第58話 バイト

「そうか……自分が駄目なら武くん以外の男に抱かれたことのある子を武くんに抱いてもらえば違いを聞くことはできるな」


「香苗まだ諦めてなかったの!?」


 どうしても武藤の性的能力の価値を客観的に知りたい香苗は、他の男との比較をまだ諦めていなかった。

 

「映見と由美に頼んでみるか……」


「円満にいってる友達のカップルに亀裂が入るようなことはしないの!!」


 百合に特大の釘を刺さされるも香苗はまだ諦めていないようだった。

 

「香苗。友達に迷惑がかかるようなことはやめなさい」


「……はい」


 ついには武藤からでかい釘がささり、さすがの香苗も観念したようだ。武藤が愛する少女にかなわないようにまた愛する少女も愛する男にかなわないのである。

 



「嘘……」


 その後、ボウリングに戻ると武藤は検証結果を試した。一番安定するのはテクニック云々よりも決められたコースに決められたパワー(強め)が一番という結論に至り、気が付けばパーフェクトを取っていた。生まれて初めてのゲームの次のプレイでパーフェクトである。

 

「ダーリンすごいっ!!」


「さすが旦那様!!」


 美紀も洋子も恥ずかしげもなく武藤に抱き着いていた。周りのレーンからも超絶美少女達のハーレム状態を構築している武藤へ関心が寄せられている。マスクにメガネの地味な男がパーフェクトを出して美少女達を侍らせているのである。それはもうSNS映えしそうな光景だ。

 

「そこ。勝手に撮らない」


「!? ご、ごめんなさい」


 武藤は無断で撮影している少女を見つけるとすぐさま注意した。そして他にも撮ろうとスマホを取り出している者たちへと視線を向ける。

 

「……」


 視線を向けられた人達は黙って素直にスマホをしまった。仕舞うまでは武藤が視線を動かさなかったからだ。いきった男ならここで開き直るのだが、そういう人物に対しては武藤は殺気を向けていた。その為、男達は素直に従うしかなかったのだ。普段なら殺気など感じるようなこともないのだが、武藤の殺気は生物の本能に訴えかけるレベルである。どんなに鈍いやつでも鳥肌が立つくらいには感じるのだ。

 

「武藤君てこんなにすごいの? わかってはいたけどここまでとは思ってなかったなあ」


「だから言ったでしょ。ダーリンはすごいって」


「美紀はいつもそうじゃん。すごいってしかいわないからわかんないよ」


「ははっ確かに美紀はそうだね。でも旦那様のすごさは見ないとわからないところがあるから」


 洋子の言葉に真由はたしかにと頷いた。ストーカーから守ってくれた時にもすごいとは感じたが、まさか生まれて初めてやるボウリングで、すぐさまパーフェクトが取れる程、なんでもできる天才とは思っていなかったのだ。

 

「これでいてダーリンすごいお金持ちだからね」


「そうなの!?」 


「しかも親が稼いでるわけじゃなくて、旦那様自身が稼いでるからね」


 その言葉に真由は閉口した。それなりにイケメンで優しくて、運動能力も高く喧嘩も強い。聞けば学業も成績がいいらしい。そして親に頼らずに自身がお金持ち。さすがにそれは属性盛りすぎじゃないか……と。小学生女子の考えた私の理想の王子様でもそこまでは属性盛らないレベルである。女子は小学生ともなれば精神レベルが上がる為、ある程度現実が見えてくるのである。フィクションであってもある程度は現実を見据えて妥協する部分が出てくるのだ。だが真由が見る限り武藤は弱点が見えてこない。あるとすれば複数の女性を侍らせていることくらいだが、それは女性側が求めていることであり、武藤の方から進んで4股している訳ではないのだ。

 

(医者の息子とか政治家の息子とか、権力者の息子で親の力でお金持ちっていうのならわかるけど……)

 

 武藤は純粋に個人の能力で金持ちであり、しかも本人は興味ないが、色々な分野に信じられない程のコネクションも持っている。実際その力は武藤というよりは猪瀬の力となっているし、売れているのは武藤の名ではなく、清明の名であるが。

 

