第41話 ハーレム構築論

 武藤達一行家まで車で送ってもらった後、魔力の補充をしに海へ向かおうとする武藤に百合と香苗も付いてきていた。何故かギャル子もである。


「何で貴方まで来るのよ!!」


「いいでしょ!! あそこの海は元々私の縄張りだし!!」


 移動中も相変わらず百合とギャル子は言い合いをしている。逆に仲がいいのでは? と武藤も思いはじめていた。


「ギャル子くんだったかな?」


「ギャル子いうなし!! 美紀ってよんで」


「じゃあ美紀。言わせてもらうが武くんのハーレムはあくまで正室は百合であり、それは絶対だ。それは武くんも認めている」


「私が奪うし!!」


「無理だ。まずは百合に認められないと武くんは見向きもしない。それは絶対のルールだ」


「う……」


「だが逆にいえば百合を一番と認めさえすれば、仲間に入れるということだ」


「!?」


「3番目では駄目なのかね?」


「だって3番目じゃ……」


「武くんの愛は1番でも3番でも変わらないよ。武くんの信用さえ得られればね。各いう私も百合が私を親友として信頼してくれているから、恋人になれたんだ。君はどうする?」


「うう……」


 ギャル子は頭を抱えて悩んでいる。色々と葛藤しているのだろう。


「私が一番出会いが遅かったのは確かだし、最初はダーリンを馬鹿にしちゃったのも確かだし……百合さん!! 私もダーリンを愛する仲間に入れてください!!」


 今までの態度とは打って変わってギャル子は百合に深く頭を下げた。


「ええ!? ちょっと……もう調子狂うわね。はあ、もういいわ」


「ほんと!!」


「でも忘れないでね。わ・た・し・が1番よ!!」


「わかってる!! よろしくね、ダーリン!!」


「ちょっとおおお!! わかってないいい!!」


 武藤の腕に抱き付くギャル子に対抗して反対の腕に百合は抱き付く。武藤ハーレムに新たにギャル子が加わったのだった。


(なんで? ハーレム? なんでこんなことに!?)


 自分の知らないうちに何故か着々とハーレムが構築されていくことに戦慄を覚える武藤だった。




「あー海久しぶりかも」


「ここで初めてダーリンとあったんだよねっ!!」


「……武聞いてないんだけど?」


「こわいこわい。百合落ち着いて? そんなにいい話でもないから。ギャル子の奴いきなり人を中二病呼ばわりしたあげく、犬をけしかけようとしてきたんだよ」


「うっごめんなさい……でもでも!! 海で一人立たずんでてさ、今なら魔法が使える気がするとか言ってたら誰だってそう思わん?」


「ぷふっ……そ、それは確かにそう思うかも」


「くくくっ武くんそれは美紀は悪くないな」


「でっしょー? あーし悪くないし!!」


 何故か四面楚歌もいいところである。全員に反撃され武藤は落ち込んだ。


「本物なのに……」


 そういって武藤は女性陣からは目を逸らし、海に向かって魔力を吸収し始めた。


「あっ!? そっか、ダーリン本物の魔法使いだった……じゃあ全然おかしいこといってないじゃん!! ごめん私……」


「いいよ。君達がどう思ってるかよくわかったから。もうみんな帰ったら? 俺はしばらくここにいるから」


「!? ご、ごめん武。その……笑うつもりはなくて……」


「す、すまない武くん。君が本物だというのを失念していた」


 初めての武藤のそっけない態度に女性陣は慌てた。だが実際にはこれは武藤が女性達に心を許してきている証拠である。


 百合以外の人に甘えるということがなかった武藤にしては大幅な進歩なのだ。実際香苗はそれに気が付いている。だが拗ねた恋人の機嫌を取るのとはまた別の話なのである。


「うああああん、ダーリン嫌わないでえええええ!!」


「なんで泣いてんの!?」


 女子高生ガチ泣きである。生まれて初めての状況にさすがの武藤も焦る。


「その……武怒ってる?」


「怒ってないよ。でも集中したいから今日はみんな帰ってくれないかな?」


「絶対怒ってるううううああああああん!!」


「ギャル子うるせえ」


「すまないね武くん。さあ、邪魔になるから今日はみんな帰ろう」


 そういって香苗が2人を連れて帰ってくれた。漸く武藤は魔量吸収に集中することができた。ギャル子の母親を治すのに思いの外魔力を使ってしまったのだ。暗くなる前に終わらせたかった武藤はついつい邪魔をしてくる女性陣にきつい言い方をしてしまったことを反省していた。


