第87話 魅了
「最近武くんと会ってる?」
「あってない」
学校帰り、陽キャグループにカラオケに誘われ、クリスも含めて楽しそうにカラオケを楽しんだ帰り。百合と香苗は帰り道で話をしていた。
「最近土日が忙しいらしくて全然会えてない」
「メッセージのやり取りだけはしてるんだろ?」
「うん。武って電話はあんまり長くしたがらないから」
「男性に女性との会話は難しいだろうねえ」
女性の会話は要点のみを話す男性とは違い、冗長的になることが多い。酔っぱらいのおっさんのようによくループするのだ。そして意見を求めても本当に意見を求めていることは少ない。ただ賛同、共感して欲しいだけなのである。
「今日、教室を移動している武くんを見かけた」
「え? 嘘? いつ?」
「私達がカラオケに行こうって話をしている時だ。武くんは明らかにクラスで浮いていそうな陰キャっぽい人達と歩いていた。まさしく君が、私が
「……」
「百合。君は今日学校にいる時に1度でも武くんのことを考えたかい?」
「……」
「本来なら彼もクラスの中心で楽しそうに会話するような人間だ。それを無理やり交友関係を狭めるような指示を出して、自分達だけ楽しむ。これがエゴでなくてなんなんだろうねえ」
香苗のその言葉に百合は言葉を発せなかった。3月の空いた時間にかなり仕事をした武藤、いや清明の評判はかなり広まっている。その為、仕事がかなり多くなっているのだ。だが3月と違い時間が空いているのが土日だけである現状、百合達は殆ど武藤と一緒にいることができなくなっていた。
「武くんは自分から裏切るようなことはしないだろう。でも私達が少しでも裏切ったと感じたなら彼は一切の躊躇なく私達を切り捨てる。彼はそういう男だ」
「裏切るなんてそんなこと!!」
「実際裏切ったかどうかじゃない。そう思えるかどうかだ。自分達はクラスのイケメン達と楽しくカラオケに行っておいて、彼には他の女に近づくな。目立つこともするな。それはさすがに理不尽じゃないかな?」
「そ、それは……」
香苗の言葉に百合は反論できなかった。まさにリア充と言わんばかりの生活に間違いなく百合は浮かれていたのである。武藤の犠牲を見なかったことにして。
「君は本当に武くんが好きなのかい?」
「好きに決まってるでしょ!!」
「少なくとも今日の学校では、とてもそうには見えないかったけどねえ」
「……」
いくら精神が大人といっても百合は高校生である。スキルに頼らず異世界で生活してきた為、精神的に成熟している武藤と違い、、スキルの効果で精神的に強くなっていた百合はスキルがなくなった今、精神が肉体に引っ張られているのだ。
「ん? あっ武から電話だ。どうしたの?」
香苗との会話中、ちょうど件の武藤から電話がかかってきた。
「明日? ごめん……明日はクラスメイト達と遊ぶ予定なの。そう。またね」
「!?」
百合のその言葉に香苗は戦慄する。
「どうしたの香苗?」
「……いや、なんでもない」
「? 変なの」
しばらくして百合と別れた香苗はすぐさま武藤へと電話をかける。
「はーい」
「真由さん? なんで武くんの携帯に真由さんが?」
「ああ、ご主人様出かけちゃったからね」
「どこへ!?」
「どこって聞いてないの? なんか明日から時間ができちゃったから急遽アラブだかドバイだかに仕事にいくって。ご主人様仕事の時はスマホ置いていくから私が管理してるの」
「!?」
元々仕事中は電話しないようにしていたが、まさか持ってすら行っていないとは思ってもみなかったのだ。
「どったの香苗ちゃん? 大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫……だ」
とても大丈夫とは言えない声で香苗は電話を切った。
明くる日。この日は
「百合ちゃんこっちに座りなよ」
陽キャなイケメンが百合を自分の隣へと誘う。百合といえばそれになんの違和感もなく従っていた。
「……」
「香苗ちゃんどったの?」
「……君は随分とイケメンだねえ。彼女はいたことあるかい?」
「え? もちろんあるけど……」
香苗の言葉に男はテンションがあがる。
「ならセックスをしたことはあるかい?」
「セっ!?」
「ちょっと香苗!?」
まさかの質問に室内にいた男女ともに赤面した。
「あ、あるけど……」
「そうか。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
「な、なんだい?」
「一晩で何回が最高だい?」
身もふたもないド直球ストレートである。
「えっ……3、いや多分5回は行けると思う!!」
「そうか……ではその間彼女は何回気絶する?」
「え?」
男は戸惑った。なんだその質問は? と。
「さ、さすがに気絶したことはないかな……」
「そうか。なら結構だ。貴重な情報ありがとう」
「お、お役に立てたならうれしいよ……」
「それと君の左のポケットに入っているものを見せてもらえないか?」
「ポケット?」
不思議そうに男は自分のズボンのポケットに手を突っ込むと1つのお守りが出てきた。
「なるほど……それか」
「??」
「それはどこで手に入れたんだい?」
「え? 確か路上で売ってて気に入ったからかったんだ。縁結びのお守りだっていうから」
「なるほど。度々質問に答えてもらってありがとう」
「いやいや、香苗ちゃんの役にたったのならよかった」
「では1つ言っておこう。私を名前では呼ばないで欲しい」
「え?」
「私を名前で呼ぶ異性は血族と彼氏だけだ」
「ええ? 間瀬さん彼氏いるの!?」
室内騒然である。一緒に百合も驚いてる。何故かといえばそれをいうとは思わなかったのだ。
「いるよ。誰よりも愛する彼氏が」
そういって香苗は普段は絶対見せないような蕩けた表情を見せる。男だけでなく女も見とれてしまう程だ。
(なるほどね)
香苗は内心一人納得する。
「でもね。私はそんな彼氏の誘いを断ってクラスのみんなと遊びにくるくらい薄情で下種な女なんだ」
ピクリと百合が反応する。
「彼は仕事が忙しくてね。土日しか会えないんだ。でも今月はその土日すら仕事が入っていてね。ここ1か月ほど会っていない」
「それは放っておいた彼氏が悪いんじゃ?」
「土日に仕事していたのがこのGWに休みを取る為だったとしても?」
「!?」
その言葉にさすがに室内はシーンと静まり返った。武藤に電話した後、冷静になった香苗は再び真由に電話し、色々と話を聞いていたのだ。
「わ、わた、私、なんてことを……」
百合が震えて手で顔を覆ってしまった。
「百合ちゃん!? どうしたの!?」
「触らないで!!」
百合は振れようとした男に叫んだ。
「ふむ。百合はちょっと混乱しているようだ。今日一日はしゃいだから疲れが溜まったのだろう。少し早いが私達は帰るとしよう。ああ、君たちは残ってくれてもいいけど、クリスは一緒に帰ってもらわないと保護者に怒られるから連れていかせてもらおうか」
そういって1年の5女神はカラオケを去っていった。
「……なんだったんだ?」
一緒に数名の女子クラスメートも帰った為、後に残されたのは少し期待していたイケメン達だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます