第57話 貞操観念
その後、武藤は5人と楽しく遊び回った。美紀達はついにいつものメンバーがそろったことから、かなりのテンションの高さで、武藤を引っ張りまわしていた。
「武藤君にも苦手なものってあったんだ」
「でも生まれて初めてやったボウリングで100超えてるんだからすごくない?」
「しかも途中からなんか実験してたし」
武藤は初めてのボウリングということで、ボールの回転と投げる時の力加減、レーンのボールへの作用等を投げながらに調べていた。その結果スコアは120と一般的なものに収まった。
「じゃあ2人づつで別れてチーム戦しようか」
「わかった。じゃあ初めてなんで真由っちはダーリンと組みなよ。私達はあまり絡まない同士にしよう。私はカナちゃんと組むね」
「じゃあ私は百合ちゃんと組もう。よろしく百合ちゃん」
「よろしくお願いします」
「固いよ百合ちゃん。私達もうお互いのお尻の穴まで見た「わあああああ!! 何ってるんですか洋子さん!!」」
休みの日に武藤家にて行われるサバト――いや
「しかも百合ちゃんはあっちの方面じゃ私達の師匠じゃん。いつも最後まで気絶を耐えるの百合ちゃんだし。どれだけ旦那様に仕込まれたらあれだけ耐えられるの?」
実際技を仕込んだのは悪乗りした異世界の娼婦達であり、武藤に対する耐久性は異世界から何年も抱かれ続けてきた経験である。
「……言っておくけど、武……まだ本気じゃないよ?」
「え?」
「1回だけ本気だされた時、本当に死んじゃうかと思って泣いてやめてもらったことあるもん」
その言葉に百合と真由以外の恋人達の顔が青ざめる。
「よく映画とかで薬漬けにされてる女の人って出て来るけど、あれがそんな感じなんだろうなあって」
「そ、そんなにすごいの?」
恐る恐る美紀が尋ねる。怖いながらも愛する男性のことなので、興味が恐怖心に勝ったのだ。
「魔法でさ、感度を何倍にも上げられるんだって。だからその気になれば握手しただけで絶頂させられるらしいわ」
「!?」
「それを体の敏感な場所全部にやられるのよ?」
あまりのことに百合以外の武藤に抱かれている女性陣の顔色がさらに青くなる。
「私、もう自分が何されてるかすらわからなくなって、一瞬だけ心配した武が手を止めた時に意識が戻って、そこで泣いてやめてもらったの。あれがなきゃ狂って死んでたかも」
想像を絶する武藤の本気に洋子達は恐怖した。今まででも十二分に離れられないくらいの快楽を与えられているというのにそれがまだ全然本気ではなかったのだ。
「私が初めての時、百合と二人だったのだが、あの時も本気ではなかったのかい?」
「本気モードで最後までしてたら多分廃人になってると思う」
その言葉にさすがの香苗も絶句した。
「だ、ダーリンはそんなことしない……よね?」
「言われなきゃしないよ」
「ほっ」
武藤の言葉に美紀達は安堵の息を漏らす。
「ただ、他の男に目移りしそうな感じがしたらその前に離れられなくする為にするかも」
「それなら安心だね。ダーリンから目移りなんてしそうにないし」
「そうだね。旦那様以外興味ないし」
「……私は最近他の男にも多少興味がでてきた」
「!? 香苗?」
香苗だけまさかの答えが返ってきた。
「考えても見たまえ。私達は男は武くん以外知らない。だから一般の男性と武くんの違いがわからないんだ。私達にとってはこれが普通だろう? だが聞いてみたところ、普通の男は一晩中なんてそうそうできないそうだ。ましてや3人以上同時なんて余程の性豪でもないかぎり無理らしい」
「ええっ?」
「そうなの!?」
美紀と洋子が驚く。
「しかも普通は一晩中というのも休憩しながららしい」
「え?」
「そういえばダーリンて……」
「そう。武くんは4人を相手に一切休みを取ることもなく、文字通り一晩中やることができる。というか翌日までやり続けることができる。なんだったら次の日のお昼過ぎても続けてやってることすらある」
それがどれだけ異常なことなのか、香苗以外のメンバーは漸く理解した。
「私達はあまりにも武くんに毒されてそれが異常だと気が付いてすらいなかったんだ」
「……カナちゃんはどうして気が付いたの?」
