第76話 恩と魅力

「な、なんでダーリンがアレックスに会ってるの?」


「まさかアメリカに行ったのって……」


「そういうこと」


 武藤のその言葉に女子高生達が騒ぎ出した。

 

「私もハリウッドスターに会ってみたかった!! 連れてってよ!!」


「危ないから無理だよ。銃乱射事件だってあったんだよ?」


「うっそれを言われると……でも1回本物のスターに会ってみたかった」


「ほらやっぱり。俺よりアレックスの方がいいんじゃん」


「え? いや、違うの!! そういうのじゃなくて手の届かない存在に対する憧れっていうかファンていうか、そういうのだから!!」


「でも実際会えるんなら会いたいでしょ? それで口説かれたらどうするの? 会えるのなら手の届かない存在じゃないよね?」


「あう……」


「ほらほら、旦那様美紀をいじめないの。そもそも旦那様に出会う前から美紀はファンなんだから、そこはしょうがないと思うな」


「洋子!!」


 洋子のフォローに思わず美紀は洋子に抱き着いた。

 

「でも洋子はアレックスと俺を比べたらアレックスを選ぶだろ?」


「選ぶわけないでしょ。別にファンてわけでもないのに」


「洋子はあくまで猪瀬の利点で俺を選んでたでしょ? つまりアレックスが猪瀬の力になってたらアレックスを選んでたってことじゃない?」


「……そこは否定できないかな。でも旦那様がいなきゃそもそも猪瀬がアレックスとつながりを持つことなんてできないからそこの仮定に意味はなくない?」


「いや、どっちを選ぶかって話。俺とアレックスを比べて俺を選ぶ奴なんていないと思うんだが」


「なんの情報もなく見た目だけでいえばアレックスを選ぶ人が多いだろうね」


「情報があってもアレックス選ぶだろ普通。イケメンで性格もよくて金持ちって完璧超人だぞあいつ」


「旦那様がそこまで言うのならすごい人なんだろうけど、それだと一緒に居て疲れそう。それにハリウッドスターなんてスキャンダルに追われるのが仕事みたいなものだし、普段外出歩けないでしょ。私はやっぱ旦那様がいいかなあ」


「俺みたいにマスクにメガネ姿にすればよくない?」


「んー確かにそれでもいいけど、でも旦那様を深く知ってる人からみたら、相手が誰だろうと絶対旦那様を選ぶと思うわ」


「それはそうね」


「間違いないね」


 洋子の言葉に美紀と真由もうんうんと頷きながら賛同する。

 

「旦那様は私が猪瀬の利益だけで自分を選んだと思ってるかもしれないけど、全然違うから。確かに最初のきっかけはそうかもしれないけど、最後は私が自分で旦那様を選んだんだからね。猪瀬の本家の一人娘の貞操はそんなに軽々しいものじゃないのよ?」


 そういってしなだれかかってくる洋子に実際貞操を奪ってしまった武藤としては何の反論もできなかった。


「あーしだってダーリンがいいもん!! あくまでアレックスは映画やTVの中の人だから!! 実際会った男で初めて気になったのダーリンだもん!!」


 そういって美紀も洋子に負けないように武藤に抱き着いてきた。


「アレックスいい男なんだけどなあ」


「どうしてダーリンは彼女に他の男を勧めるの!!」


「俺なんかよりよっぽどいい男だから。かなあ」


 実際に武藤は本気でそう思っている。あれと自分を比べて自分を選ぶ奴はどこかおかしいと。

 

「実際私を助けてくれたのがその人だったら確かにそっちを選んだかもしれないけど、実際私を助けてくれたのはご主人様ですから」

 

「そうよ。お母さんを助けてくれたのはダーリンだし、うちのお父さんを説教してくれたのもダーリンだし、ダーリンのいない人生なんて考えられないよ!!」


「旦那様は無自覚に人を助けるから、それがどういう意味を持ってるか深く考えてないでしょ? 確かに恩を感じる部分も多いけど、それからその人が好きになるのは別に不思議なことじゃないよ? それもまた人の持つ感情の一つなのだから」


 洋子達にそういわれ、そうかなあ? と武藤は首を傾げた。美紀や真由にはそもそも恩を売るという気持ちで助けてきた訳ではないので、それで惚れるということに理解が及ばなかった。

 

「これは……理解してないわね。いいわ、旦那様の家にこれから向かいましょう」


「そうね。ダーリンには体でわからせる必要があるわね」


「洋子」


「なに? お母さま」


「孫は出来るだけ早くお願いね」


「わかったわ」


「!?」


 さらっと流された母娘の恐ろしい会話に武藤は戦慄しつつ、洋子達に引きずられるように部屋を連れ出された。

 

 

 

 

 

 

「おや、お嬢様。おめでとうございます。相変わらずお綺麗ですねえ」


 玄関の門から出て、前に止められた車に乗り込もうとした時、急に隣から声をかけられた。

 

