ハーレム増殖編
第36話 試合後の反響
大会が終わり、武藤達は最終日の朝出発時に既に宿を引き払っているので直行で帰宅である。帰りの新幹線では全員が爆睡していた。ちなみに帰宅中、山岸の電話にはひっきりなしに同じ学校の教員から電話がかかって来ていた。大半は祝福の電話だったが、一番長かったのは教頭の電話だった。曰く、あれは冗談だとか校長には内緒にとか色々といっていたが、実はあの取材の場面は地方ではあるが生でTV放送されていたのだ。時すでに遅く、教頭の行いは既に一部の者から校長の耳へと入っていた。
そして問題になったのは教頭だけではない。選手に反則を促していた織戸が優勝した東中や武藤のニュースを抑えてネットニューストップの一面を飾っていた。そんな織戸の胸倉をつかみ生徒の為に行動した山岸は、SNSや掲示板で真の生徒思いの英雄ともてはやされていた。もちろん当の山岸本人はそんなことはつゆ知らず、明日から漸く暇になるなあと呑気に考えていた。
「先輩……見つけました」
ネットニュースを見ていたある人物に発見されていることも知らずに。
帰宅後、武藤は泥のように眠っていた。優勝したことは武藤の連絡先を知る者にはあまり知られていなかった為、特に百合達以外から電話がくることもなかったのだ。
翌日。既にバスケ部に関係ない武藤だったが、通院を終えた昼から学校へ来ていた。何故なら今日は石川原の中学バスケ部引退の日だからである。
「頼りないキャプテンだったかもしれないが、みんな今までついてきてくれてありがとう。武藤のおかげで、最後の年に夢だった全国制覇を成し遂げられた。これで胸を張って中学バスケを引退できる。奥田。後は頼むぞ」
「はいっす!!」
石川原はキャプテンを奥田に引継ぎ引退した。その顔には一片の悔いもなく、清々しい表情をしていた。
ちなみに石川原と武藤は全中ベスト5に選出されており、石川原に至っては県のMVPまで取得していた。ポジションが被っているおかげで、あれだけのスペックを誇っている横田、野田の二人は選出されなかった。ある意味、石川原、武藤の被害者である。
「武藤、お前も一時とはいえバスケ部だったんだから、なんか話せ」
「えーー」
山岸の言葉に武藤は渋々と話をすることにした。
「それは俺が入院していたある夜のことだった」
「急に怪談を始めんじゃねえ!!」
「なんか話せっていうから夏だし怪談でもと……」
「いや、引退の時にいきなり怪談とかありえなくね?」
「確かにそうか。まあ冗談はさておき、約1か月の短い間だったが非常に楽しかった。上も下もなく、ただ仲良く楽しめるんだったら1年の頃から入ってればよかったと今更ながら思っている程だ。この空気感は好きだが、ガチ目の体育会系の人達が入ってきたら合わないと思う。その辺はお前達と先生次第だ。例え今後がどうなろうとも東中バスケ部が全国制覇を成し遂げたという実績は永遠に残る。だから今回の大会は割と大きな意味があったと思っている。学校的にもバスケ界隈的にもだ。だがこの部活の根本はずっと変わらないで欲しい。自由であることとバスケを楽しむこと。これが出来て居れば大丈夫だ。まあイッシーの頼みで入っただけだが、思の他楽しめた。俺はこれでバスケは引退だが、みんなはこれからも変わらずバスケを楽しんでほしい。以上だ」
思いの外、まじめな挨拶に場はシーンと静まり返っている。
「おいい? これなんの羞恥プレイ? せめて何か反応してくれよ」
武藤の言葉に全員漸く我に返ったのか拍手をしだした。
「いや、お前がそんな真面目に挨拶するもんだからみんな驚いてんだよ」
「山ちゃんが話しろっていうからしたのになんて言われようだ……」
「いや、すまんすまん。だが武藤の言う通りだ。東中バスケ部の理念は自由だ。そして入部条件はバスケが好きであることのみ。これは俺が顧問の間は変わらず続けていくつもりだ。今はまだ人数不足で試合することもできないが、鈴木が復帰したらウィンターカップを狙えたらいいなあくらいには考えてる」
「武藤先輩もキャプテンも無しじゃさすがに無理じゃないっすか?」
「もうキャプテンはお前だろうが」
「あっ」
「ったく。まあ確かに厳しいかもしれんが、何か目標があった方がモチベーションはあがるだろう?」
「確かに!! 武藤先輩、石川原先輩、暇なときは部活に来て相手して欲しいっす」
「ああ、受験勉強ばかりじゃ疲れるからな。暇なときは来させてもらうよ」
石川原の返答に奥田も満足げだ。
「それより武藤。あれからあのじ――室井先生からの電話がすごくて泣きそうなんだが? なんで武藤はバスケをやめるんだ、お前のせいじゃないのかって……」
「ワロス」
「大草原不可避なんですが」
「笑い事じゃねえ!! なんであの爺俺の携帯番号知ってるんだ? どこから漏れたんだ!? スマホに変えてからこの学校にしか教えてないのに!!」
実は学校に電話があり、山岸に連絡するので教えてくれと室井に頼まれて電話を受け取った学校教諭の誰かが教えていたのだ。情報駄々洩れである。
「すぐ隣の西中にいるのに着信拒否したら乗り込んできかねないから着信拒否もできねえし、マジで詰んでるんだけど」
心底困った顔をしている山岸だが、武藤と石川原としては面白いだけだったのでそのまま放置していた。
「ああ、それと武藤。お前に取材の申し込みが来てるぞ。TV局が3つに雑誌が6誌に地元の新聞とそれはもう大量にだ」
「面倒なんで却下で」
「ああ、じゃあそれでって、そんなこと言えるかあああああ!!」
結局その後は解散して全員帰宅した。試合の疲れも考慮してらしいが、なら今日集まらなくてもよかったじゃんと武藤がいうと、こういう新チーム始動のけじめは早めにつけた方がいいとのことだった。そんなものかと武藤は納得し、武藤は帰路へとついた。
取材については結局山岸が「武藤は宿題が忙しくて時間が取れない」と言葉を濁してなんとか誤魔化したそうだ。
帰宅した武藤は実際宿題に追われていた。いつもなら7月中には可能なものは全て終わらせるのだが、今回はバスケのこともあるが、休みの終わり掛けにやった方が復習の手間も省けるんじゃないか? という考えでわざと後に回したのだ。結局1か月も間が空くと勉強なんて何をしてたのか忘れてしまう。だが宿題をやればそれが効率的に思い出せるというわけだ。
「夏休みも残り1週間。もう残り1週間と考えるよりは今から7連休もあると考えよう。ん?」
ポジティブに考えていると百合から今何してる? と連絡がきた。宿題やってると返すと今から行くと連絡が。宿題に追われてるのに何故? と思っているとすぐにインターホンが鳴った。
「武久しぶりっ!!」
玄関を開けるや否や百合が飛び込んで抱き着いてきた。
「ああ、久しぶりだね百合」
先週プール行って以来なので5日ぶりくらいだろうか。こんなに会わなかったのは向こうの世界から帰ってきてから初めてかもしれない。
「百合、そろそろ交代してくれないか」
「香苗も久しぶり」
百合と交代して香苗を抱きしめる。既に武藤は完全に香苗にも心を許していた。
「それより武くんすごいじゃないか!!」
「……何が?」
「武知らないの? 昨日TVでも取り上げられてたよ? 武の試合」
「え?」
基本的に武藤はTVを見ない。そもそも一人でいる時はつけることがないのだ。
「正直すごかったな。特撮も真っ青なプレイでガラにもなく興奮してしまったよ」
「お母さんも茜も驚いてたよ。お姉ちゃんの彼氏がTV出てるって騒いでた。お父さんいたら大変なことになってたわ」
「知ってる人がTVに出ると何故か興奮してしまうよね」
「そうそう。あっ武だってなった!!」
二人とも大興奮でTVに武藤が出たことを話してくる。
(宿題が……)
だが武藤は可愛い彼女達が最優先なのだ。
(夜やるか……)
武藤は日中宿題するのを諦めた。
「それでねえ、武」
そういって百合は武藤に抱き着き上目づかいで見てくる。片や香苗は腕に胸を押し付けながら同じように上目遣いで見てくる。
(これは……えっちしたい合図!?)
