第14話 経験談

「百合先輩どうしたんですか? 体調でも悪いんですか?」


「え? な、なにもないよ?」


 月曜日の朝。登校中に親友である後輩である聖子に指摘され百合は焦る。まさか股間に異物感があるから歩きにくい等とは間違っても言えないからだ。


「なんか歩き方がおかしいような……」


「ふふっということは無事にできたのね。おめでとう」


「……ありがと」


 香苗に指摘され百合は顔を赤らめる。何せ対外的には香苗の家に泊まるといってあったから、香苗は大体何が起きたのか見当がついている。


「後で詳しく聞かせなさいよ」


「……わかってるよ」


 アリバイ造りに協力してもらった以上、香苗に逆らうことはできない。百合は観念して香苗には全部いうことにした。


「なんなんですか? 先輩達だけでわかりあってないで教えてくださいよ!!」


「お前にはまだ早い」


「ええーそんなあ」


 そんな和気あいあいとした日常の一コマを、後ろから怪訝な表情で見つめる影があった。百合の幼馴染である弘である。


(まさか……百合が……)


 弘は昨晩、母親から聞かされた話で百合の歩き方の違和感に気が付いてしまった。幼い頃は一緒にお風呂に入ったこともある。自分だけが知っているはずの少女の体を他の男が知ってしまった。いや、ものにしてしまった。その事実に弘は信じられない程の憤りと同時に、どうしようもない無力感を感じてしまう。自分だけのもののはずの少女の体に誰とも知らぬ男の指が触れ、舌が這いまわり、挙句の果てに初めてを奪う。弘はすでに気が気ではなかった。その場で叫びだしたい程の狂気に襲われていた。昨日まではまだ勘違いかもしれないと、自分を抑えることができた。だが、今の百合の歩き方と表情を見た瞬間、その抑えていたものがいっきにあふれ出した。


「百合!!」


「ん? 弘君?」


「誰だ!! 誰とやったんだこの糞ビッチが!!」


「きゃっ!?」


「こらっ吉田!! やめなさい!!」


「百合先輩!!」


 いきなり百合につかみかかる弘に香苗が咄嗟に百合をかばう。


「関係ない奴はどけよ!!」


「きゃっ!!」

 

 前に立ちはだかる香苗を振り払い、弘は百合につかみかかる。


「!? いい加減にしなさい!!」


「え?」


 パンという高い音とともに弘の頬が叩かれた。


「なんなのよ一体!! なんでこんなことするの!!」


 生まれて初めての百合からのビンタに弘は硬直してしまう。


「お、お前が俺を裏切ったんだろうが!!」


「裏切る? 何のこと?」


「彼氏以外のやつと寝るのが、裏切る以外のなんだっていうんだよ!!」


「え? どういうこと? 私は彼氏以外の人と付き合ったりはしないわよ?」


 百合は本気で弘が言っている意味が理解できなかった。


「あーなるほどそういうことね」


「香苗はわかるの?」


「多分、吉田は自分が百合の彼氏だと思い込んでるんだよ」


「ええ!? なんで弘君が? 私の彼氏は武だけよ?」


「なっ!? た、武って誰だよ!!」


「私の彼氏だけど……そもそも、そんなこと弘君にいう必要あるの?」


「え?」


「どうして私の彼氏の話を一々弘君にいう必要があるの?」


「それ……は……俺達ずっと一緒にいた、幼馴染じゃないか」


「だから?」


「だかっ……百合は俺のことが好きなんじゃなかったのかよ!!」


「ええっ!? 私が? 弘君を? ありえないよ」


「!?」


「よくて出来の悪い弟かな。一ミリも恋愛対象になったことないよ」


 百合のその言葉にわずかに残っていた弘のプライドも自信も淡い恋心も全て粉々に砕け散ってしまった。うなだれて動かなくなってしまった弘をよそに、百合達三人はその場を立ち去ってしまう。実際は異世界に行っていなければまだ可能性はあった。だが、百合は異世界で散々女遊びをしていた弘を見ており、どんなに女性に言い寄られても自分一筋だった武藤を見ている。その結果、現在の世界線では弘と結ばれる可能性が消滅してしまったのだ。




