第62話 心の防壁

「幸次、今日はプレゼントがあるんだ」


「……どうしたの姉ちゃん? テンション高いね」


 武藤宅での初日のバイトが終わり、武藤に家まで送ってもらったその日。真由は弟に紙袋を手渡した。

 

「!? これ……なんで?」


 真由の弟が袋から取り出したのは現在の覇権と呼ばれているゲーム機であった。


「新しいバイト先のオーナーがね。なんかクレーンゲームで当てたらしくて、もう持ってるからって1つ譲ってくれたんだ」


 もちろんオーナーとは武藤のことである。まさか中学生とはいうわけにもいかず、間違っていない為オーナーと表現を濁していた。

 

「余ってるって売ればいいじゃん」


「なんでもオーナーはゲームは絶対売らないんだって。だからやらなくなったら返してっていってた」


「なにそのこだわり。でもそれならいい……のか?」


「いいに決まってるじゃん。後被って買ったソフトもいくつか貰ってきた」


「ゲームソフトをかぶって買うの!? そんなことある!?」


「なんかネットで予約してたの忘れて店頭の特典みて買っちゃうんだって」


「あー確かにそれならありえないこともない……のかな?」


 多少腑に落ちないようではあるが、幸次の顔は笑みが隠し切れないでいた。

 

(ずっと欲しかったんだもんね)


 TVでゲームのCMを見るたびに欲しそうな顔をしていたのを真由は知っている。そして友達との話題にもついていけなくて悲しんでいたことも。

 

「さっそくやってみよう。このレースゲームならお姉ちゃんやったことあるから」


 それは先ほどまで武藤宅でやっていたレースゲームである。ちなみに真由は1度も勝てていない。あの後来た百合とも勝負をして負けている。

 

「よーし、じゃあ勝負だ姉ちゃん!!」


 幸次は嬉しそうに真由と対戦を繰り広げた。そして真由は初プレイの弟にも勝てず、全敗を喫するのだった。

 

 

 




「ご主人様、ゲームありがとうございました。幸次――弟もすごくよろこんでました」


 次の日。夕食も終わってまったりとゲームをしていると真由が武藤に対してお礼を述べた。

 

「いいよ別に。余ってたやつだし。それよりさ、弟さんは夕食どうしてるの?」


「朝作り置きしたやつを食べて貰ってます。母は帰りが遅いので」


「なら夕食もっと多くつくってくれていいよ」


「え?」


「2人分だけ作るのもあれだからもっといっぱいつくってさ、まかないとして家に持って帰っていいよ」


「!? そ、それはさすがに悪いのでは……」


「どうせ作るのは関谷さんでしょ。手間が変わらないなら俺は構わないよ。っていうか一人で食べてるんなら夕方からこっちに弟さん呼んで一緒に夕食とる? 一緒に食べた方がおいしいでしょ。帰りは一緒に送ってい――ちょっと関谷さん!?」


 気が付けば真由は武藤に抱き着いていた。その豊満な胸の谷間に顔を埋められ、武藤は困惑していたが、それ以上の幸せに頬が緩んでいた。。


「ご主人様、私……」


 そういって真由は瞳を潤ませて武藤を見つめる。その距離は瞳に映る自分の姿が武藤に見える程だ。

 

「駄目だよ関谷さん。その場の雰囲気にながさ「百合ちゃんには許可をもらってます」ええ!? いつの間に!?」


「昨日百合ちゃん――奥様が来た際にご主人様が席を外されていた時に……」


 武藤が知らない間にそんな話があったらしい。

 

「でもさすがに「私じゃ駄目ですか?」」


 百合の許可が出ていると知ってから武藤の心が揺れ動いているのを真由は正確に感じ取っていた。そしてこの機を逃さないとばかりに押し込んでくる。

 

「いや、だめじゃふぐっ!?」


 問答無用で真由は己の唇を武藤へと押し付けていた。

 

「初めてのキス。責任取ってくださいね。ご主人様」 

 

 そこで武藤の精神の防壁は脆くも崩れ去った。1時間後。気が付けばリビングで一糸まとわぬ男女が二人、汗まみれでソファに寝ころんでいた。

 

 

 

 

 

「しちゃいましたね」 


「……」


「すごかったです、ご主人様」


 超絶美少女の見た目ロリ巨乳のメイドコスプレは武藤の精神防壁を紙のようにあっさりと貫通した。それはもう1秒持たないレベルであった。百合の許可がなければATフィールド並に鉄壁なのだが、それがなければ紙なのである。

 

