第18話 セインという男
「すげえ」
カセからそんな言葉が自然に出る。シースもセイニャも同じ気持ちになっていた。それは目の前で繰り広げられる戦いが原因だ。同じ年代の少年のはずなのにAランクの魔物を圧倒している。
炎による機動力は水を利用したものよりも速かった。当然水の魔法で同等の速度で戦っていたアリを圧倒していた。機動力を生かし、アリの前後左右と、四方八方から攻撃をクロウは行っていた。
しかも炎の魔法は威力が高く、アリにもダメージが蓄積されていく。
「ゴミガァァァァ」
アリは怒りを隠したりしない。初めての苦戦、当たらない自身の攻撃、当たり続ける相手の攻撃、そのどれもがアリの逆鱗に触れ続けていたのだ。
だがクロウもクロウでダメージを負っている。普通の炎の魔法は、空間から炎を生み出す。一方、移動に生かすためには、手や足を燃やさなければいけなかった。しかも速さに比例して、火力が上がる。
(はやくしないと)
クロウも焦り出す。魔力も自分の体力も有限、炎を使い続けている間はその二つに加え、ダメージも蓄積されている。しかし大技となると隙ができてしまう。間を開けずに大技を放てるほど、まだクロウの魔法の技術は高くない。
そしてその膠着状態は終わってしまう。クロウの速さに適応し始めた、アリは少しずつだが攻撃を当て始めた。幸いなのは貫手ではなく、拳を握っていたため、新たな切り傷ができて血液が流れてしまっわなかったが、横腹からの出血がひどい。
意識が朦朧としてきて機動力が、少しずつ失われていく。そんな隙を逃すような相手ではなく、顔面にもろ、アリの拳が当たる。炎による加速に合わしての顔への攻撃は想像以上に、ダメージが大きかった。数メートル吹き飛ぶと、クロウはもう立ち上がることができなくなっていた。
「ヨワカッタナ」
アリは笑顔で表情をゆがませそんなことを言う。実際、アリの方が格段に強かったのは事実だった。炎の魔法でないとダメージを与えることができなかった。しかしその炎を使うと自身の体にダメージが突き刺さる。大技もある程度ための時間が必要だったがそんな隙をアリは作らなかった。
それがクロウの敗因...だが間に合った。
ドガンッ
そんな物音と共に塞がれた道に合った岩が破壊された。そこに立っていたのは双剣を持ったセインだった。セインはあたりの状況を見渡す。怯える生徒、重傷を負う生徒、そして顔にひびが入っている敵...
「おい、よくも俺の大事な生徒をやってくれたな」
セインは怒りに震え、双剣を握る力が強くなる。
「セイト?ゴミガフエタダケカ?」
アリにとって弱い援軍が来ただけに思えた。とにかく自分にここまでダメージを与えたクロウを殺す方が優先だった。クロウを殺そうと右手を引く。
———ボトッ
その瞬間アリの右腕はそんな音とともに地面に落ちる。何が起きたかわからない。今わかるのは、自分の腕が地面に落ちたこと、そして道の入り口にいた男が今は自分の目の前にいることだけだった。
「どうした」
(キケンダ、コイツニハカテナイ)
生物としての本能が、逃げの選択をする。何が起きたかはわからない。でもセインには勝てないと本能が告げる。一度距離を取ろうと後方に飛ぶ。
しかし不思議な感覚に陥る。体が軽く感じる。今までで一番速い動きができたと確信する。現に視界には後方に飛ぶ自分の体が映っていた。
それがアリにとっての最後の記憶。なんてことは無い、アリが後方に飛び着地するよりもセインがアリの首を跳ね飛ばす方が速かっただけだった。
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