第38話 ギャル子襲来と寝取られ属性
「おかあさん!!」
病院から電話があり、ギャル子こと吉永美紀は母の病室へと駆け込んだ。
「あらあら、どうしたの美紀ちゃん。そんなに急いで」
いつも通りおっとりとした母親の姿は昨日とは比べ物にならない程、若々しく元気であった。
「な、治ったってほんと?」
「ええ、なんか色々と検査してるんだけど……なんか治っちゃったみたい」
「そ、そんなことありえるの?」
「ほんとは内緒なんだけど美紀ちゃんにだけ教えてあげる」
「え?」
そういって近寄る美紀の耳元でギャル子母は小声で呟く。
「昨日魔法使いさんが来たの」
「え?」
そういって美紀の脳裏に思い浮かぶのは件の少年である。
「姿は見えなかったけど声は若い男の人だったわ。まだ子供かも?」
その言葉に美紀の疑惑はますます深まっていく。
「それで魔法をかけてくれたんだけど……なんか疲れちゃったみたいでね。治療が終わったらすぐ消えちゃったの。でも妙なことを言ってたわ」
「妙な事?」
「ギャル子がどうとか……」
「!?」
その言葉に美紀の疑惑は確信へと変わった。自分をギャル子と呼ぶ男。魔法使い。もう該当する人物は一人しかいなかった。
「美紀ちゃん!?」
美紀は母親をそのままに病室を飛び出した。
(居ない)
いつもの海に来たが件の少年の姿は見つからなかった。思えば彼の連絡先も知らなければ名前すら知らなかった。
(どこにいるの!?)
美紀は当てももなく唯々がむしゃらに探し回っていた。そして二人の美少女と歩いている件の少年をついに見つけた。
「居た!!」
「え?」
思わず美紀は武藤へと飛びついた。
「おい、お前なにしふぐっ!?」
気が付けば武藤は美紀にキスされていた。
「ぷはっいったいなにが」
その後、武藤は美紀に抱きしめられていた。
「ありがとう。ありがとう」
美紀は号泣しながら抱き付いたままだった。
さすがに泣いてる女性を引き離すこともできずされるがままにしていたが、両隣から凄まじいプレッシャーを感じていた。
「おや武くん。恋人を前にいい度胸だねえ」
「いや、これはちがっ」
「百合もなんか言ってあげたまえ。ああ、そういえば君は寝とられ――」
「駄目ええ!!」
そういって百合は抱き付く美紀を引き離した。
「駄目なの!! 武は私のなの!!」
寝取られ属性はどこへやら。百合は本気で嫌がっていた。
「……貴方誰?」
「私は武の恋人よ!!」
「ちなみに私もだ」
「へえ。武っていうんだ。ダーリン私のファーストキスどうだった?」
「だ!? 誰がダーリンですか!! 武は私の!!」
「私達のだろう?」
「へえ、恋人が二人もいるんだ。まあダーリン程のいい男なら仕方ないかな」
「どうしたっていうんだギャル子? 一体なんなんだ?」
「貴方がそれをいう? お母さん。貴方でしょ?」
その言葉に武藤は沈黙する。何故ばれた?
「分かりやす過ぎ。そもそも私の事をギャル子って呼ぶ自称魔法使いなんて貴方以外いないでしょ」
「!?」
武藤は本気で気づいていなかった。あまりの魔法的疲労で最後は朦朧としていたのだ。
「名前も知らない私の為に、本気で心配してくれて、お父さんに説教までしてくれて、しかもお母さんまで治してくれた。これで惚れない訳ないじゃん」
「あーいやあ、多分人違いだと……思うぞ」
「ダーリン名前教えて?」
武藤の言い分は全く聞いてもらえなかった。
「武藤武」
「武藤武……かっこいい名前ね。私は吉永美紀。一応モデルもやってる高校1年生よ」
「美紀……ああ、あのモデルのMIKIか。なるほどなるほど。百合がこうなった理由がわかった」
「ダーリン連絡先交換しよ?」
香苗の言葉も無視して美紀は連絡先を交換しようとする。
「駄目えええ!!」
そういって百合は武藤の腕をつかんで引っ張る。
「何で貴方が断るのよ。私はダーリンと話してるんだけど?」
「ギャル子。百合が駄目って言ってるんだから駄目だ。俺は誰よりも百合と香苗を優先する」
「……わかったわ。ダーリンは絶対私が貰うんだから。覚悟しといて」
そういってギャル子こと吉永美紀は嵐のように去っていった。
「百合?」
「駄目。駄目なの武はわたしのなの」
そういって泣いている百合を放っておけず、そのまま武藤は二人を家へと連れて帰った。
「何となく百合の寝取られ属性がわかった」
家に帰ると香苗が何やら語りだした。
「……なんか普通のと違うのか?」
「こう見えて百合は結構プライドが高いところがあってね。無意識にだろうが、周りを自分より下だとみているところがある」
「??」
武藤は別段そんなことは感じていない。
「ああ、男にはわからんよ。女として……だ。つまり百合の寝取られは武くんが
「あんなにモテる男が最後には結局自分に帰ってくる。それを感じ取ることで無意識な優越感に浸っていたのだろうね」
「香苗にもか?」
「私は恐らくだが信頼枠だな。絶対に奪ったりしないという信頼の元で安心しているのだろう。だがMIKIは違う。あれは百合が初めて感じた
「ああ、それで……」
「初めて本当の意味で寝取られを想像してしまったのだろう」
全く難儀な性癖だ。武藤は泣いて抱き付く百合を優しくなでながら、それでもその全てを愛おしく思っていた。
「大丈夫だよ百合。俺はどこにもいかない。百合の傍にいるよ」
「……ほんと?」
「ほんとほんと。俺が約束を破ったことがあるか?」
「……ない」
「だったら信じろ」
「でもあのMIKIだよ? あんなかわいい子に迫られたら……」
「世界一可愛い子がここにいるのに?」
その言葉に百合の顔が赤くなる。武藤が本気で言っていることがわかるからだ。
「私としてはあの子も仲間に引き入れた方がいいと思うんだが」
「香苗!?」
「武くんからみてあの子はどうだい?」
「……まあいい子だとは思うよ。ギャルっぽい見た目なだけで、実際はお母さん思いだし、家族思いだし」
「ならハーレム入りできるかどうかしばらく見定めようじゃないか」
「……ハーレムとかやめてほしいんだが。俺は二人だけで十分だ」
「いいや、絶対にもっと増える。断言できる」
香苗に断言され武藤は何も言えなくなった。
「でも……」
「百合は武くんが信じられないのかい? 私達を捨てると?」
「そ、そんなことはないけど……」
「今更一人増えた所で変わらないよ。朝までやり続けて3人を気絶させて終わるだけだ」
「異議あり!! やっても居ないのにそれは酷いと思います!!」
「黙れ性獣」
「あっはい」
香苗の一言で武藤は無力にも切り捨てられた。
「私としては芸能界のコネが有れば色々と便利かなと思っただけさ」
「一介のモデルにそこまでのコネなんてあるか?」
「ないよりはマシさ。あっても使うかどうかはわからないし。でも手札は多い方がいい。あっても困らないものだしね」
「香苗は何を考えているの?」
「なに、誰にも邪魔されず武くんの隣に居たい。それだけさ」
武藤はその言葉に唯々香苗を恐ろしく感じた。
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