第27話 若干優しめのざまぁ


 涎を垂らしてツルハシを振るった元使用人たちによって、ダイヤモンドの鉱脈はあっという間に枯れた。


 それとなく『もう無いんじゃない?』と言ったのだけど、それでも諦めずに裏山を掘りまくっていたヤツらは今、血の涙を流さんばかりに悔しがっていた。


「アニェス様? どういうことですか?」

「そなたは脇が甘すぎる。足場を固めずして手札を切ってはならぬ」


 アニェス様はレナードとカリギュラに命じて採掘されたダイヤをすべて回収させ、ヒラリーとカルラを筆頭に手先の器用な者を集めて装飾品の製造を始めさせ、同時に箝口令を敷いて敷地から出ることを禁じたのだ。


 こんな強引な手法が罷り通るのもアニェス様の命を受けたサニアの根回しと裏工作のおかげ。


 その手はヒョッコリーの街にまで伸びていて、役人と守備兵は既にアニェス様の手駒と化していると言うから恐ろしい。


「無論シグムントの内諾あってのことよ。この後の流れは彼奴も承知しておったが……よもや翌朝にやりよるとは思わなんだ故に」


 わたしのせい? わたしのおかげじゃないの?


 別邸廃止の通達があった日のわたしの言動からピンときたらしいアニェス様は出立前のシグムントと話をして、大雑把な段取りを整えていたらしい。


 さすがだね……勉強になるなぁ〜。てっきりイチャコラチュッチュしてるだけかと思ってたよ。


「内政を始めるなら、とりあえずお金が要るかなと思いまして」

「たわけ。何が内政か。まつりごとのまの字も知らぬではないか」

「わたしって政治には絡んでなかったみたいです」

「何じゃその言い様は。して? 次は何を考えておる? またやりよる前に申せ」


 ダイヤモンドラッシュで外から人がわんさか押し寄せると思っていたので、やはり潰れた街道の代わりとなる交通網が必要だろう。


 山間部をグネグネ曲がる街道は細くて馬車がすれ違うのも一苦労だと聞いていた。マグマの跡を埋め立てて整地する労力を払い、そんなものを復活させても意味が無い。


「ブレスで街道の途中まで山を貫通した小道ができてますから、そこに川から水を引き込んで運河にして舟による水上輸送を導入しようかと思ってました」

「ほう……相変わらず妙な知恵は回りよる。サニア、良きに計らえ」

「……はい」


 今ならガムシャラに働いてくれる土木従事者が山ほど居るだろうということで、ヒョッコリーに限ってダイヤモンドラッシュ計画を実践することになった。


 裏山の川から屋敷の裏手を通して前庭の窪地まで、さらにマグマの小道の終端から街道近くの川まで細くて長〜い鉱脈を作り、ヒョッコリーの役人連中を買収して情報規制をした上で『ダイヤモンドが出たー!』とちょっとだけ噂を流す。


 すると、来るわ来るわ、欲に駆られた平民の群れ。掘った後のことも考えない凡愚どもが蟻のように群がる様は愉快よな。


 最近思ったんだけどさ、コイツらって絶対『愚者』スキル持ってるよね? 誰も申告しないだろうけど、それが公正ってもんじゃない?


「おい! こっちにもあったぞ!」

「そっちでキラッと光ったわ!」


 地表にダイヤモンドが見えるわけないだろうとも思うけど、連中にそんな合理は関係ない。とりあえず掘る。何も出ない地面を何も考えずにガッツリと深く長く掘り進めてくれた。


「クラァアアア――っ! 汚物は消毒だぁあああ〜!」

「「「「「あづぁあああああ〜!?」」」」」


 パメラや死んだ使用人たちの墓を掘ろうとした時には思わず『火炎放射器』で脅してしまったが、これにはアニェス様も目を瞑ってくれたので良しとしよう。


「シキ、見ろぃ! お前さんに言われたところ掘ったらよぉ! ほれ! こんな大粒の原石が出てきたぞぅ!」

「へぇー! おじさーん! 良かったねー!」


 運河予定地の終端にはサクラとしてカリギュラを派遣した。裏山と敷地内に見切りを付けた平民たちはそちらに殺到。


 産出するダイヤの売買と下取りを一任されたレナードはウハウハしながらアニェス様に頭を垂れて調子を取り戻した。懇意の商人から莫大なキックバックを受け取っていることだろう。


