第86話 陰キャグループ

 入学から1か月も立つとクラス内のカーストも明確になってくる。

  

「武藤新キャラの情報見たか?」


「いや」


「そんな格ゲーよりもマーちゃんだろ」


「誰だよそれ」


 武藤の隣の席、そしてその前の席に座っている男達が楽し気に武藤へと声をかけてくる。やや太り気味のガタイのいい男と痩せた男。そしてメガネにマスクの武藤。そう、まごうことなき陰キャグループである。

 

「でも今時ボクサータイプはどうかと思うんだよ」


 熱く格ゲーについて語るのは吉田大輔。やたらとガタイのいい割に格ゲーオタクである。会話をするようになったきっかけは武藤がスマホを見ているとニュースサイトにその格ゲーの情報が出てきた為、それを見ていた所、偶然隣の吉田がそれをみて食いついてきたというのが始まりだ。ちなみに件のニュースは急にログインしなくなった世界1位(武藤)についてである。アカウントが消されていない為、不正を行ってはいないはずだが、急にログインしなくなったことで色々な憶測を呼んでいる。もちろん武藤はそんなことを気にしたこともない。ただ飽きてきたのでやっていないだけである。

 

「それより昨日のマーちゃんの配信みたか?」


 吉田の前の席から話しかけてくるこの男は光瀬浩一。生粋のVtuberオタクである。話したきっかけは件の格ゲーで吉田と話た時、あのキャラ強くない? といっていた吉田にそういえば結構強いやついたなあと武藤が答えた時である。名前が@vtuberって書いてあったから配信者なのかもっていったときだ。まるでホラー映画のようにぐるんと首が回ったかと思う程、凄まじい勢いで光瀬が振り向いたのだ。「誰? 誰なの? 誰と対戦したの?」とやたらと食いつかれたのだ。ちなみに吉田も武藤もVtuberという存在に詳しくない。吉田は最近格ゲーにVtuberが関わってくることが多い為、偶にみることもあるらしいが、武藤はまだ見たことがなかった。

 

「だから誰だよそれ」

 

「お前はマーちゃんを知らんのか!! VTエージェンシーの鷹濱マーチといえば登録者数100万人を超える超人気Vtuberだぞ!!」


「いや、知らんし」


 熱心に語る光瀬の言葉を流し聞きしていると、他のクラスメイトの視線と声が聞こえてくる。


「あれってオタクってやつ?」


「まじありえないんだけど」


 明らかに見下した視線である。別にVtuberを好きだからといって上か下かなんて決まるものではない。これが陽キャ、もしくはイケメンだったら逆に話が盛り上がるところだ。だが如何せんこの集まりは見た目からして陰キャ軍団なのである。

 

 クラスのカーストというものは陽キャが決める。そして陽キャが一番相いれない存在というのがオタクである。となればどうなるか? カーストがクラスの最下層まで落ちるのである。しかも1度オタクと見られると、なかなか抜け出すことができない。


「あっ……」


 自分が浮いていることに気が付いた光瀬が静かになる。そして居たたまれないような表情になった。

 

「気にするな」


「え?」


「うるさくしなければ問題ない。周りなんて気にするな。自分の好きなものを好きって言って何が悪いんだ。犯罪してるわけでもなし、卑屈になる必要はない。堂々としてろ」


「!!」


 武藤のその言葉に光瀬はあっという間に嬉しそうな表情へと変化していた。

 

「まあ俺はVtuberに興味はないけど」


「ないのかよ!! 絶対はまらせてやる!!」


 そういって楽しそうに会話する陰キャグループを陽キャ男子の2人は興味なさげに見ていたのだった。

 



 その日は移動教室のある授業があった。武藤は陰キャグループの2人と一緒に授業のある教室へと移動していると、偶然百合達の教室の前を通りがかる。何気に教室を見ると、百合を中心に人が集まっており、百合も香苗も楽しそうに会話をしているようだった。積極的に話しかけているのは見た目にすぐわかる程の陽キャと思わしき男子生徒達である。

 

「そういえば聞いたか?」


「何を?」


「この学校元々4女神って言われてる美人の先輩がいるらしいけど、1年のあのクラスの5人が加わって9女神になったらしいぞ」


 あのクラスの5人となれば武藤にも心当たりがある。どう考えてもクリスや百合達のことだ。

 

「4女神ってのは?」


「なんかこの学校、あのMIKIがいるらしい」


「……」


 武藤はそちらにも心当たりが多すぎた。4女神が美紀達3人とすれば知らないのは残りの1人だけである。

 

(女神ねえ)


 クリスお付きの2人を武藤はよく知らない。少なくとも姉の方を女神というやつは目が腐ってるなあと武藤は本気で考えるのだった。

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