バスケットボール無双編
第20話 全中地区予選1
「これから皆さんには殺し合いをしてもらいます」
「!? マジか……バスケという名の殺し合いか。つまり殺しても構わない気持ちで臨めってことですね!!」
「やっべ、今の若い子にこのネタ通じねえじゃん」
石川原の反応をみて、令和の子にバトルロワイヤルネタが通じないことを察し、バスケ部顧問、山岸礼二はショックを受ける。
「確かに中学生同士の戦いだけどさ」
「!? さすがは武藤だ。良く知ってるな」
「この間無料放送があったんで、偶々見たんですよ」
「そうなのか。久々に見たかったな。まあ、それはさておき、ついに本番だ。地区予選は今日から三日で行われる。今日が一回戦。明日が準々決勝。明後日が準決勝と決勝だ。まあ基本的に明日以降はうちには縁がないところだが、今回だけは武藤がいるからわからん。武藤が本気で蹂躙すれば勝てるだろう。だから明日以降は武藤の気分次第だ。明日以降に行きたいやつは武藤にお願いしとけ」
山岸はバスケ部顧問にあるまじき台詞を宣う。自分に正直に生きすぎだろうとさすがに武藤は唖然とするが、他の部員たちは平然としている。普段からそうなのだろう。
「ちなみに一回戦は南中だ。ぶっちゃけうちと変わらんくらいの強さなんで、武藤いなくても今年はひょっとしたら明日に行けてたかもな。でも残念ながら勝って明日に行っても、結局決勝に西中が待ってるからどうやっても優勝はできん。適当にがんばってくれ」
「ひでえなおい!!」
「真面目にやれ駄目教師」
「うっせえ!! お前等は負けても一ヶ月も休みあんだろが。俺ら教師は休みねえんだよ!! なのにこんな遠くまで引率とか舐めてんのか!! 手当も出ねえんだぞ!!」
顧問の身もふたもない台詞に武藤は笑いがこみ上げてくる。ここまであけすけにいってくる教師いるか? だが存外生徒達には人気があるのだ。表裏がないのが逆に人気の秘密なのだろうか。
「じゃあ、山ちゃんを働かす為に地区予選優勝ねらうか」
「おいっ!? まて武藤。それはさすがに……ほ、他の学校が可愛そうだろう? 適当でいいぞ。適当で」
山岸は必死にやめさせようとしてくる。自分が働きたくないのがバレバレである。
「と、とりあえずうちは朝一からなんで、すぐ準備するように。解散!!」
そういって山ちゃんことバスケ部顧問は去っていった。
「さて、それじゃあアップするぞ。必要な物以外は控室のロッカーに入れとけ」
キャプテンの石川原の指示で各々が動き出す。エンジョイ勢といっても三年のいうことには流石に逆らわないのだろう。
「一回戦は最初俺がポイントガードで出るよ。奥田はSGで出て」
「わかりました」
武藤の言葉に奥田が答える。まずは様子見としてそのパターンも練習済みだ。一年の初心者である竹内が経験の為に出ることも考えてある。
「あっ武だ!!」
アップ中に可愛らしい声が聞こえて武藤がそちらを振り向くと、そこには愛しの百合と、その親友である間瀬香苗の姿があった。
「ふむ。ジャージ姿は初めてみるが、その姿もかっこいいな」
「武かっこいい……」
「ありがとう、二人とも。態々こんな遠くまで見に来てくれなくてもよかったのに」
「何言ってるの。武の雄姿を見逃すわけにはいかないでしょ」
「そうだぞ、武藤くん。いや、これからは武君と呼ばせてもらおう。恋人のかっこいいところを見に来るのは恋人として当然のことだぞ」
「あ、ありがとう」
何故か恋人ということになっている間瀬の言葉に武藤は視線を百合へと向けるが、百合の頭上には?マークが見えるように百合は頭を傾げている。何か問題が? とでも思っていそうだ。
「す、すげえ!! あ、あんなかわいい子を二人も……先輩すげえっす!! マジリスペクトっす!!」
「先輩マジでモテるんすね。今度女の子紹介してくださいよ」
百合達を見て奥田と神谷の後輩達が何故か興奮する。下村は恥ずかしがっているのか顔を赤らめてはいるが、口を開かないようだ。
「あれ? 百合? え? 香苗までいるの?」
「あっ圭子」
百合達と話していると西中バスケ部の面々が通りかかった。
「あれ? 山本達は態々応援に来てくれたの?」
