第28話 3人の関係

 地区予選から翌々日。


「ふあああ、眠い」


 今日は幼馴染達もいない。武藤は一人、眠そうにしながらのんびりと登校していた。何しろ昨日は休みだったにもかかわらず試合よりも疲労したからだ。


「まさかこんなに早く夢がかなうとは」


 以前、武藤が幼馴染に語った言葉。百合とずっと裸のままで一日中イチャイチャして過ごすというのを実現してしまったのだ。香苗も一緒だった為、現実は妄想よりさらに過激だったが。


 事の発端は一昨日の試合が終わった後、なんと百合と香苗が泊まりに来たことである。香苗が外泊許可をとったといっていたのは本当で、実際泊まるといって荷物を取りに行き、本当に武藤宅へと押しかけてきたのだ。


 それを百合に連絡すると、即座に百合も行動を開始。気づけば二人とも泊まることになっていた。


 武藤としては香苗には手を出すつもりはなかったが、百合の執拗なまでのお願いと香苗の涙ながらの懇願についに折れて手を出してしまった。武藤はある程度魔法で相手の心の内が読めるのだが、香苗の武藤を思う気持ちに一点の迷いもないことと、百合を信頼している気持ちも嘘ではなく、心底信頼しているということがわかってしまった為、つい絆されてしまったのだ。香苗が百合に匹敵するほどの美少女というのももちろん理由にあるだろうが、武藤は顔よりも何よりも心を優先する為、自分を本当に思ってくれている香苗も武藤の中では大切な存在というカテゴリーに入ってしまった。


 愛する彼女公認で大切な人の枠に入ってしまった以上、もう武藤を抑えるものはなく、気が付けば百合のいう噂の3Pが現実に繰り広げられることとなった。


 しかも香苗は初めてを記念に残したいと武藤に撮影を求めた結果、超美少女中学生の初体験無修正ハメどり中だしという百合ですらドン引きの恐ろしい単語が並ぶ映像を武藤は撮影させられる羽目になった。所持がバレただけで一発アウトの恐ろしい兵器の誕生である。


 この動画を相手に送り付けただけで、相手がその取得意思にかかわらず保存したら即逮捕という政治家を殺すにはメール一本あればいいといわれるほどの最悪な兵器である。自ポ法に理屈は通じないのだ。


 ちなみに香苗は恐ろしいことに撮影した動画を武藤と百合に送っている。送られた方としても恐ろしくて仕方ないのだが、これが私の信頼の証だとなんとなくかっこいい風に言われて、断るわけにもいかずに二人は動画を保存してある。もちろん見つかったら即逮捕である。


 そんなもの送らないでくれといいたかった二人だが、実はその後結構な頻度でその動画のお世話になることとなる。身近な人物のしかも美少女のそんな動画なのだ。興奮しないわけがない。しかも武藤はなんだかんだといっても完璧を求める為、カメラワークもしっかりとしており、結合部のアップから香苗の痴態の顔まで全てブレずに完ぺきなカメラワークで撮影しているのだ。下手なアダルト動画より余程うまく撮れていたりする。


 しかしこの動画の本質はそこではない。撮影途中、香苗がスマホを百合に渡して、武藤に両手を使って本気で攻めてくれと懇願した。それを百合に撮って欲しいとお願いして。百合は戸惑いつつも親友と恋人の初体験を横から撮影するという非現実的な背徳感にさして疑問も抱かず、大興奮して撮影した。録画を止めないままに渡されたスマホで。

 

 それはどういうことかといえば、つまり動画には裸の百合と武藤もしっかり映っている・・・・・・・・・・・・・・・・・ということである。その結果、自分だけ動画を消す意味がなくなり、完全に退路は断たれたといっていい。三人共がその動画を持っている時点で誰も裏切ることができない恐ろしい契約がなりたったのだ。香苗のそんな計画なぞ思いもしなかった二人は動画を見た後に戦慄した。そして思った。己の初体験すらも利用してなんてことを考えるのだと。自分すらまきこんだリベンジポルノという凶器、いや狂気をお互いに持たせることにより、形のない信頼というあやふやなものでなく、決して裏切ることのないつながりを作ったのだ。


