第13話 山本家の団欒
「それで、お姉ちゃんどうだったの?」
「何のこと?」
「とぼけないでよ。彼氏の家に泊ったんでしょ?」
「!? お母さん!?」
「私は言ってないわよ?」
「彼氏ができてすぐに友達の家にお泊り行くって、いくらなんでもバレバレじゃん」
「そ、そんなことないと思うけど……」
「今までお姉ちゃんが友達の家に泊まりに行ったことなんてある?」
「……ないけど」
「それが、彼氏ができてからすぐの休みの日にお泊りって……小学生でもわかるよ」
「さすがにそれは無理のある推論じゃないかな?」
「まだシラを切るのね。だけど私は確信してるよ」
「何故?」
「だってお姉ちゃん金曜の夜ウッキウキだったじゃん。はたから見てる方が恥ずかしいくらいに」
「!? そ、そんなにだった?」
「そうねえ。確かに浮かれてたわね。無意識に鼻歌歌ってたし、お父さんですらなんであんなに機嫌がいいんだ? って言ってたくらいだしね」
「しかもお風呂の時間が超長かったし。一体何の為に体を熱心に磨いていたのかしらねえ?」
その言葉にさすがの百合も観念したのか、顔を赤くした。
「そもそも下着を並べて選ぶなんて、友達の家にお泊りでそんなことするわけないじゃん」
「!? 見てたの!?」
「見たんじゃなくて見えたの。部屋の扉開いてたよ?」
「あああああっ!!」
百合は妹のその言葉に撃沈し、恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆って俯いてしまった。
「そして一番決定的なのは……このお赤飯よ!!」
そういって妹の茜は卓上を指さす。
「それでそれで? どうだったの? やった? やったの?」
「知りません!!」
「あら、お母さんも気になるわ。どうだったの? 胃袋は掴んだ?」
「今までの人生で一番美味しいとはいってくれたけど……」
「まあ!! よかったじゃないの。男の人は胃袋を完全に掴んでしまえば、離れられなくなるわ。完全に落とすまで努力を怠らないようにがんばりなさい」
「わかってる。絶対逃がさないもん」
「わあ、逆にお姉ちゃんが落ちてるじゃん。で、夜はどうだったの? 痛かった? 早かった? 何回した?」
「そ、そんなこと言えるわけないでしょ!!」
「ええ、お母さんも気になるわ。回数だけでも教えて?」
「ええー私は痛かったかどうかが気になるー」
自身が未経験の妹は初体験の痛みが気になり、母親の方は男の方の精力が気になっていた。ある意味欲望丸出しの家族である。
「か、回数はその……数えてない」
「数えてないの? 数えるってことは一回ではなかったのね?」
「その……武ったらやめないし止まらないしで、明け方近くまではなんとか意識があったんだけど、私結局気絶しちゃったみたいで……」
「きぜっ!? 初体験で!? 明け方まで!?」
「お、男の人ってそんなにするものなの!?」
驚く母親と茜に百合はゆっくりと頷いた。
「はあ、若いっていいわねえ。でもそんなのお父さんの若い頃でも無理だわ。百合の彼氏は絶倫ね。浮気が心配だわ」
「その点は大丈夫だと思う。武ったら私だけがいいって言ってくれたし」
「そんなの嘘かもしれないでしょ。男はやるためなら平気で嘘をつくもの」
「武なら大丈夫。私が裏切らない限り絶対、武は浮気なんてしない」
「なんでそんなに自信満々なのかしら」
根拠がないはずなのに彼氏に絶対の自信を寄せる娘を母親は不思議がる。異世界で他の女性に見向きもせず、自身の得にもならないのに自分を命がけで守り通してくれたという実績が、百合から武藤への全幅の信頼となっていた。
「武ったらあのモデルのMIKIに言い寄られても、全く意にも返さないで袖にしてたくらいなんだから」
「MIKI!? あのモデルの!? なんでそんな人がいい寄るの!? お姉ちゃんの彼氏って何者なの!?」
実際はギャル子が絡んでいただけだが、百合から見たらイチャつこうとちょっかいかけてきたのを、武藤が袖にしたようにしかみえなかった。
「なんか顔見知りらしいけど仲良さそうだったよ。でもMIKIに対して私の方が百倍かわいいって断言してくれたの……もう武ったら」
