第30話 呉越同舟
「ふあああねみい」
武藤があくびをするとそれが伝線したのがいたるところであくびが聞こえてきた。
「こんなに早く起きたの初めてかも」
ブロック大会当日。始発電車に乗る為に東中メンバーは駅にそろっていた。
「おし、全員いるな。俺は荷物があるから車で向かうんで、後は石川原任せた」
「いや、いいけど山ちゃん間に合うの?」
「渋滞してなきゃ高速使えばなんとかな。それじゃ現地で」
そういうと山岸はとっとと車で出発していった。
「助手席は乗れそうだったから誰か乗せてけばいいのに」
「あー昨日聞いたらなんで男を乗せないと行けないんだって真顔で返されて草生えたんだが」
「童貞こじらせてんなあ」
「寧ろ童貞じゃないのムトだけじゃねえか」
「武藤先輩参考までに彼女達とどこまでいってるか教えて下さい!!」
「何の参考だよ。ちなみに俺の中で3大彼女にやって欲しいことはクリアした」
「なんすかそれ?」
「フェラチオ、裸エプロン、中だしだ」
「!?」
「ぜ、全部やったんすか?」
「あの超可愛い彼女に!?」
「彼女
「!? さ、3Pっすか!!」
「ムト、お前山ちゃん聞いてたら殺されてたかもしれんぞ」
「……確かに。気を付けよう」
その場面を想像した時、魔王を倒した武藤ですら若干の恐怖を覚えた。男の妬みとは恐ろしいのである。
「あっ!!」
「ん? あっ」
武藤達が電車を待っていると見知った集団が現れた。始発にも関わらず駅は大混雑である。
「まさかこんなところで会うとはな。まさに呉越同舟というやつか」
「確かに次に会うのはブロック大会の決勝かと思っていたけどな」
石川原と野田は長年の蟠りのようなものがなくなったのか、予選の時に感じられた妙な違和感のようなものがあの決勝が終わって以来消えていた。
「その前に当たったらどうすんだよ」
「同じ地区は振り分けられて、最初は各地区の1位と別の地区の2位が当たるんだ。だから当たるとすれば決勝しかない」
「へえ、そうなんだ。じゃあ地区予選決勝の再現といくか」
「勝ち負けは反対でな」
そういって石川原と野田は笑いあう。
「お前等仲いいな」
「ノダ×イシもありじゃない?」
「いや、イシ×ノダでしょ?」
「!?」
石川原達をからかっていたら唐突に後ろから女性の声が聞こえてきたことに武藤は驚いた。武藤をして全く気配を感じなかったのだ。
「い、石川原くん。おはよう」
「お、おはよう松尾さん」
いつの間にか西中女子バスケ部の面々も集合していた。相変わらず顔を赤くしている二人の初心さに武藤も笑みがこぼれた。
「が、がんばろうね!!」
「あ、ああ」
「初心か!!」
二人のやりとりに思わず武藤は突っ込んだが、よく考えたらこれが中学生らしい恋愛で自分達がおかしいのでは? と、そこで真実に気が付いた。
「なあ野田」
「なんだ武藤」
殆ど会話なんてしたことないのに何故か友達感覚で武藤は話しかける。
「中学生の恋愛って普通どこまでいくものなんだ?」
「!? そ、それを俺に聞かれてもその……困るんだが……」
「ん? お前モテるだろ?」
「バスケ一筋で誰とも付き合ったことなどない」
自信満々にいう野田に武藤は呆れた視線を向けた。
「え……顔が良くて、性格が良くて、バスケも上手くて、面倒見も良くて、部員達の信頼も厚いってお前完璧超人じゃん。モテない要素が一つもないんだが……どうなってんの西中?」
「いや、実際野田はモテるぞ」
「月に……下手したら週に一人二人は告白されてるよな」
「それで誰とも付き合わないとか、ストイックすぎない?」
「そうそう、俺達もそういってんだけどさ」
「頑なに付き合わないよな」
いつの間にか武藤は完全に西中バスケ部員達とマブダチ感覚で話していた。意外にこの男コミュニケーション能力は高いのである。相手にもよるが。
「じゃあ西中で彼女いるやつは?」
「いないよな?」
「ああ」
そういう西中部員達を武藤が見渡すと、一人だけ一瞬目を逸らした男がいた。
「柳……いるんだろ?」
「!? な、なにをい――」
「あそこにいる子だろ?」
そういって武藤が視線を向けたのは女子バスケ部の一員だった。
「な!?」
「なんでわかったかって? あの子が来た時、お前と視線交わしてたじゃん。意味深に。それに地区大会の時にあの子だけ我関せずって感じで俺に言い寄ってこなかったんだよね。俺が単に好みじゃないのかとも思ったんだけど、さっきお前に向けた視線でピンときたよ」
これだけの洞察力があるのに何故同校女子達からの好意に全く気が付かなかったのか? 洞察力を身に付けたのが異世界に行った後だからである。そして帰ってきた後は百合以外の女性に興味がないので知ろうともしていない。そしてモテると思ったことがないので、今の状況は単に目立ってるから寄ってきているくらいにしか思っていないのだ。
「柳どういうことだ!!」
