第39話 魔法

「ところで武くん少々聞きたいことがあるんだが」


「なに?」


「君……何か隠してることがあるね?」


 その言葉に武藤と百合は固まった。


「何故そう思うんだ?」


「最初に違和感を覚えたのは、以前私が言った言葉に対する二人の反応だ。『異世界から帰ってきた勇者』そういった時に珍しく二人とも固まっていたからね」


「……」


 武藤は困惑する。どんな洞察力をしているのだこいつはと。


「固まるような要素、緊張するような要素は何もないはずだ。荒唐無稽な話なら。だが二人は固まった。ライトノベルのような内容の言葉に……だ。さすがに私もまさかそんな訳はないとその場は見過ごした。これがまず1点目」


 武藤と百合はその言葉を聞き固まっている。


「2点目。いくらなんでもマッサージで処女膜の治療は無理だ。そんな外科的なことをマッサージで行うなんて、それこそ魔法でも使わないと不可能だよ」


 マッサージとは以前百合の友達をしたときのことであろう。さすがにアレをマッサージで治すのは無理があるとは武藤も思っていたことだった。


「3点目。あのバスケ全国決勝での動きはさすがに人智を超えている。眼を閉じてあれだけのプレイは現存する人類では無理だ」


 1プレイなら出来るかもしれない。だが途切れない継続したゲームで続けるのはさすがに無理である。


「そして最後。MIKIとの会話から彼女のお母さんになにかしたね? 恐らくだが……怪我や病気の治療じゃないかな? 会話から察するに。恐らくそれに魔法的な要因が絡んでいると読んでいる」


 あれだけの会話でここまでわかるのかと武藤は香苗に戦慄を覚える。


「すごいな香苗は。全部自分で気づいたのか?」


「否定しないということは、私には隠すつもりはないといことか。そこまで信頼されていると恋人としては嬉しいな」


「武本当なの?」


 武藤はこちらでも魔法が使えることを百合にも言っていない。


「ああ。香苗の想像通り。俺と百合。そして吉田は異世界に行っていた」


「!?」

 

 想像はしていたが、本人の口から発せられてもとても信じられる内容ではなかった。





「ふむ。なるほど。それで納得できた。出会ったばかりであのラブラブっぷりはさすがに無理がある。長年の付き合いからできたものだったんだな」


 異世界での話をすると、香苗は漸く納得できたと安堵の息を漏らす。


「いやあ、本当に愛し合う二人なら出会った瞬間からこんな風になるものなのかと、心底驚いていたのだよ。私がそのような状態にならないのはやはり百合と違い運命の出会いではないからなのかと不安だったんだ」


「香苗……」


「それで、武くん。魔法は使えるのかい?」


「使えるよ」


「!? 武? 聞いてないんだけど?」


「俺は百合と違って特別な力を貰ってないからな。全部自力で覚えたんだ」


「なるほど。だからこっちでも使えると?」


「そう。自力で覚えた力ならこっちに帰って来ても使えるんじゃないかと思って、向こうで厳しい修行に耐えてきたんだ」


「でも元々は帰るつもりはなかったんだろ?」


「ああ。それでも万が一にでも戻される可能性も考えていたから」


「なるほどね。備えあれば患いなしか。さすがは私の愛する人だ」


 そういって香苗は武藤にしなだれかかる。


「ならば私が言いたいことは分かるね?」


「考えとくよ」


「……随分曖昧な答えだねえ」


「だって……死ぬよ?」


「え?」


「実際覚えるのに必要な過程を経過するだけで、指の数じゃ足りないくらい死にかけたからね」


「……そんなに危険なのかい?」


「まず身体操作の修業方法自身は簡単。ただ失敗したら死ぬから1回こっきりのぶっつけ本番。失敗率はそのままだと100%。だから事前に修業がいるの。その事前準備の為の修業を生き延びるのに両手両足の指じゃ足りないくらい死にかけた。その事前準備が魔法習得の為の修業かな」