百合はそういって顔に手を当てて左右に体を揺らす。姉の唐突とした惚気に茜もさすがに辟易とした表情になる。
「あの堅物お姉ちゃんがこんなに馬鹿になるなんて……彼氏さんって結構すごい人?」
「あっそういえば百合、昨日近所のスーパーで彼氏さんと買い物いってたでしょ?」
「いってたけど……なんで知ってるの? 見てたの?」
「私は見てないんだけど、なんか百合が弘君じゃない男の子と新婚みたいにラブラブで買い物してるって、近所のお母さま方からの確認の連絡がすごいことになってたのよ」
「なあ!? なんで……見られてたの……?」
「まさに話題騒然ってやつね」
「なんでよ!! そんな気にするようなことなの!?」
「そりゃそうでしょ。生まれた時から知ってるのに、くっつくと思ってた弘君とくっつかないなんて、暇を持て余してるママ友が食いつかないわけがないじゃない」
「お母さんたち暇すぎでしょ!?」
「明日になったら憶測だけで、初体験済みどころか既に妊娠してることになってる可能性すらあるわね」
「あああああ!! なんでええ!!」
近所のママ友たちの会話は情報速度は信じられないくらい早いが、その精度たるや自分たちの憶測や希望的観測も入るどころか、情報の真偽の確認すらしない為、全く信用に足らないものだった。だが、ママ友たちは噂話が好きなだけなので、おもしろければなんでもいいとそんなもの一切気にしないのだ。特に百合は近所でも評判の美少女で、まじめで優秀。そして幼馴染の吉田弘といつも一緒にいることから、いつくっつくかまで予想されているほどに注目されている存在だった。その為、百合に彼氏ができたという話は信じられない速度でママ友達に広まった。
「明日からもう出歩けない……」
「気にしなくていいのに」
「気にするわよ!!」
姉と母のやり取りを目にし、自分は彼氏ができても絶対内緒にしておこうと心に誓う茜だった。
一方、家に戻った武藤は漸く愛する少女の二回目となる初めてを貰えて若干の安堵感を覚える。百合の幼馴染や、自身のイケメン幼馴染等の不安要素があった為、実際には気が気ではなかった部分があったのだ。百合を信頼しているとはいえ、世の中何が起こるかわからない。武藤は無事に百合と結ばれたことで、漸く一安心できた。
(さて、どうやって金を稼ごうか)
無事に百合と結ばれた武藤の次の思考は、どうやって百合と生まれるであろう子供たちを養っていくかである。武藤は肉体的には中学生だが、精神的にはすでに成人である。将来のことを考えて自分に今できることを考える。
(自重をやめてスポーツ選手? 駄目だ。基本スポーツは体育会系の縦社会だ。はっきり言ってそんな人間関係に縛られるなら最初からやらない。個人競技ならいいか? でも儲かるといえばサッカーやら野球やらチームスポーツばかりだし……)
自身の身体能力でスポーツ選手になることを考えるも、武藤はすぐにそれを断念する。
(魔法は思いを現実に変える力。だが未来予知ができるかといえば、そんなことはできない。未来そのものが確定していないからなのか、その理由はわからないが、少なくとも宝くじや株で儲けるのは無理だ)
(だが回復魔法は使えた。それなら新興宗教を作って教祖になる? いや、さすがにそれは面倒ごとが多そうだ)
ここでいう回復魔法とは実は昨日百合に使ったものである。さりげなく破瓜の傷を治したことによって、百合が最初こそ痛みを感じたもののその後は快楽しか感じていないのはその為だ。
(おそらく病気も治せる。ガンだって治せるだろう)
何せ正常になれと願うだけでいいのだ。しかも人間の肉体をこれ以上ないくらい把握している武藤なら、正確に正常状態をイメージできる。
(病気の診断とかだけでもいけるか? 肉体をスキャンしてみるだけだし)
例え人間ドックや精密検査を受けたとしても見つからない病気はある。だが武藤の魔法的なスキャンなら見落としがない。
(問題はそれを信じて貰うところだな)
例えそれが本当だったとして、見知らぬ人にいきなりあなたガンですよ、と言われて信じる者は少ないだろう。
「ままならないものだな」
武藤はベッドに倒れて一人ごちた。
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