高校生編

陰キャ生活編

第83話 入学と双子

「武、写真の時だけはマスクとメガネ外してよ」


「あれだけ付けろってうるさかったのに」


「これで写真撮っても誰だかわかんないでしょ!!」


 武藤は公立なのにこのあたりで一番偏差値の高い中央高校へと進学した。百合、香苗、貝沼、クリスも一緒である。選んだ理由は……近いからである。近いとは言っても電車で5駅離れているが、それより近いところは偏差値が低すぎるというか教師がいい顔をしなかったというか……まあそういうことである。結局一番の理由は百合達が進学するということなのはいうまでもない。

 

 

 入学式が終わり、百合と香苗と一緒にいると、二人の両親が目ざとく武藤を見つけ挨拶に来た。挨拶というよりは父親の牽制といった方がいいのかもしれないが。

  

「所で武藤くんは娘とどのような関係なのかな?」


「うちの娘についても教えて欲しいなあ」


 百合、香苗と写真を撮った後、気が付けば二人の父親に両側から肩を抱かれていた。二人ともにこやかに微笑んでいるが、目は笑っていない。そして肩に置いた手も非常に力が入っており痛い。

 

「ちょっとお父さん!! 武に触らないで!!」


「そうだよお父さん。武くんは私達の大事な人なんだから」


 その言葉に二人の父親はガーンという音が似あう顔でその場で固まった。

 

「か、母さん? 母さん?」


「あらあら、大丈夫よ百合。お父さんはお母さんが連れて行くから」


「あらあらまあまあ、香苗が男に興味を示すなんてね。今夜はお赤飯ね。ほらっ貴方いくわよ」


 そういって二人の母親が父親を連れて行ってくれたことにより、武藤はピンチを脱出した。

 

「助かった」


 引きずられていく二人の姿を見て武藤は安堵した。

 

『あれが百合と香苗のご両親ですか。やさしそうな人達ですね』


 既に肉親がアレックス1人しかいないクリスが寂しそうな表情で、百合達の両親を見つめる。

 

 それを心配そうに見つめる武藤にクリスは振り向いて笑顔で答える。

 

『大丈夫よ。タケシと結婚したらあの人達も私の両親になるようなものだからね』


 そういってほほ笑む姿はまさに現代に舞い降りた女神のようだった。

 

「む? なんか今危険な香りが……」


「なんかやられたセンサーが発動したねえ」 


 言葉が通じないのに百合と香苗は勘だけで反応する姿は武藤を戦慄させた。

 

「でも武だけクラスが違うのは残念だったね」


 入学式の前、掲示板に張り出されていたクラス表には百合、香苗、クリスが同じクラスで武藤だけが違うクラスということが書かれていた。ちなみに3人が一緒のクラスになるのは規定事項だ。多額の寄付金をしている猪瀬の力であることはいうまでもない。ちなみに武藤だけが違うクラスなのも意図的である。一緒に居たら絶対クリスが武藤のところに行ってしまうからだ。そうなると武藤を目立たせないように考えている百合や香苗の意図と反することになってしまう。何せクリスは目立つ。ただ立っているだけでも男を引き寄せてしまう程には美少女である。そして負けず劣らず百合も香苗も美少女である。その3人がベタベタとくっつけば……考えるまでもないことだ。

 

「武地味化作戦開始よ!!」


『別にタケシがモテてもいいと思うんだけどなあ』


 言葉はわからずとも言っていることはなんとなくわかるクリスがそう答える。この二人はやりあっている時間が長いからか、言葉など通じなくても思いが大分通じるようになっていた。

 

「まあ確かに武くんなら何人いても問題ないと思うんだけど、私達の分が減っちゃうと……ねえ?」


 香苗は特に何がとは言わない。だが舌なめずりしそうな、まるで肉を前にしたライオンのような表情から武藤は何を言わんとしているのかは容易に察することができた。

 

「そんなぱっとしない男がモテるとは思えないんだけど」


「お、お姉ちゃん!!」


 聞き覚えのない声に振り向くと2人の美少女が立っていた。

 

「??」


 武藤としては全く知らない顔である。

 

『あ、私の通訳としてついてきてくれることになった猪瀬の人だよ』


 武藤が頭に?マークを浮かべているとクリスがそう答えてくれた。

 

『どうせ男なんてみんな下半身でしか考えられないゴミなんだから。クリス様には近づかないで欲しいわ』


「初対面ゴミは酷くない?」


『!? 貴方英語わかるのね。ほんの少しだけ、微粒子レベルで見直したわ』


「お、お姉ちゃんがすみません!! 私、クリス様のお付きとして派遣されました斎藤月夜と申します。そちらは姉の朝陽です」


「こんなやつに紹介する必要なんてないわ」


 以前、洋子がいっていたクリスの通訳兼お付きの人らしい。しかし、まさかの双子である。


「朝陽さんと月夜さんて同い年だったの!?」


「びっくりだねえ」


 どうやら百合と香苗は面識があるようだ。恐らく猪瀬の屋敷であったことがあるのだろう。武藤はクリスのお付きの人と会ったことはあったが、この2人との面識はなかった。恐らく外出する時は違う人なのか、それともローテーションなのかはわからないが。

 

「私達は元々洋子お嬢様のお付きになる為に教育を受けていたんです」


「そ。それで留学していたんだけど、お嬢様が2年になるから一緒の学校にって満を持して帰ってきたのに……」

 

 どうやら元々猪瀬家の使用人の娘らしく、元々洋子につくために幼い頃から英才教育を受けていたらしい。

 

「剛三様からお嬢様ではなくクリス様に付けとご命令が……」


 幼い頃から洋子の元につくことを前提にがんばってきた二人には寝耳に水だったのだろう。勝気な姉朝陽だけでなく、妹の月夜の方も納得がいっていない感じは武藤にもひしひしと伝わってきている。

 

「百合ちゃんも香苗ちゃんも畏まってさん付けなんてしなくていいわ。クラスメートなんだから」

 

「わかった。これからよろしくね朝陽ちゃん、月夜ちゃん」


 武藤は知らなかったが、この2人も勿論クリスと同じクラスらしい。

 

「ん?」

 

 キっ!! という音が聞こえそうな程、朝陽は鋭く武藤を睨みつけた。しかし別段何かを言ってくるわけでもなく、武藤としてもなんで睨まれているのか全く理解していないので、特に気にした様子も見せなかった。


『ではクリス様帰りましょう』


「それでは百合さん、香苗さんまた明日」


 朝陽がクリスを先導し、月夜が百合達へと挨拶しながらクリスとお付きの3人は猪瀬の車で帰っていった。

 

「朝陽ちゃんなんであんなにピリピリしてたんだろ?」


「男嫌いなのかもねえ」


 こうして武藤の高校生活は波乱とともに始まった。

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