸材かもしれんな」
「じゃあ魔法使いさん自己紹介お願いします」
「ええ、ご紹介にあずかりました魔法使いです。大会とか出たことありませんし、Vtuberというものを良く知りませんがよろしくお願いします」
「ええっ!? 知らないの!! 私達のことも?」
「知りません」
「……なんか逆に新鮮だ」
ちなみに各Vtuberの配信コメントは凄まじいことになっていた。
「一つどうしても魔法使いさんに聞きたいことがあって」
「なんでしょう?」
「どうしてその名前なんですか? 正式名称魔法使いじゃないですよね」
そう。武藤のゲーム名は正式には魔法使いではない。
「正式には5股魔法使いです」
「酷いっwww」
「鬼畜だっwww」
「外道だwww」
案の定大爆笑であった。
「えっとこれには理由がありまして」
「ほうほう」
「元々名前の参考にした方の名前が三股石油王という方なんです」
「そっちもまたすごいな」
「3股しててしかも石油王ですよ? うらやまけしからんと思いまして。ならこっちは5股にしてやろうとしたんです。でも石油王というわけでもないからじゃあ魔法使いにしようって思って」
これは武藤が実際に5股をしている魔法使いだからである。
「なるほど、それでそうなったわけですね」
「でも実はこれには裏話がありまして」
「ほう?」
「三股って実は……台湾の地名らしいです」
「え?」
「で、石油王ってプレイキャラに石油王がいてそれのことらしいです」
「つまり?」
「日本でいう新宿ジャッキーみたいに地方名にキャラの名前を付けることでその地方での強いそのキャラ使いっていう名前だったんです。つまり三股地方で最強の石油王使いってことですね」
「ええっ!? じゃ、じゃあ魔法使いさんは……」
「プレイキャラに魔法使いなんていないので只の鬼畜ですね」
「「「「wwwww」」」」
Vtuber達大爆笑である。一部の人は呼吸困難に陥るほどであった。
「ひいっひいっさ、酸素がたりない……」
「なんなのこれ面白すぎて死ぬんだけど」
「しかも5股してるのに魔法使いなんですよ?」
「「「「wwwww」」」」
武藤の追い打ちにさらに笑いが追加され、放送事故のようになってしまった。
数分後、漸く落ち着いたVtuber達がようやくしゃべられるようになった。
「はあ、死ぬかと思った」
「顔合わせでなんで死にかけないといけないのよ」
「魔法使いさんを呼んだマーちゃんはやっぱ持ってるわあ」
「私もまさかこんなことになるとは思っていなかったんですけどね」
登録者数がそれぞれ100万人を優に超えるVtuber4人の配信にのった謎の1位プレイヤーの面白さが、一気に世界中に広まったのだった。
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