「全く、吉田があんなに拗れてたとはね。さすがに予想できなかったよ」


「大丈夫香苗?」


「ああ、ちょっと押されただけよ」


「吉田先輩、ちょっとかっこいいと思ってたのに幻滅です」


「まあ、吉田は見た目だけはいいからね」


「男は見た目じゃないよ。やっぱり中身だから」


「はいはい、百合の愛しの武藤君でしょ。わかってるわよ」


「でも武藤先輩って顔も結構よくないですか? 正直、私の好みのタイプなんですけど」


「!? 聖子……私の彼氏よ?」


「でも武藤先輩の方が私を選んだら仕方がないですよね?」


「こらあっ!! 人の彼氏を誘惑しようとするな!!」


 先ほどまでの騒動がなかったかのように、姦しく騒ぎながら三人は校舎へと入っていった。





「聞いたよ。朝、吉田ともめたんだってね」


 昼休み。朝の話を聞いたバスケ部の友人、松尾圭子が百合のいる教室にやってきた。


「耳が早いわね」


「三年はその話で朝からもちきりよ」


「そ、そんなことになってるの?」


 香苗と圭子の会話に百合が戦慄する。まさかそんなに話が広がっているとは思っていなかったのだ。


「だって学校一の美少女が、いつも一緒にいた幼馴染を振って彼氏を作ったって、そりゃあ大事件さ」


「が、学校一の美少女ってさすがにいいすぎよ」


「本人の自覚は別として、実際そう思ってる人は多いでしょうけどね。今回話題になったのは百合だけじゃなくて吉田の話でもあるからね」


「どういうこと?」


「吉田は顔だけは良いからあれでもモテるのよ。でもアプローチがなかったのは隣にいつも百合がいたから。逆に百合にアプローチがなかったのは吉田がいたからってこと」


「その片方が彼氏を作ったってんだから大変だ。吉田狙いは猛烈にアプローチを始めるだろうし、百合の方だって吉田じゃなくてもいいって話なら、アプローチをするやつは増えるだろうね」


「もう彼氏いるのに……」


「つけ入るスキのない美男美女の幼馴染ってところで、二の足を踏んでたやつが多かったんだろうね。それが崩れた以上、何かしらのアプローチをするやつは出てくるだろうさ」


 そんな話を聞き、百合は辟易とする。


「私は武だけでいいのに……」


「まあ、彼はぱっと見は普通の人に見えるからね」


「え? なに? 彼普通の人じゃないの?」

 

 以前一度あっている武藤の姿からは、普通ではないことが圭子には想像できない。


「あれは……普通じゃない。所謂天才ってやつだろうね」


「へえ、そうなんだ」


「多分圭子もアレを見たら驚くと思うよ」


「アレ?……何かわからんけど香苗がそんなに断言する程か……興味でてきた」


「!? 興味持たないで!! 私のだから!!」


「実は私もちょっと狙ってる」


「!? 香苗!?」


「だってかっこいいじゃん」


「確かにかっこいいけど!! 私の!!」


「そんなにかっこいいかなあ、武藤君」


 百合と香苗が取り合うほどいい男にはどうしても思えない。圭子はその姿を思い出すもやはり、特別かっこいいとは思えなかった。


「ところで百合……どうだった?」


「……やっぱりいうの?」


「もちろん!! 私達親友でしょ?」


「うう……」


 それを出されると百合は弱い。そういってアリバイ造りに協力してもらったからだ。


「え? なになに? 何の話?」


「まずはデートからね。どこいったの?」


「映画を見ようと思ったんだけど見たいのがないからって、ショッピングモールにいったの」


「定番ね」


「そこで色々と買い物をして、クレーンゲームでぬいぐるみを取ってくれた」


「へえ、ゲームうまいの?」


「なんか今のクレーンゲームって確率機っていうんだって。設定した金額が入るまでアームが緩くなるから絶対その金額までとれないって。だけど裏技があるっていって100円で取ってくれたの。おっきな猫のやつ」


「すごっ……実は何気にハイスペックだよね彼」


「へえ、百合の彼氏そんな特技があったんだ。今度取ってもらおうかな」


「そうそう、そういえばそこですごい人にあったの」


「すごい人?」


「モデルのMIKIにあったの」


「!? マジで!? あのMIKI?」


「しかも武の知り合いらしくて、ちょっかいかけてきたんだけど……」


「MIKIの知り合い!? なんかどんどん百合の彼氏の評価が私の中であがっていくんだけど」


「それで……MIKIに私の方がMIKIより百倍かわいいっていってくれて……」


 思い出して百合は顔を赤らめて、思わず両手で顔を覆ってしまう。


「いくら百合がかわいいとはいえ、あのMIKI相手にそんなこというなんて……」


「武藤くんの百合への愛は本物ね」


「その後は一緒に食材の買い物をして、料理を作って……」


「で? その後は?」


「その……」


「痛かった? どうだったの!?」


 顔を赤らめる百合に興奮した香苗が詰め寄る。


「え? 痛いってまさか百合……」


 そこまでいくとさすがの圭子も何が起こったのか、何を話そうとしているのか感じ取る。


「は、初めはちょっと痛かったんだけど……すぐに気持ちよくなってきて……」


 教室のどこかからごくりと生唾を飲む音が聞こえた。実は教室中が百合達の会話を聞こうと静かに集中しているのである。幸か不幸か、恋という熱に浮かされている百合達には全く回りの状況が見えていない。