 このジジイは死ぬまでこんな感じなんだろうな。


「ダイヤをネコババする者が続出しております。全員、捕らえておりますが、如何なさいますか?」


 税収の乏しいヒョッコリー地方に興味の無くなったキョアン家はこの動きに気付かず、別邸跡地はアニェス様の保養地として認められ、本邸でも何処ぞの要人として認知されていた彼女は一帯の代官に任じられた。


 当主のくせに裏から暗躍するシグムントの働きもあるのだろうが、お小遣いも碌にもらえない体たらくで、どうやって正室や側室を納得させたのかは謎だ。


「妾の小石を盗む輩に情けは無用じゃ」


 したがって、ダイヤモンドは全部アニェス様のものである。バレたら大変なことになりそう。シグムントが。


「されど、此度は赦す。全員奴隷として召し抱えてやろう。シキが助命を乞うたが故に」

「え? わたしは何も――」

「かしこまりました。速やかに御前へ引っ立てて参ります」


 手枷とロープでひと繋ぎにされた盗っ人たちがやってきた。護送しているのはヒョッコリーから出向してきた守備兵たちだ。


「ご注進申し上げます」

「申せ」

「はっ。前科のある者が混じっておりました。街道に出没する賊の一党と思われます」

「ふむ……盗賊が盗みを働くは必定よな。打ち首に――」

「ま、待って! 待ってくださぁい! 私は違うんですぅううう〜!」


 おお〜。ここでお前が出てくるのか……転生神の悪意を感じるよ。


 さすがに元使用人は混じっていないかと思えば、死んだと思われていたナイラの姿があった。


 他のメイドに殴られてはぐれモンの前に放り出され、何とか逃げ切ったかと思えば盗賊に捕まって酷い目に遭わされたらしい。


 同じ女としてソッチ系の被害者となれば可哀想にもなる――かと思いきや。


「あ? ラナ? お前……何言ってんだ?」

「イヤァアアア――っ! 寄んないで触んないで! もう私に酷い事しないでぇえええ〜!」

「お、お前……っ! 一緒にカタギんなろうって……あの全部が嘘だって言うのか!?」


 うわぁ〜。相変わらずなの?


 聞けばこの男は盗賊の若頭?みたいな中間管理職?の人間だったらしい。


 数人の手勢を率いてシノギのために出掛けていたら蝕が始まり、慌てて戻ろうとしたところでアジトが『ブレス』の直撃を受け、頭目を含む盗賊団は壊滅。


 わけもわからず山中を彷徨っていると、はぐれモンに喰われかけているナイラと遭遇。


 何となく助けてやった縁でしばらく行動を共にしていたら、何となくそういう関係になって、アレコレと世話を焼いていたのだとか。


「ラナ! お前はそんなヤツじゃないだろ!?」

「はぁ!? ラナって誰よ! このレイプ魔! シキ……シキ様ぁ! 助けてお願い! 私この男たちに〜……あんな事やこんな事を……グスンっ! もうコイツらぶっ殺してよぉおおお〜!」

「ラ、ラナ……それが本当のお前なのか……」


 醜悪! もう気持ち悪いくらいのアバズレだよ! 育ちが悪いと人間こうなるんだね!


「……アニェス様?」

「凡愚以下の愚物に割くいとまなど無い。そなたの好きにせよ」


 さぁ、どうする? 


 アニェス様は興味無さげだし、放っといたら盗賊もろとも死刑? ナイラがわたしを殴らなかったらパメラは死ななかったかもしれないわけで……かと言ってこの若頭?


 なんか可哀想じゃない?


「……ナイラさん?」

「シキ様! やっぱりシキ様に付いてくべきでした! もう2度とウソはつきません! 荒屋の放火も殴ったのも私じゃないけど謝ります! これからは心を入れ替えて一生懸命働きますから! だから! どうかぁあああ〜!」


 私じゃないけど謝るの? もう嘘つき過ぎて頭おかしくなってんだろうな。


 この女のダメっぷりはよくわかってる。MPウンヌンじゃなくて、たぶん働き方改革そのものについていけなかったんだろう。


 そのせいで今まで以上にイジメられたとか? 完っ全な逆恨みだけど、望まない変化を生んだわたしが憎かったのかな?