だが武藤はぐっとこらえた。今までなら秒で服を脱がしていたところだが、根性で押さえた。柳達の情報から察するにまともな中学生の恋愛に中だしセックスは存在しないのだ。
(健全に。あくまで健全に)
武藤は悟りを開こうとしていた。擬似的につくられる賢者タイムである。
「どうしたの? 私達にはもう魅力がなくなっちゃった?」
「そんなはずはない。だけど普通中学生は性交渉なんてしないらしいぞ?」
「あれだけやっておいて今更何を言っているんだい?」
「ぐふっ」
それを言われると武藤は何も言い返せなかった。
「と、ところで今日は二人とも何か俺に用事があったのか?」
「久しぶりに恋人に会いに来たら駄目なの?」
「恋人に会うのに理由がいるのかい?」
「本当に?」
「……さすがは武くん鋭いね。実は相談があってね。君が全国大会に出ている時に私達は塾の主催する受験の為の夏合宿講習とやらに参加していたんだ」
「由美と映見と一緒にね。あっ以前、武がマッサージした二人のことね」
「それで結構なナンパをされたんだが、全員彼氏持ちといってもずっといい寄ってくる阿呆が何人かいてな」
「一番しつこかったのが……たしか浜本だったか? あいつがやたらと百合にいい寄ってきててな」
「……君もか」
「え?」
「やっぱり君もハマの方がいいのか」
「ちょっと武?」
「いつもそうだ。俺に近寄る女の子はみんなハマが近寄るとハマを選ぶ」
「武くんっ!! 待てっ誤解だ!! 百合まずいっなんとかしろっ!!」
「え? え??」
「ええいっ役に立たん!! こうなったら!!」
「ちょっと香苗!?」
香苗は落ち込む武藤の唇を問答無用で奪った。それでも武藤の意識はこちらに帰ってこない。
「くっ駄目か」
「ど、どうしたの香苗? どうなってるの?」
「恐らく何かしらのトラウマがあるのだろう。精神が死にかけてる。このままじゃ彼の心は死んでしまうぞ」
「ええ!?」
武藤の女性不信は二人のおかげで大分改善された。だが心の奥底にあるトラウマはなくなってはいなかった。自分がいないときに恋人が浜本と一緒に居る。それだけの情報で武藤のトラウマが発現するには十分だった。
「武……私達を信用してないの?」
百合の言葉にも武藤は何も答えない。
「じゃあいい。死ぬわ」
「百合!?」
「貴方に信じて貰えないなら生きてる意味ないもの。武が私の隣にいない世界なんて私には耐えられない。だから死ぬわ」
「……百……合?」
百合の死ぬという言葉で武藤の意識が若干こちらに戻ってきた。
「辛かったのよね。今までずっとそうやって裏切られてきたから。どんなに信じようと心で思っても信じきれない感情が湧き上がるのよね」
「ふむ。武くんは認識していないようだがね。君は間違いなくイケメンの部類に入るよ。総合的な魅力でいえば浜本なんか比べ物にならない」
「……まさか」
「はあ、やっぱりか。私達が急いできたのはね。相談もあったが……実際は逆なんだよ」
「逆?」
「君が他の女に現を抜かしてないか確認しにきたってところだ」
「??」
「理解していないようだね。まあ、君はゲーム以外でスマホなんか見ないから知らないんだろうが、今SNS上では大変なことになっている」
「あのイケメンは誰だとかもうすごいのよ。全部武のことよ?」
武藤の頭は混乱していた。何故自分がイケメン扱いされているのか?