「武ったら全然止まらなくて、気が付いたら朝まで……」


「朝まで!?」


「最後は気持ちよすぎて気絶しちゃったから、何回したかとかわからなくて」


「初めてで!? どんだけあいつはテクニシャンなの!? ヤリチンなの!?」


「もちろんお互い初めてよ」


 一度既に完堕ちするほど開発済みだった為に、百合の弱点は完全に武藤に把握されているのだ。


「それで朝起きたら、また襲われて……さすがに怒ったんだけど、私が可愛すぎるのがいけないってまたすぐに襲われて……」


「そ、それで?」


「その後お風呂に一緒に入ったらそこでもまた襲われて……気が付いたらお昼すぎてた」


「……」


 学年一の美少女のあまりにも生々しすぎる性体験に教室中が静まり返った。男子生徒達はその場面を想像して立ち上がることができなくなり、女子生徒は内またになっていた。


「初体験でさすがにやりすぎじゃね?」


「武藤くんは猿なのね」


「でもね。中に出されると、満たされるっていうか、とっても幸せな気分になるの。ああ、私はこの人のものなんだ、今この人に染められてるんだって」


 百合のその言葉に教室中が顔を赤らめるも、香苗だけは直ぐに顔が青くなった。


「ご、ゴムしてないの!?」


 その言葉に教室中が騒然とする。


「お母さんにピル貰ったから」


「ああ、びっくりした。さすがに避妊はするか」


「やっぱり初めては武を直接感じたいし、武のものは全部受け止めてあげたかったから」


 その言葉にさらに立てなくなる男子生徒が増え、顔を赤らめ、悶える女子生徒も増える。


「……すごいね百合。本気なんだね。正直そこまで武藤くんを好きになってるとは思ってなかった。さすがにそこまで本気なら、私は武藤くんにちょっかいかけるのは考えとくよ」


「香苗……」


「百合にそこまで思わせるなんて、武藤くんてただものじゃないのね」


「だからそういってるじゃない」


「でもあの百合がねえ……それで男のアレってどんなんなの?」


「え? その……普段は小さくてかわいいんだけど、興奮すると物凄く大きくなるの」


「!? そ、それで?」


「んー最初は大き目なウィンナーって感じなんだけど、だんだん大きく硬くなって、最後はフランクフルトになる感じかなあ」


 教室にいる大半は男の体に興味津々な女子中学生である。女子生徒達は百合の言葉を一言一句逃さぬようのめり込んで聞いている。


「そんなにおっきくなるの!? その、お、おっきくなる仮定というかフォルムチェンジというか、どうやって大きくなるの? 想像できないんだけど」


 普段冷静な香苗に珍しく興奮した状態で詳しいことを百合に問い詰める。成績上位の優等生とはいえやはり好奇心旺盛な中学生女子なのだ。


「んーと段々? ゴムが伸びていくような感じで……あっ舐めるとすぐおっきく硬くなるよ」


「「舐めたの!?」」


 親友二人が叫ぶので百合は気が付かなかったが、実は教室中が騒然としていた。


「え? うん、よくお口でしてあげるよ? 飲んであげるとすっごく嬉しそうにするの」


「「飲んだの!?」」


 その言葉にさすがの二人も絶句する。つい先日まで同じ処女だったのに、いつの間にやら銀河の果てまで先に行かれてしまった気分だ。


「その……味ってどんな感じ?」


「んーあんまりないかなあ。ちょっと苦い感じがするし、ドロドロしてて飲み込むのが大変だけど、慣れると大丈夫よ」


「既に慣れているのか……」


「後、出して貰う時に深く咥えて喉の奥に出して貰うと味とか感じないし、飲み込み易いよ」


「処女喪失したばかりとは思えない高等技術を聞かされてる気がするんだが……」


 香苗のその言葉に教室中が頷いた。実は百合のテクニックは異世界で娼婦に仕込まれたものである。特に口技はかなり細かく教えられたため、今でもその経験が生きているのだ。


 香苗は途中で気が付いていたが、全く教室の状況に気が付いていなかった百合は、その後も赤裸々に体験談を語り、教室中の注目の的だった。最後まで百合は気が付かなかったが、自身の初体験がまさかこの後、学年中に広まることになるとは夢にも思っていなかった。


 その話を聞いた男子生徒達は学年一の美少女が、まさか上も下も経験済みときいてまくらを濡らし、同時にパンツも濡らしていた。それは幼馴染の弘も例外ではなく、百合の初体験の相手に自分を想像して、部屋で一人自分を慰めることとなる。

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