「……残念だがやめておこう」


 香苗は素直に諦めた。さすがにこの武藤が20回以上死にかけるような修業は無理だと判断したのだ。


「百合はどうなんだ? 魔法は使えないのか?」


「わ、私は持ってたスキルに依存してたから……」


 聖女に紐づいたスキルが消えた今、百合は単なる中学生である。


「でも……百合も香苗も体に魔力を感じるんだよなあ」


「「え?」」


「なんでだろ……オーラも無しでとどめて置けるのかな」


 確かにオーラに混ぜれば体内に一定量とどめておくことができる。いざという時の為に武藤も体に保持できる分はため込んである。通常は持っている魔石から使用するが。


「魔力がある。私と百合に武くんから渡されたもの……あっ!!」


「わかったの香苗?」


「精子だ」


「え?」


「私と百合に共通して武くんから渡された物といえば精子しかない」


 そういって下腹を抑える香苗。それを見た百合は顔を赤くしていた。


「だって君……全く避妊しないじゃないか……」


 そう。武藤はただの一度もゴムを付けたことがない。


「あっそうか!! 魔法!!」


「ばれたか」


「え? どういうこと?」


「武くんは魔法で避妊してたんだよ!!」


「え!? だって……そんな魔法あるの?」


「作った」


「ええええ!! 早くいってよ!!」


「ごめんごめん、言いそびれてた」


 嘘である。この男、実は避妊せずに中にだして「赤ちゃんできちゃう」とか「中はだめえ」とか彼女達に言わせたかっただけである。芝居と本気でいうのとは違うため、本気で言わせる為にあえて黙っていた外道である。


「本当に心配したんだからね!!」


「はい、すみません反省してます」


 これには武藤も反論できない。自分でも外道なことをしていることを自覚していたのだから。


「これで一安心だな。私達もわかっていてあえてやらせていたところもあるから、お互いさまということにしておこう」


「香苗はいい女だなあ」


「今頃気づいたかね」


「元々気づいてたよ」


 そういって武藤が香苗を抱きしめると百合がむうっとした表情で背中から抱き付いてきた。


「話を戻すと武くんの精子には魔力が宿っていて、取り込んだ私達はそれが体内に残っているということで間違いないか?」


「多分だけどね」


「ならそれを使って魔法が使えないかな?」


(オーラ無しで操作はどうなんだろう? ああ、オーラをオーラとして認識させずに魔力を直接操ってるように思えばいけるのか?)


「試したことないからわからないな」


「じゃあ試してみよう」


 香苗はぐいぐいと来る。


「いや、それはまた今度に――」


「怖かった」


「え?」


「避妊してないのに、武くんたら中に出してやるとか孕めとか言ってガンガンついてくるんだもん」


「……」


 悪乗りしていた武藤には心当たりしかなかった。


「試してみます」


「やった!!」


「あっ!? 思い出した!! そういえば香苗そういいながらがっちりだいしゅきホールドして足離さなかったじゃん!!」


 武藤のその言葉に香苗は明後日の方向を向き口笛を吹きだした。


「全然怖がってないじゃん!!」


「でも今試すって約束した!!」


「……試すとは言った。だがいつとは言っていない」


「!? ずるい!! 武くんずーるーいっ!!」


「ねえ。正妻の私を置いてイチャイチャするのやめてもらえない?」


「「はい、すみません」」


 一瞬で二人は正座して謝罪した。目からハイライトが消えた百合に二人は逆らえないのだ。



「やるとしたらまずは百合からね」


「ええー」


「スキルだよりとはいえ、魔法を使ってたからね」


 そういって武藤は百合の手を掴み、百合の体内の魔力を外部から操作してみる。


「!? えっちょっあっああああああ!!」


 百合はびくんと体が震えた後その場に崩れ落ちた。下には水たまりができている。フローリングだから助かった。これがカーペットでも敷いていたら大変なことになっていただろう。


「あーやっぱりか。何となくそんな気がしてたんだ」


「どういうこと?」


「魔力があるのは武くんの精子。ではそれはどこにある?」


「……お腹の中?」


「正確には……子宮だよ。君のせいで中イキまでするほど開発された私達のそこを君が直接操作なんてすれば、そりゃそうなるさ」


 香苗は予測していたらしい。


「じゃあ次は香苗だね」


「え? あっちょっああああああっ!!」


 同じように香苗も崩れ落ちた。勿論下は水たまりである。結局二人とも着替えることになり、服を洗濯している間、武藤のTシャツ1枚の姿になり、案の定武藤に襲われ結局いつもの通りの日常になった。



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