「マジ? でも俺ら午後からなんだよなあ。開会式はキャプテンだけでいいのに」
「おいこらふざけんな。俺一人だけで開会式にでるとかどんな罰ゲームだよ」
女子と一緒に男子部員もいたようだ。男子の西中は東中とは丁度対称となる反対ブロックの端なので、決勝までいかないとあたることがない。二回戦で戦うフラグは成立しなかったようだ。
「武藤くん本当に試合にでるのね。見ててあげるから精々がんばって」
「別に見なくていいよ。百合達が見てくれればいいし」
「あー生意気!! 初心者のくせに!!」
「愛する人が見てくれるだけでいいって話に初心者関係ある?」
「くうう!! そういうとこが生意気っていってんのよ!!」
「同い年で生意気も何もないでしょ」
「もう!! ああいえばこういうんだから!!」
武藤は何故松尾が地団駄を踏んでまで興奮しているのか理解ができなかった。
「おい、お前東中のやつだよな? お前みたいなやついたか?」
「一週間前にバスケ部に入ったんだよ」
「一週間!? バスケ歴一週間てこと!?」
「マジかよ。そんなのが試合にでれるのかよ……」
西中は随分と大人数できているようだ。石川原の話では普通に二軍もあるらしい。
「お前等みたいな遊びでやってるやつが、公式の試合にでんじゃねえよ」
「試合に出る出ないって、遊びかどうかって関係あるのか?」
「はあ?」
「同じ地区の学生なら出られるでしょ。それ以外に資格なんていらんだろうに。頭大丈夫か?」
「!? てめえ!!」
「おい。やめろ!! すまんな」
武藤としては純粋な疑問をぶつけただけなのだが、相手が何故かマジ切れしてしまい混乱する。
「何か間違ったこといったか?」
「……いいや。だが、俺達は三年間この大会の為に練習してきたんだ。ぽっとでのお遊び感覚のやつらに負けるつもりはない」
「そりゃ負けるつもりで試合にでるやつはいないだろ」
「!? じゃあお前達も勝つつもりででるのか?」
「? 当たり前だろ? 態々負けるつもりでこんな遠くまで来る奴いるかよ」
「はははっお前今までの東中の成績を知ってていってんの?」
「知らんし知る必要もないだろ」
「何?」
「だってその東中には俺がいなかったんだから」
「……はははははははは!!」
体育館の廊下に反響し、辺りに大きな笑い声が木霊する。
「やべえ、こいつマジやべえよ!!」
「バスケ歴一週間で何この自信」
「て、天才ってやつか!! 石川原すごいな。どこで見つけてきたんだよ、こんな逸材」
西中三年の面々がこらえきれないとばかりに笑う。
「武藤くん。引っ込みがつかないのは分かるけど、さすがにそれは……」
「? 何か間違ったこと言ったか?」
「言ってないぞ」
石川原のその一言で、さすがに西中も静かになる。
「!? 石川原……お前までまさか頭がおかしくなったのか?」
「野田。今年の俺達は一味違うぞ」
西中キャプテン野田と東中キャプテン石川原。この二人は小学生の頃からのライバルだった。
「へえ、おもしろい。じゃあ決勝まで来たら相手してやるよ。出るのは二年かもしれんけど」
「天才君。精々がんばって」
「全く……雑魚がいきがってんじゃねえよ」
西中の面々は好き放題なことを言いながら去っていった。
「イッシー」
「ああ」
「適当に負けてやろうかと思ってたんだけど、さすがにむかついたわ」
「俺もだ」
「俺は見下すのは大好きだけど、見下されるのは好きじゃないんだ」
「何気に外道だなムト」
「あいつら……つぶす」
「ひっ!?」
少しだけ漏れた武藤の殺気に近くに居た者が反応する。特に香苗の反応が大きく、腰を抜かしたように座り込んでしまった。
「あ、ごめん間瀬さん。大丈夫だった?」
すぐに武藤は近寄り、手を取って香苗を起こす。
「武君。私のことは香苗と呼んでくれたまえ」
「……香苗」
「くふふっ名前で呼ばれるのは恥ずかしいが、嬉しいものだな」
「ちょっと香苗!! いつまでくっついてんの!!」
そういって百合はもう片方の手を引っ張る。
「がんばってね武!!」
「ああ、がんばるよ」
武藤達東中の一回戦が始まる。
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