 だが香苗は不安だった。こんなことをして二人との関係性が変わってしまわないかと。しかし二人は驚きはしたものの変わらなかった。百合は元々香苗に絶対の信頼をおいているので、その程度のことでどうこういうつもりはないし、武藤に至ってはそこまで自分を思ってくれているのかと逆に香苗への好感度が跳ね上がった程だ。香苗はそんな動画なんてなくても自分に信頼を寄せてくれる二人に涙し、自分も二人の為ならすべてを投げ出そうと固く誓った。しかし動画は頑なに消さなかった。それはそれ、これはこれなのである。自分の初体験の動画が欲しかったのは本当のようだ。

 

 結局、香苗の初体験から昨日の夕方に二人が帰るまで、三人はただの一度も下着すら纏うことなく過ごした。まさに爛れた日々である。料理をするときだけ許されたエプロンを二人が装着した際は、やはりというか夢の裸エプロンに興奮した武藤が二人を襲い案の定、食事の時間が大幅に遅れたのはいうまでもなく、武藤はこれを機に二人が絶対に他に目移りしないように徹底的に二人を開発した。魔法も駆使し、自分の与える快楽から逃げられないように徹底的にである。薬を使って女を食い物にする外道と変わらない質の悪さであるが、彼女たちを食い物にする為でなく、あくまで彼女たちに自分のことだけを思って欲しいという愛情が本質にある為、余計に質が悪かった。唯々愛が深いだけで裏がないのである。当然その思いに二人は気づく。結果信じられない程に武藤におぼれてしまう美少女中学生二人が出来上がった。やっていることは完全に質の悪いホストというか女衒の所業である。違うところといえば、二人から金を巻き上げるのではなく、逆に二人を養う気満々ということだろうか。 

 

 ちなみに避妊については彼女達はピルを飲んでいるが実際その効果の程は出ていない。武藤が副作用がでないように魔法で人体に影響がでない程度まで効果を低減させているのだ。では実際の避妊はどうしているかといえば、武藤が魔法で行っている。彼女たちの体ではなく、彼女たちの体内入った自身の精子に対して。

 

 何故彼女たちの体でないのかといえば、それをできる程武藤が女性の体を知らないからである。男女に共通する健康状態についてなら問題ない。だが妊娠については男である武藤はそこまで詳しいことを知らないのだ。故に魔法による効果がどんな影響を及ぼすのかが怖くて、直接は魔法を使わないのである。ならどうするか? 自身が出した物なら自分が一番理解できるのだからそれに使えばいい。武藤はこう考えたのだ。女性達は武藤が魔法を使って避妊していることを知らない。魔法が使えることをまだいってないから説明が面倒だと思っている為だ。いつか魔法について教えるときに一緒に伝えようと武藤は思っている。

 

 

 

 

 

「おーし、みんないるな。武藤も来ているようで何よりだ」


「? そりゃくるでしょ?」


「いや、お前は最悪来ない可能性があったからな。心配してたんだ」


 確かに本来なら武藤は単なる助っ人である。出るも出ないも自由なのだ。


「地区予選後にあの糞じ――室井先生に色々言われてな。要約すると武藤をつぶしたら殺すぞってなことを言われたんだが、怖すぎないあの爺」


「やっぱり最後は爺になる件について」


「全国制覇の名将に対して敬意の欠片もないところが山ちゃんらしい」


「武藤は日本バスケ会の宝だから怪我させないように慎重に扱えとかもうすげえのよ。武藤を止めるのは中学生では無理だとか、正直に言って脱帽だとかあの爺があんなに褒めるの初めて聞いたんだけど」


「すげえじゃんムト」


「あっ石川原も褒めてたぞ。野田の力を引き出したのは石川原だって。東中なんかにいかずにうちにきてくれれば、全国制覇させたのにってべた褒めしてたぞ」


「おおっさすがイッシー。わかる人にはわかるんだな」


「お世辞にきまってるだろムト」


「いや、あの爺はお世辞から一番縁遠い存在だぞ。昔とある有名プレイヤーに対する意見を聞かれたときに、飛ぶしか能がないんだからバッタみたいにずっとぴょんぴょん跳ねてろって言ってたの見たことあるからな」


「なにそれ怖い」


 まず状況が全く理解できないが、恐ろしいことだけは部員たち全員が理解した。


「あの爺に褒められるって相当だぞ? だから自信をもっていい」


 その言葉に珍しく石川原が照れたように顔を伏せた。今までの地道な努力がやっと認められた。そんな気がしたからだ。

 

「さて、それじゃブロック大会について説明するぞ」


 山岸は急にまじめなテンションになり説明を始めた。

 