「そういえば関谷さんはメイド喫茶でバイトしてるってことは料理できるの?」


「え? メイド喫茶は基本的に出来合いの物を出すだけなんで料理はしてないかな。でも普通のお店でバイトしてたこともあるし料理は得意なほうだよ?」


「一度聞いてみたかったんだけど、バイトが料理提供って大丈夫なの? 調理資格とかの関係上」


「よく誤解されるけど、料理店を開くのに調理師免許っていらないんだよ」


「え? マジ?」


「マジマジ。私もバイト先で聞いて初めて知ったの。必要なのは食品衛生責任者と防火管理者って資格らしいよ」

 

「へえ、そうだったんだ」


「そう。だから逆に女子高生の料理ってことで一部にすごい人気があったくらいよ」


 そういって真由は笑みをこぼす。

 

「そんなお店あるんだ」


「おばあちゃんが一人でやってたお店なんだけどね。民家みたいなところにお客さんと向かい合って大きな鉄板があって、そこでお好み焼きとか餃子とか焼いてた」


 真由のような超絶美少女が汗だくで自分の為に焼いてくれるのである。それはもう人気がでないはずがない。武藤はその光景を思い浮かべて一人納得した。

 

「まだやってるの?」


「おばあちゃんが体調崩しちゃってね。それで息子さんの所に行くことになってお店閉めちゃったんだ」


 そういう真由の顔はさみしそうだった。いいバイト先だったのだろう。


「こう見えて真由っちは女子力ものすごい高いからね」


「こう見えてっていうな!!」


 小さな真由が美紀にパンチする姿は妹が姉にじゃれついているようにしか見えない。

 

「確かに真由は料理だけじゃなくて家事全般得意よね」


「ハウスキーパーのバイトもしたことあるしね」


 随分とバイト経験があるようである。

 

「なら家でバイトする?」


「え?」


「俺、簡単な料理はできるけど面倒で基本的にインスタントかコンビニか牛丼屋なんだよね」


 土日は百合達が来たときは料理を作ってもらえるが、平日は基本的に武藤は外食で済ませている。食事の為に一々時間をかけるのが面倒なのだ。それは異世界での旅の経験から、食事は時間をかけずに短時間で済ませるという生活が長かった影響なのかもしれない。異世界の街の外で食事に時間かけると襲われる可能性が高くなるからだ。

 

「メイド喫茶で何時間バイトしてるのかわからないけど、平日の夕方から夜までの間に夕食を作ってくれて、後は適当に掃除なんかしてくれれば……」


「くれれば?」


「時給3000円だそう」


「ご主人様!!」


 2コマ即落ちである。

 

「えーいいなあ。それなら私もやりたい」


「百合も?」


「百合達がやるなら私もやりたいねえ」


「さすがに3人も必要ないし、恋人と金銭を介する関係はやだなあ」


「うっそれは……」


「確かにそれだと恋人からランクダウンしてるねえ」


 そういって百合達二人はバイトを諦めた。

 

「メイド喫茶やめたら毎日通います!!」


「無理して毎日こなくても、都合悪かったら連絡してくれればいいから」


「真由っち行くなら私も仕事ない日は毎日ダーリン家に遊びに行こうかな」


「だったら私も行こうかな」


「ずるいっ!! なら私もいく!!」


 平穏な平日にまで浸食してくる恋人達に武藤は戦慄する。夏休みが終わり、平日になってから一応受験生(武藤、そして百合も香苗も推薦組)なので爛れた毎日は送っていない。土日に武藤の仕事がない日だけは肉欲の日々を送っているが、平日は遊びに行くことはあれど、基本的にエッチなことはしていないのである……ほとんど・・・・

 

 武藤も年若い健康な男である。魅力的な恋人が誘ってくれば、そりゃあ襲ってしまうのも仕方がないことだ。ただ、夏休み程タガが外れてやりまくったりはしていない。武藤も大分自重することができるようになってきたのである。だがこれで毎日家に入り浸りされたらどうなるか?

 

(がんばれ俺。きっと俺なら自重できる)


 武藤は魔王と戦う前のように自分自身を鼓舞するのだった。

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