「由香里!! 聞いてないよ!?」
いきなりの暴露に男子も女子も騒然としている。
「あっごめん隠してたのか? だったらすまないことをしてしまったな。悪い」
「いや、まあ別に隠してたわけじゃない。ただ言いそびれてただけだ」
「それで中学生の健全なお付き合いってのがどの程度なのか聞いてみたかったんだ。どこまで進んでるんだ?」
「い、いえるかそんなこと!!」
「ほう、つまり言えないようなことをしていると」
「ぐっ……そういうわけじゃ……ただ恥ずかしいだけだ」
「ふむ。健全なお付き合いなようだな。やはり俺達がおかしいのか……」
「聞いた噂が本当ならおかしいどころじゃないけど」
「噂?」
「お前山本の彼氏だろ? 噂じゃ朝までやり続けたどころか、そのままさらに昼までやり続けて気絶させたとか聞いてるぞ」
「……どこでそんな噂流れてんだよ。概ね事実だけど」
「事実かよ!? お前やべえな……」
西中は百合が、東中は武藤が話をした為に概ね同じような噂が流れている。武藤もまさか西中で百合を発信源として同じような噂が流れているとは夢にも思っていなかった。
「さすがに少しは自重するべきか……いや、駄目だ。百合達を誰にも渡したくない。俺無しでは生きられないくらいに完全に開発しきらなければ……」
「こいつ怖すぎるんだが……」
「愛が重すぎる」
武藤の言葉に西中どころか東中でさえもドン引きである。
「はいはい、そこまで。そろそろ電車開くから乗るわよ」
静かになったところに手を叩いて注意を集めてみんなの意識を誘導する。女バスキャプテン秦さおりは相変わらず出来る女だと武藤は感心した。
ちなみに電車が着くではなく開くなのは始発電車は最初からホームにおり、その扉が出発時間が迫るまでは閉まっている状態だからである。
一行はまさに呉越同舟といった感じで同じ車両に乗っていた。武藤達は試合をしたことにより、お互いを争う敵というよりは身近な親しい友人の感覚で束の間の旅行気分を味わっていた。
武藤の周りは相変わらず女子率が高かったが、どちらかというと西中男子の方に囲まれていた。しかし話題はバスケではなく主に女性関係だった。
「お前山本だけじゃなく間瀬とも付き合ってるのか?」
「ああ」
「彼女の公認の二股ってなんだよ……羨ましすぎて死にそうなんだけど」
「そ、それでえっちってどうなんだ? やっぱ気持ちいいのか?」
「一つ忠告しておくと、エロ動画や漫画の知識を鵜呑みにしないことだ。例えば初めてでいきなり無理矢理口でさせるとか、頭おかしいやつの所業以外の何ものでもないからな?」
帰って来ていきなり飲ませた男の台詞である。
「後、避妊は絶対にしろ。例え出産しても問題ない家庭環境だとしても中学生の体は出産に適していない。彼女の為を思うなら絶対しろ」
この男はしたことはない(魔法ではしているが避妊具を自分で用意したことはない)
「一番重要なのは相手を思う心だ。穴に突っ込むだけがセックスではない。自分がではなく、相手に気持ちよくなってもらいたい。その気持ちが一番大事だ」
ここだけは本当である。
「深けええ」
「おおよそ中学生とは思えん台詞なんだが……」
西中東中に関係なく、武藤は男子生徒達から尊敬のまなざしを向けられる。中学生男子からすれば、武藤は美少女二人をものにしたまさに英雄なのだ。
その後もバスケの話は皆無で延々とエロ話に花を咲かせ、気が付けば目的地へと到着していた。ちなみに女子も近くで聞き耳を立てて一緒に話を聞いていたことに男子は気が付いていない。えっちな話が気になるのは男も女も同じということである。
「それじゃ決勝でな」
「ああ、お互いがんばろう」
そういって石川原と野田は拳を軽くぶつけ合う。
「師匠!! 決勝で会いましょう!!」
「誰が師匠やねん」
気が付けば武藤は柳から何故か師匠と呼ばれていた(主に性の方)心折られた柳が復活したことを喜ぶべきか、変な方向に行ってしまったことを嘆くべきか。ただ間違いなく言えるのはキャプテン野田の心労要因が一つ増えたということである。
その後開会式も終わり、東中の1回戦が始まる。
「な、なんだあの10番は!?」
「あんな化け物が今までなんで無名なんだ!!」
武藤を初めてみる他地区の代表はその怪物に戦慄した。初戦ということもあり、少々興奮していた武藤は基本パス中心だが、圧倒的なスペックで他チームを蹂躙して無事、東中は明日の準決勝へと駒を進めた。
翌日も東中の蹂躙は止まらず、決勝は地区大会決勝の再現である西中戦である。前回思いの外接戦だったことを危惧し、武藤は自重を少し解除。自身で直接決めることを増やした。その結果、武藤の想定調整通りに10点差での東中の勝利となった。東中男子バスケ部は創部以来初めての全国大会出場となる。
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