「あら、竜司。おめでとう。褒めてくれてうれしいわ」


 そういって竜司という男と洋子が笑顔で会話する。言葉だけならただの新年のあいさつだが、その会話を実際見ていた真由と美紀は震えあがっていた。

 

(二人とも全然目が笑ってない)


 元がヤのつく稼業である。その雰囲気たるや尋常ではない。

 

「そいつが最近噂になってるお嬢様の旦那候補ですかい?」


 既にマスクにメガネ姿の武藤を見て竜司が洋子に尋ねる。


「噂?」


「あれ? 知りませんでしたか? なんでも本家のお嬢様がご執心な男がいるって噂が結構広まってますよ。さすがに男嫌いとも言われてるお嬢様がそんな訳がないって思ってたんですが……その姿を見ると事実のようですねえ」


 嬉しそうに武藤に抱き着いている洋子に竜司がそう告げる。武藤については緘口令がしかれており、その情報は漏れていない。だが、マスク姿の武藤と楽しそうに歩いている洋子の姿は目撃されている為、噂はそこからの推測であった。

 

「そうね。噂は正しいわ。もう私の身も心も・・・・旦那様のものなの。だから貴方の求婚には答えられないわ。ごめんなさいね竜司」


 しれっとそう告げる洋子に一瞬竜司の眉間に皺がよった。

 

「それはそれは。正月とは違う意味でおめでとうというべきですかね」


「ありがとう竜司。旦那様との仲を認めてくれてうれしいわ・・・・・・・・・・・


「!? ちっ」


 竜司は己の失態を悟った。おめでとうということは、二人の仲を認めたということになるのだ。これで竜司は二人の仲について文句を言えなくなった。

 

「それじゃごきげんよう竜司。貴方にも良縁があるといいわね」


「……お気になさらず」


 なんとかそう答える竜司の拳には、血がにじんでいた。

 

 


「誰?」


「ああ、旦那様が見つかる前に私の旦那候補だったやつ。いつもいやらしい目つきで胸ばっかり見てきてたの。今思い出しただけでも鳥肌たっちゃう」


 そういって洋子は二の腕をさする。

 

「顔はよさげだけど、なんかにじみ出る小者臭がすごかったね」


「あっははは、美紀ったら酷いわね。まあ、あってるけど」


「でもあれ全然洋子のこと諦めてなさそうだったよ?」


 真由が心配そうに洋子に声をかける。


「確かにね。でもさっき自分で旦那様との仲を認めたから文句はいってこれないわ。あるとしたら……旦那様を直接狙う感じかしら?」


「ああいうのは自暴自棄になったらなにしてくるかわからないよ?」


 実際ストーカー被害にあっている真由からしたら、親友が同じように気が狂った相手に襲われそうで気が気ではない。


「俺を直接狙うならいいけど、家に来る真由や幸次を狙うなら考えないといけないな。まあちょっと見張って何かしてくるようならその前に潰しとくよ」


 異世界で暗殺者を暗殺するこの男の警戒網を突破するのは、この世界の人間には不可能である。武藤の師匠ですら本気を出した武藤の気配探知から逃れることはできないのだ。

 

「さっすが旦那様。頼りになるわあ。後は……子作りだけね」


「え?」


「お母さまにも頼まれちゃったし。早く仕込んでね?」


「あっ洋子ずるい!!」


「さすがに在学中に妊娠はまずくない? 俺まだ中学生だよ?」

 

「今でも十分養えるでしょ? でもまあさすがに高1でお腹おっきくなるのはまずいか。私達が高校卒業寸前なら大丈夫かな?」


「卒業式にギリギリお腹が目立たないくらいがよくね?」


「じゃあ1月くらい? 3か月くらいなら目立たないでしょ?」


 そんな恐ろしい会話が女子高生3人で繰り広げられているのを武藤は呆然と見つめていた。

 

「なんで在学中の妊娠にこだわるのかな?」


「だって……高校生を妊娠させるなんて男の夢でしょ?」


「……いや別におっさんじゃないんだから特にそういうのはないんだけど」


「ええー!? 男はみんなそうだって聞いたのになあ」


「それいったやつ連れてきなさい」


「え? お母さまに用事?」


「はい、すみませんでした」


 まさかの洋子の母親の入れ知恵だった。実際洋子の母親は高校在学中に洋子を妊娠しているので、その説明にはものすごい説得力があった。

 

(魔法が使えてよかった)


 洋子の母は目的の為ならゴムに穴を開けたりくらいは平然としかけてきそうなのだ。

 

(さすがに高校1年で父親はやばいだろ)


 例え子供を養える程の金額を稼いでいたところで、武藤がこちらの世界では未成年なのは変わらないのだ。

 

(ちゃんとみんなには教えておかないとな) 

 

 その後、武藤宅で肉体言語で3人はわからされることになった。調子にのった武藤に3人は掌や足の指、耳等で絶頂させれるほどには開発されまくった。結局武藤そちらに必死になりすぎて、妊娠のこと等すっかり忘れてしまっていたのだった。

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