「従業員に手を出してしまうなんて……」


「もう恋人でしょう?」


「俺でいいの?」


「ご主人様じゃなきゃ嫌です」


「恋人をご主人様呼びはさすがにまずくない?」


「メイド兼、恋人ですから」


 よくわからない理由だった。外で聞かれたらそういうプレイを強要しているとして武藤の社会的地位が大変なことになりそうだが、真由が嬉しそうなので武藤はあえてなにもいわなかった。

 

「あっ、撮った動画後で送ってくださいね」


 そう、相も変わらずハメどりである。これは決して武藤の趣味ではなく、昨日百合が来た時に真由に対して言ったからである。「武藤の恋人たちは初めてをハメどり動画で残して保持している」……と。理由としてはそれがあることにより、武藤と離れられなくなるからであり、それにより武藤から信頼を得ることができるというのが主な理由だった。それに納得した真由は、だったら自分もということで撮影させたのだ。

 

(中学生で恋人5人。というか嫁5人。養えるかなあ)


 武藤ハーレムは順調に増えていた。ちなみに5人どころか10人でも平気で養える程の蓄えは既にあるが、生活費に使うお金以外は全て猪瀬から派遣されている税理士が管理している為、その金額全てを武藤は把握していない。ちなみにこの税理士は武藤に子供の命を救ってもらっている為、武藤に対して絶対の忠誠を誓っており、裏切る心配がないことは猪瀬から報告済みである。

 

ピンポーン


「ひいいっ!?」


 玄関の呼び鈴が鳴るだけで、武藤は昨日に引き続き恐怖を感じとった。

 

「やっぱり……」


 案の定、来たのは百合であった。

 

「百合……これは……」


 既にお互い服を着ているとはいえ、リビングには濃厚な匂いが残っている為、そこで何が行われていたのかはすぐにわかる。 

 

「奥様!! やりました!!」


「おめでとう真由さん。これで貴方も仲間ね」


「え?」


「元々真由さんは仲間に引き入れるつもりだったのよ。武に惚れてることは一目でわかってたし、美紀さん達の親友だしね。こういうのは間があくと拗れてなかなか関係が進まなくなるから、早いうちに手を出させるべきってアドバイスしたの。私が許可したっていえば絶対手を出すはずだからって」

 

 手を出すことも百合の想定内だったということらしい。聖女……おそるべし。

 

「これからもよろしくね。真由さん」


「はいっ奥様!!」


「まだ中学生に奥様って……」


「外では百合ちゃんって呼ぶから。家ではやっぱり正妻は奥様でしょう?」


「まあ、家でならいいけど……」


 気が付けば百合の奥様呼びと武藤のご主人様呼びは定着してしまったようだ。

 

「あっそういえば関谷さ「真由」え?」


「真由って呼んでください」


「真由」


「はいっ!!」


「先月スマホ買い替えたんだけど前の奴いる? 壊れてないし傷一つないんだけど」


「ええ!? いいんですか!?」


「2年前だけどハイエンド機だし、今の最新のゲームでも余裕で遊べるくらいスペック高いから。只最近のゲームだと熱を持ちやすいけど、長時間やりこむようなゲームじゃない限り問題ないから。シムフリーだし」


 お金が有り余っている武藤は評判のいい最新のハイエンド機にスマホを買えたばかりである。以前使っていたのに問題があるわけではないが、最近になってスマホゲーをしている際の本体の熱さが気になり買い替えたのだ。


「格安スマホで契約してもこの本体は使えるから、弟さんに持って行ってあげ――」


 全部を言う前に再び武藤は真由に抱きつかれていた。大きな谷間に埋もれた武藤は幸せそうな顔をしていた。隣からブリザードが吹き荒れていることに気が付くまでは。

 

「はっ!?」

 

 漫画ならギギギと錆びついた扉のような音が表現としてかかれそうな程、少しづつ首を回して武藤が隣を振り向くとそこには目が完全に死んでいる最愛の恋人の姿があった。

 

「あら幸せそうなお顔ですこと」


(ひいいい!?)


 口は笑っているが目が笑っていない。絶対零度の表情でこちらを見る百合の姿に武藤は凍り付いた。

 

「私はそんな豊満なものは持ち合わせていませんから。ええ」

 

 決して小さい方ではないのだが、武藤の周りに大きい者が多い為、最近胸にコンプレックスを抱くようになっていた百合である。

 

「ふぉふふぉおふぉふぉ」


 武藤が必死に弁明するも再び真由に抱きしめられ谷間に挟まれて何を言っているのかわからない。

 

「これはお仕置きが必要ね」


 そういって百合は谷間に挟まれて動けない武藤のズボンを脱がしにかかる。

 

「!? ふぉふぉ!?」


 1時間後。気が付けば裸の男女3人がリビングに突っ伏していた。

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