「あの試合をしている時の君の表情。きりっとしていてそれでいて楽しそうで……ああ、今本人が目の前にいるのに思い出だしただけで濡れてしまう」
「あれを見てああっまずいって思ったの。あんなの見たら女の子なら一瞬で落ちちゃうわって。実際、茜どころかお母さんまで顔を赤くして固まってたし」
「君は顔だけじゃない。その佇まいから雰囲気から全てが何か違うんだ。わかる女はそれを見ただけで物が違うと本能で理解してしまう。だからどうしようもなく惹かれてしまうんだ」
「今までの武は近くに居ない限りそこまで魅かれるようなことはなかったのに、TVで見た時にびっくりしたもん。なんか強烈になってる!! って」
「だから今のうちに君は私達の物だと。そして私達は君の物だと。それをお互いに刻み込んでおこうと今日強引にきたんだ」
武藤は元々顔はいい。だが元が自覚のない天才で無精であり、自分を理解してくれる幼馴染達が居たせいで、特に何事も本気で取り組んできたことがなかった。
それが今回、追い込まれたことにより、生まれて初めてこちらの世界で真剣になった。それは本当の意味で戦う男の姿だった。そしてオーラが洗練された結果、その隔絶した姿はTV越しですら見ているものに影響を与え、オーラを感知できる者には神格化すらさせかねないほど、その姿は人々を魅了したのだ。
「私達をここまで溺れさせて、まだ何が信じられないの? 武の思い通り、もう私達は貴方無しでは生きていけない体になってるのに」
「恐らく、あの浜本という男とその周りのせいだろうな。本人も知らないうちに心の一部が壊れてしまっているのだろう」
「それは治せないの?」
「理性とはまた違った部分の話だからね。多分浜本だけじゃない。例え浜本が死んだとしても他に顔がいい男がいて、私達がその男と話をして楽しそうにしていたらトラウマがよみがえるかもしれない」
「それは……何かいい方法はないの?」
「武くんが私達を信頼できるようになるしかないね。だから方法としては地道に私達二人が常に武くんと一緒にいることが大事だ。他の男の影を感じさせないようにね」
「でも学校が違うから難しくない?」
「毎日連絡を取り合えばいいさ。そして一緒の高校に通えば大部分の問題はなくなる」
「あっそっか。一緒の学校に通ってみんなの公認の仲になっちゃえばいいのね」
「そういうことだ。でも一番の懸念材料がある」
「え?」
「武くん側の問題だ。恐らくこれから言いよってくる雌どもが大量発生する」
「!?」
「有象無象は弾いて選別しないと……ゴミ共が近づかないようにしたいな。武くん髪を伸ばしてみないか?」
「髪? 前髪伸ばすと目にかかって鬱陶しいんだけど……」
「瓶底眼鏡でマスクして、ボサボサの髪にすれば誰も武君と気が付かないんじゃないかな?」
「!? それいい案ね!! そうしましょう武!!」
「いや、それはそれで問題が……」
「おや? 何か見落としがあったかな?」
「そんな男と付き合ってたら「そんな男でもいいのか、じゃあ俺の方がいい男だぞ」って百合達に寄っていく男が大量に発生すると思うんだが……」
「!? それは盲点だったな。確かにそういう愚かな男はいそうだ……」
「しかもそれを断ったら武の方に行きそうね」
「まあ、暴力による解決は一番得意なんだけどね」
体は違えど異世界で素手で何人も殺している男である。反社団体の脅し程度なら子供がじゃれ付くのと変わらない感覚なのだ。
「ならば問題ないではないか。そうしよう、ぜひそうしよう。一番原始的でわかりやすい解決方法じゃないか」
暴力を進めてくる彼女怖い。武藤は反社よりも余程香苗の方が恐ろしいと思った。
「じゃあ……しよっか」
「え?」
今の流れのどこにそんな要素があったのか? 武藤は理解できないまま気が付けば二人に押し倒され、結局宿題はできないまま爛れた夜を過ごしたのだった。
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