「百合が風邪で休んだ時に映見と由美……まあ百合と私の友達だな。彼氏持ちの彼女達と話をしていて、違和感に気が付いたんだ。普通は気絶なんてしないし、1回か2回したらおしまいなんだそうだ」
「えっ!? 1回!?」
「気絶しないの!?」
「私もそれが普通だと思っていた。だが違ったんだ。武くんはいわゆる性豪の類なのだ」
気が付けば武藤は恋人から性豪の称号をつけられていた。
「普通は毎回気絶するほどの絶頂に至ることなどないし、寝ることも許されない程、一晩中愛され続けることもないらしい」
「それって逆に興味があるわね。ダーリン以外とはしたいとも思わないけど見てはみたいね」
「そうね。旦那様以外のエッチっていったいどんなんだろう」
美紀と洋子は武藤以外の男性の性交に興味津々である。
「私もそう思ったから、先ほどの他の男性に興味があるという発言をしたわけだ。武くん以外に触れられたくはないが、知らないと比較ができないからな。私達の恋人はこんなにすごいんだということが理解できていないことが悔しいんだ」
「別に他の人はどうでもよくない? どうせ武以外とはしないんだし」
「百合は気にならないのかい? 知れば武くんはこんなにすごいんだぞと、自信を持って自慢できるのに」
「そんなの知らなくても元々武は自慢できるところしかないでしょ」
ぐうの音もでない正妻の一言で香苗たちは沈黙した。
「1回でも武以外に自ら体を許したら、例え武が許しても私が絶対許さない。そんな人には武を愛する資格はないから」
それは普段温厚な百合が見せた初めての威圧であった。
「ふむ、他の男に触られるなんて嫌悪感しかないだろうし気持ち悪いだけだろうが、我慢して1回やってしまえば普通の男はこんなものか? 武くんの方が何倍もすごいってなるだけだと思っていたのだが……」
「武の気持ちを考えなさいよ。別れてないうちから他の男と関係を持つって浮気以外のなんなのよ。武は私達の方から何人も同時でいいからっていい寄っているのであって、武の方からいい寄ってる訳じゃないのよ?」
基本武藤は百合が中心であって、それ以外は手を出した責任がある為に囲っている。自分から他の男にいくのなら、武藤が囲う必要はなくなるのだ。もちろん囲うのに愛がないわけではない。寧ろ武藤の愛は本人には全く自覚はないがかなり重い方である。が、自分から離れていく者に対しては恐ろしくドライな男な為、別れたら例え香苗であろうとも一切のためらいなく、記憶から香苗のことを完全削除することであろう。そうしないと愛が重い武藤の心が耐えられないからだ。それは武藤の防衛本能なのである。
「確かにそうだね。すまないね武くん。誤解されないように言っておくが、私が興味を持っているのも愛しているのも君だけだ。ただ、他の男を知ればより一層君をより深く愛せると思った故の考えだった。浅はかな私を許して欲しい」
「別に実際浮気した訳じゃないんだからいいよ。ただ他の男とするなら別れてからにして欲しい」
「……止めないのかい?」
「他の男の元に行ってほしくないとは思うけど、香苗の気持ちは香苗だけのものだ。俺から気持ちが離れたとしたらそれを止めることはできないよ。別れるなら理由くらいは教えて欲しいけどね。嫌になった部分が直せるなら直すように努力はしたいから」
武藤は基本的に女性に対しては受け身である。付き合っても居ない女性に自分から迫ったことは一度もない。何せ日常的に無意識に女性を褒め、さりげなく助けたりするわりに、女性に対して恩着せがましくしたりしない。ガツガツと迫るどころか、興味を示すことすら殆どないのだ。強引に引っ張ってもらいたい気質の女性以外は大抵それだけで落ちてしまっていた。故に自分からいかずとも引く手数多なのだ。異世界での百合との初めての時もそうであり、武藤が主導権を持っていたように思わされているが、実際は武藤が
「まだ私は君から求められる存在ではないということか」
「馬鹿ね。そんなの私だってそうよ」
「百合が!?」
「私が1度でも裏切ったら武は迷うことなく私を捨てるわ。武は自分からは求めない。だから私から求めるの。でも私だっていつかは武の方からどうしても欲しいって求められたいと思ってるわ」