「この盗賊の人のこと……ホントはどう思ってるの? はぐれモンから助けてもらったんだよね? その後も一緒にやってきたんじゃないの?」

「そんなんじゃありません! 私はコイツらに捕まって回されたんです! 盗賊が人助けなんておかしいと思いませんか!?」


 男は希望を失ったようにガックリと項垂れている。まだ元気に喚いているのは「よくも兄貴を!」とうるさいチンピラ5人組だけだ。珍しいことに女のチンピラが2人も混じっている。


「アニキ……さん?」

「…………」

「アナタはこの女のこと……どう思ってます?」

「フンっ……拾って回しただけの女だ。それだけだ」

「ほら言ったとおりでしょ!? 私は被害者なの!」

「処刑するならさっさとしろ。ただし、コイツらは盗賊になって日が浅い。見逃してやってくれ」


 兄貴は地面に額を打ち付けて、打ち首され姿勢?に入った。


「「「「「兄貴ぃいいいいい〜!」」」」」


 この人……結構クレバーでウィットに富んだ侠気があるよね。


 アニェス様は好きにしろって言ってるし、号泣してる子分5人はまだ若くて健康そう。任侠映画みたいな泣きっぷりにも好感が持てる。


 ひょっとして……拾い物かも?


「アニキさん? カタギになりたいんだよね?」

「嬢ちゃん。悪人の言うことを信用しちゃならねぇ。そこの姉さんに聞いてみな」

「好きにせよっておっしゃってたよ? だからさ……改名してみない?」

「……改名だぁ?」


 元盗賊の6人は兄貴をアニキンとして、子分の男女をレッド、ブルー、イエロー、モモ、マシロと改名させ、犯罪奴隷の身分からやり直すことになった。


「ラナはブラックね? アニキンが上司になるからそのつもりで」

「シキ様!? 何言ってるのシキ様! そいつらは盗賊! 盗賊なの! 私は違うの!」

「やっぱやめた。ブラックはアニキンの……妾? そういうのになるなら生かしといてあげる」

「……はぁあああ〜!? 何言ってんのよ、このクソガキ! なんで私が奴隷の女なんかにならなきゃいけないのよぉおおお〜!」


 我ながらなかなかの大岡裁きじゃない? 大岡さんが誰だったかは思い出せないけど……有名な裁判官?みたいな人だったと思う。


「ふむ。そこな女はそこな男の奴隷とする」

「これにて〜、一件落着! あっははははは!」


 こうしてナイラ改めラナ改めブラックは犯罪奴隷の奴隷となった。


 どういう種類の奴隷として扱われるかはアニキンの侠気次第だけど、下手すると性奴隷だねヤッホイ。



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 暦:魔幻4018/10/15 昼

 種族:人族 個体名:シキ・キョアン

 ステータス

 HP:485/640

 MP:862683/1090250

 物理攻撃能力:245

 物理防御能力:295

 魔法攻撃能力:1090250

 魔法防御能力:1090249

 敏捷速度能力:635

 スキル

 『愚者LV6』『魔術師LV3』『死神LV2』『女教皇LV3』『法王LV3』『超速サウザンドスラッシュLV9』『超速ディッシュポリッシュLV9』『超速ボーンプーラーLV9』『超速ギャベッジダンパーLV8』『料理人の鉄腕LV2』『ミラクルチ〇ポLV1』『スカイダイブLV1』『ドランクドラゴンLV1』『育ち盛りLV1』

――――――――――――――――――――



 冷酷さと温情を併せ持った大岡裁きは『女教皇』と『法王』のレベルを1つずつ上げたようだ。


 やっぱりこの2つは相反する特性を持つスキルなのかな? 『女教皇』だけだったら……ぶっ殺していたと思う……たぶん。


 できれば『法王』を上げていきたいよね。わたしの性格から言ってそっちの方が精神的にはキツそうだけど、周りは平和になりそうだし、パメラも笑ってくれるような気がするからさ。


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