(後で謝っておかないとな)


そう思いながら武藤は魔力を集めるのだった。







「香苗どうしよう。武に嫌われたかも」


「大丈夫さ。武くんは嫌ってないよ」


「どうしてわかるの?」


「今まで彼があんな態度をとったことがあるかい?」


「……ない」


「機嫌を損ねた態度をとるということは、つまり私達に甘えているということさ。それは私達に心を開いてきているということでもある」


「え?」


「少しづつだが彼の信頼を得られているということさ」


「本当?」


「ああ。だけど機嫌を損ねているのは間違いないから、こっちも甘えるか、甘えさせてあげてイチャイチャすればすぐに機嫌を直すよ」


 香苗のその言葉に百合も美紀も一旦落ち着きを取り戻した。



「ねえねえ、ところで百合ちゃんとカナちゃんはさあ、ダーリンともうした?」


「切り替え早いな美紀は。したというのはもちろんアレかい?」


「そう、もちろんあれよアレ!!」


「沢山してるわ。それはもう数えきれない程」


「!? すげええ!! さすが百合ちゃん。いや百合さん。正妻だけのことはあるわあ」


「ふふんっ貴方とは愛の歴史が違うのよ」


 珍しくない胸を張っての百合のドヤ顔である。


「でもあーしだってしたし? 対等じゃね?」


「はああ!? い、いつの間に!! まさかどこかで内緒で会ってたというの!?」


「落ち着け百合。恐らくだが君達の見解には相違がある」


「そうい?」


「美紀。君の言うアレとは……キスのことだろう?」


「?? そうだよ?」


「!?」


「わかってるね、百合」


 百合は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「百合ちゃんどったん?」


「百合の想像するアレと美紀の想像するアレが違った。ただそれだけのことさ」


「百合ちゃんは何を想像したの?」


「性交だ」


「成功?」


「まあ平たく言えば……セックスだ」


「せっく――」


 そこで美紀は顔を真っ赤にして固まった。


「な、なにし――ええええええ!? 沢山してる!? 中学生で!?」


 実は初心な美紀の動揺は凄まじかった。しどろもどろになり、挙動不審になり、完全にてんぱっていた。


「おや? 君はギャルっぽい見た目だからてっきり遊んでいるのではないかと思ったのだが、どうやら違うようだねえ」


「あ、遊んでなんかないし!! そ、そういうのはその……けっ結婚する人としか……」


「じゃあ武くんとは出来ないね」


「!?」


「今の日本の法律じゃ結婚できるのは一人だけ。百合が正妻な以上、他は内縁の妻にしかなれない」


「!! そ、そんな……」


「何か問題があるのかね?」


「え?」


「彼と一つ屋根の下でくらし、彼の子供を産み、一緒に育てる。そこに結婚という概念は必要あるのかい?」


「だって……ええ?」


「問題は姓だけで、それも武くんが結婚と離婚を繰り返せば名乗ることもできる。まあ彼に×が沢山つくことになるが彼は気にしないだろう」


「そ、そういう問題なの?」


「そういう問題だ。必要なのは愛する彼が傍に居ることと、愛する彼の子供を産むこと。そして一緒に育てていくこと。どうだい? 全て満たしているだろう?」


「いや、言われて見れば確かにそうだけど……あれ? いいの??」


「へんな既成概念にとらわれるから物事の本質が見えないんだ。物事はもっと単純に考えた方がいい」


「そうなのかな……まあずっと一緒に居られるならいっか!!」


「そうそう。だから存分に彼に抱かれるといい」


「抱かっ!? そ、その……カナちゃんも……してるの?」


「もちろんさ。彼は私達二人を同時に朝まで抱き続けることができる」


「ふたっ!! 朝まっ!?」


「処女だし不安だろう。だが安心したまえ。彼は超が付くほどのテクニシャンだ。多少の痛みよりもあっと言う間に快感が押し寄せてくる」


 ゴクリ。美紀は喉を鳴らした。


「すごいぞ彼は。初めてでも絶頂させることができるんだ。信じられない程の快楽に溺れてしまわないように注意したまえ」


 香苗の言葉に美紀は不安よりも大きな期待の方が心の大部分を占めていることに気が付いていなかった。

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