一番武藤と仲が深いはずの百合ですら求められていない。いや、正確には百合がそう思っているということに香苗は驚いた。百合が離れたら間違いなく武藤の心は壊れるだろう。以前、浜本がかかわったという情報だけでも壊れかけていたのだから。にもかかわらずそう思うということは、百合自身が自分に自信を持っていないということである。
恋人に対する絶対の自信というは難しいものである。ましてや中学生なのだから仕方がないと香苗は思っている。だが実際百合は世界で一番武藤を愛している自信もあれば愛されている自信もある。ただそれと不安に思う気持ちは別なのだ。相手がすごい存在であればあるほど、比べて自分はどうかと思ってしまうのが人という生き物だから。たとえ相手がそんなことを思わない人間だとわかっていても、理解とはほど遠い感情なのでどうしようもない。
異世界に居た百合なら聖女というステータスがあった為、周りから見てもお似合いという認識があっため大丈夫だったが、こちらの世界ではお互いただの中学生である。帰ってきて最初の頃は問題なかったが、現在の武藤は世間を賑わせている有名人であり、すでに億を稼ぐ男である。只の中学生は自分の方だけなのだ。本当に自分は武藤に相応しいのか? 武藤からの愛に既におぼれている百合だが、それが深まるほどに逆にその思いが強くなっていくのだった。
一方香苗はといえば、武藤が百合以外の恋人が他の男に気が向こうともその子が欲しい、こちらを向いて欲しい、他の男から奪いたい、そういう気持ちが存在しないということを理解していた。自分を慕う者には際限のない愛を返すが、求めなくなったものには見向きもしない。他を向きそうになったら止めようとはするが、一度でも向いてしまったら興味がなくなる。それが武藤という男の生まれ持った性質なのだと思っている。それを超えて愛し合っている百合がいかにすごいのかも理解しており、自分がその状態になるのには一体どれだけの信用を積み重ねればいけないのか想像もついていない。まず百合にそこを理解させるのが、親友としての自分の役割だと認識していた。
「自分を欲しいと思って欲しい。そう思ったとしても他の男を使って興味を引くのはまた意味が違うわ。武は鏡なの。求めたら同じだけ返ってくるし、反対を向いたら同じように反対を向く。でも一度でも目を反らしたらその鏡にはもう自分の姿は映らないの」
「なるほど……逆に見ている限りは捨てられることもないというわけなのだな」
「他の男に目移りしたあげく、自分の中では武が一番だからOKなんて思っていても、それを決めるのは自分じゃないからね」
「確かに他の男に興味を示したが、それは武くんをより一層愛したいが故なのだ。武くんが嫌がるのだとしたら絶対にしない」
香苗は人一倍好奇心があるが、武藤への気持ちは興味や好奇心だけではない。実は自覚していないだけでかなり一途な性格をしている。ただ武藤以外との男女間での肉体的な接触にそれほどの価値観を持っていない為、NTR属性を持つ百合がこれほどの嫌悪感を示すとは思っていなかったのだ。
それは遊びで援助交際を繰り返す少女と近しい貞操観念といった方が理解できるだろうか。だが援助交際の場合は自身の体に金銭的な価値は認めているが、香苗の場合はそれすらもない。ただ暇な男が自分の上で腰を振っているくらいの感覚である。だから武藤と出会わなければ、香苗もまた武藤と出会わなかった場合の真由と同じく、明るくない人生になっていた可能性が高かった。何しろ他の男に体を開くことになんの忌避感も抱いていないのだ。興味本位で男を比べることすらあったことだろう。
だが武藤という雄にどうしようもなく惹かれてしまった現在ではその未来は訪れない。何故なら香苗自身は気が付いていないが、実際に武藤以外の男に触られた場合、本人も想定していない程の嫌悪感に襲われるのである。それは本人も自覚していない程、武藤に対しての思いが強いせいであり、どうしようもなく惹かれる雄に出会ってしまった雌の本能でもあった。
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