「知ってるかもしれんが、まずはブロック大会について。これは近辺4県で行われた地区予選を勝ち抜いてきた上位2校によって行われる。4県で8チームってわけだな。その8チームでまた地区予選の2日目以降と同じことをする訳だ。1日目は準々決勝、2日目は準決勝と決勝の2日間で行われる。地区予選との違いは、全国大会に行けるのは上位3チームってところだ。だから準決勝で負けてもその後の3位決定戦。まあ本当は代表決定戦っていうんだけどな。それに勝ったら全国出場だ」


「おおっ!!」


 山岸のその言葉に武藤以外の部員達の声があがる。まさか自分たちが全国に出られる可能性があるとは思っていなかったのだ。

 

「だが出るには様々な問題がある」


「問題?」


「一番の問題は……費用だ」


「え? 学校が出してくれるんじゃないの?」


「有名私立でもないのにそんなの出るわけないだろ」


「ええー」


「まあ、全国なんて縁が無かったから知らないだろうけどな。全国大会ってさ。旅行扱いなんだぜ?」


「まあ、旅行っていやあ旅行なのか?」


「バスケ協会だかどこが主催か知らんがな。全国に出場する場合、協賛の旅行会社が取り扱っている宿にしか泊まっちゃだめなんだ」


「はあああ!?」


 山岸の言葉にさすがに全員から声があがる。


「なんでも勝手に宿をとって泊まられると連絡が付かないからだそうだ。決して忖度ではないんだと。いくらキックバックはいるんだろうな」


「ぜってえ忖度じゃねえか!?」


「宿にもグレードがあってな。1泊の値段がランクAだと15000円で最低のDだと9000円だ」


「たっか」


「しかも決勝までいくとなると最低3泊は必要になるし、昼食代は別になる」


「マジで旅行じゃねえか」


「だからいったろ、旅行だって。昼食も旅行会社に頼むと1000円で出してくれる。お茶を入れないと何故か値段が500円になる謎のお茶代ぼったくり弁当だ」


「だれが頼むんだよそれ」


「結構頼むらしいぞ。大会会場付近に買えるとこがないから」


「中学生の大会でそこまで商売根性ださんでもいいのに……」


 東中バスケ部員達は世知辛い世の中を知った。

 

「それと電車代だな。ブロック大会は会場まで片道2000円。往復4000円の2日間で8000円必要になる」


「たっけえ!!」


「だが、少しでも安くなるように昨日金券ショップ巡りをしてきた。で、株主優待券を買い占めてきたので片道1000円ですむ」


「おおっ!?」


「さすが山ちゃん!!」


「後、長年内緒で溜めてきた部費で全国会場までの交通費くらいは出せる。宿代までは出せんが用意できないようなら俺が貸してやるから安心しろ」


「山ちゃん……なんでそこまでする?」


「どんなに才能があっても金銭的な問題で部活ができない奴ってのは一定数いるんだよ。全国大会なんて一生に何度もない晴れ舞台だぞ? 金の問題なんかで行けないなんてもったいねえだろうが。俺が多少割を食ったくらいで出られるならその方がいいにきまってんだろ。子供は大人を頼っとけばいいんだよ」


「山ちゃんかっけえな」


「さすが山ちゃん!! アラサー童貞だけのことはある!!」


「童貞関係ねえだろがっ!! 悪かったなもうすぐ魔法使いで!! 感謝するくらいなら可愛いお姉さん紹介しろ!!」


 顔も悪くないし体育教師で肉体的スペックも高い。モテない要素がないはずなのに何故かモテない男の魂の叫びだった。


「ほんとなんで山ちゃんモテないんだろうな」


「あれだ、普段全くやる気ねえからじゃね?」


「酒もたばこもやらんし、体つくりはしっかりしてるからストイックすぎるんじゃ?」


「そもそも出会いがねえんだよ!! この学校の女教師は既婚者しかいねえし、そもそも忙しすぎて外で出会う機会なんか一生ねえよ!!」


 公立校教師、2度目の魂の叫びだった。


「そもそも俺、本当は数学教師だぞ? 人が足りないからって去年から保体も見てるけど、本来違うんだからな? 2教科も受け持って自由な時間があるわけねえだろ!!」


 本来山岸は保体の免許は持っていない。保体はそもそも教員が足りない為、山岸が臨時で担当させられてそのまま続いているというのが現状である。


「俺の明日はどっちだ」


 明後日の方向を見てそう呟く山岸にさすがの東中バスケ部員達もちゃかすことができなかった。

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