第67話 永遠の夢
「突然どうしたの洋子?」
洋子の母である芳江は普段なら忙しくあまり時間が取れないのだが今日は偶々家にいた。
「マ――お母さま。ちょっと試してもらいたいことがあるの」
「??」
よくわからないままに芳江は化粧を全部落とさせられすっぴんにされた。かなり嫌がっていたようだが、洋子から「若返る魔法がある」というまさに魔法の言葉によりあえなく撃沈した。
「洋子、本当でしょうね?」
「旦那様が嘘を言ってると?」
「いえ、婿殿、武さんのいうことは信じておりますよ」
何せ武藤は現在の猪瀬を陰から支えている存在である。その魔法の力も見たことはないが聞いてはいるので、猪瀬家での信用度はかなり高かった。
「それじゃちょっと触りますね」
武藤は座敷に正座している芳江の正面に周り、頬を両手で挟む。目を閉じて集中し、肌の感触を確かめつつ体全体に魔法の領域を展開する。
(十分に若いと思うんだが……)
とても30代とは思えないくらい肌の質がよい。だが確かに老化している部分が見受けられるのも確かだ。
(さっき確認した洋子達くらいくらいまで再生すればいいか)
洋子達、つまり16歳の肌艶である。30も後半になればいかに若いといわれるとはいえ、自分が一番自分の肌には詳しい。そして気づいてしまう。10代の頃にあったハリがもう自分からは感じられないことに。
「これは!?」
うっすらと芳江の全身が光につつまれた。
「お母さま!?」、
その光が収まった時、驚愕に包まれたのは芳江ではなく、周りで見ていた武藤の恋人達だった。
「おば様すごい!!」
「すごっ!? 若い!!」
普段から芳江を見慣れている美紀と真由も驚愕に包まれた。
「どうしたの?」
「これを見てお母さま」
そういって洋子から手渡された手鏡に映る自分の姿を見た芳江は固まって動かなくなってしまった。
「これが……私?」
鑑の中には洋子と変わらない姿があった。
「やっぱり母娘だけあって似てるな」
少しずれた感想を抱く武藤を無視して女性陣は大盛り上がりだった。
「お母さますごい!! 女子高生みたい!!」
「おば様すごいよ!! 今度一緒にモデルしようよ!!」
「これみたらおじさまも驚くんじゃないかな?」
洋子達女子高生組3人はキャッキャと騒いでる。
「ふむ、確かに若返っているように見える。細胞が新しくなった? それとも元に戻った? テロメアの復元? 謎だ……」
「この魔法があれば武にいつまでも若い姿を見せられるね」
百合達中学生組は芳江と接点があまりないため、女子高生組には加われずにいた。
「武さん」
「はい?」
「この魔法の効果はどれくらいです?」
「さあ? 試したことないのでわかりません」
「そうですか。凡その検討はつきますか?」
「あー芳江さんにしたやつは現在の肌年齢を洋子と同じくらいにまで時間を戻した感じなので、元に戻るのに同じ年月は必要ですね」
「え?」
武藤が日常会話の何気ない一言のように告げた言葉に芳江だけでなく洋子達も固まってしまった。
「つまりお母さまの肌年齢が私と同じになったってこと?」
「そうなるね。あくまで戻したのは肌の細胞だけなんで、肉体までは戻ってないけど」
「……これを一定時間で効果が切れるようにできるかしら?」
「? 多分できますよ? 戻すのではなく回復させる感じにすれば、一定時間で切れると思います」
「すばらしい!!」
「!?」
普段声を荒げない淑女として名高い芳江が初めて獣の咆哮のような声をあげたことにその場にいた一同が全員驚いた。
「美の追求は女に生まれたら誰しも少しは考えるもの。しかもそれが永遠の若さとなれば、まさに究極の目標であり夢でもあるわ。人類で未だ誰もなしえたことのない夢。それが今、目の前にあるのよ!! しかも病気と違って何度でも必要!! これは1度でも体験すればもう2度と手放すことはできないわ。お金持ち程その思いは強いの。つまり、その人たちはもう貴方に逆らうことはできない。貴方は女にとってまさに神にも等しい存在になったのよ!!」
珍しく大興奮している芳江に武藤はドン引きである。男の武藤からしたら儲かるのなら別にやってもいいかくらいの気持ちである。自分の恋人達ならいつまでも美しいままでいてもらいたいが、歳をとるごとに得られるものもあると武藤は思っている為、そこまで若さにこだわりはなかった。と、いうのもまだ武藤は十五歳であり、異世界でも二十歳そこそこだったので、歳をとるという感覚が未だにわかっていない為だ。
「これは世界をとれる魔法だわ」
うっとりとした表情でトロンと蕩けるような瞳で虚空を見つめる芳江のその姿は洋子に生き写しだった。
「でもお母さまの言う通りよ。これは危険な魔法だわ」
「そうね。バレたら間違いなく監禁されるわね」
「世界中のお金持ちが全財産をかけて確保に動くわね」
何しろ確保できれば無限に金を生み出せる金の鶏である。その確保にいくらお金をつぎ込もうと関係ないのだ。
「それならまだマシな方じゃないかな。私としては実験動物一直線だと思うのだが」
香苗のその指摘に武藤も納得する。一人ではなく人工的に同じ力を持つものを作れれば利益はもっと増えるのだから。特定の人物だけがもつ一過性のものよりも確実である。
「事は慎重に運ばなくては……武さん、しばらくこのことは内密にお願いね」
「わかりました」
女性の狂気の部分を見てしまい武藤は久しぶりに恐怖を感じるのだった。
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