第17話 アリの魔族
クロウが戦闘態勢の合図をする。だが誰も指示に従わない。いや従えなかった。クロウは三人の顔を確認すると、怯えた表情をしていた。
「倒そうとは言ったよ、だが魔族だったなんて...」
最初は威勢が良かったカセも相手が魔族だとわかり、戦意喪失している。知能を持つ魔物である魔族はその知能に比例して強さが増していく。今回の場合、アリの魔族であるうえ、片言だったのでAランク相当の魔族だった。
だがまだまだ幼い彼らは、恐怖から足がすくんでしまう。クロウだって鱗猿やトーサスネークとの経験が無かったら、動けなかったかもしれない。アリの魔族はそんなことを感じてか、歩いて向かってくる。
(一人でこいつを相手するのか...)
クロウは覚悟を決めると魔法により、手と足に水を生成し、まとわりつかせる。
「セイニャ、魔法で防御を固めてシースとカセを守ってくれ、それくらいはできるだろ」
頷くセイニャ、流石に三人を守りながらでは戦えない。魔法が得意なセイニャに守りを任せる。
「待って!相手は魔族なんだよ!勝てるわけないじゃん!三人で守りを固めよう」
シースが取り乱している。
「いや、相手の全力が分からない以上、誰かが戦わないと、防御が崩れたら負けなんだから。」
冷静に分析するクロウ、修羅場をくぐってきた彼だからこその冷静さだった。話が終わるとクロウはアリの魔族に向かっていく。アリの魔族も戦闘態勢に入る。
アリの鋭い貫手がクロウを襲う。それを受け流すか、避けるかして何とか猛攻を耐えている。受け流すときに水が補助するように水流を操るが、それでも完全に避けきれない。体や顔に切り傷がだんだん増えていく。
このままじゃジリ貧だが攻撃に移す余裕はない。それにアリを倒さなくてもセインが来てくれれば何とかなる。アリは痺れを切らしたのか、蹴りを繰り出す。直線の貫手より、横薙ぎに払う蹴りなら受け流せない。
そこはクロウが足の水を操作し素早く後退して避ける。幸いなことに機動力ではアリと引けを取らないクロウ。そこにまだ勝機があったのだが...
倒すのに時間がかかるとみてアリは今度は後ろにいる三人に襲い掛かろうとする。
(まずい、そこまで考えられるのか)
アリはクロウに背を向けて走り出す。
クロウには目もくれず、シースたちに襲い掛かる。
「アースウォール!」
指示通りセイニャは二人を守るため、土の壁を生成する。ダンジョン内のマナの濃さもあり、その強度は普段よりも高い。しかしアリの貫手によって簡単に砕かれてしまう。そのまま一番近くにいたシースに襲い掛かる。
シースは死を覚悟する。その恐怖から目をつぶる。シースの顔に血飛沫がかかる。しかしその血液はシースのものではなく、クロウの血液だった。アリはクロウの横腹を貫いていた。
「何で?」
シースは困惑する。あんなに突っかかったのに、クロウが自分をかばった理由が分からなかった。
「僕にとっては初めての友達だから。」
ハノ村でずっと暮らしていたクロウ、この三人は初めて友達と呼べる存在だった。そんな友達がクロウにとってとても大事な存在だった。
そんなことを何も知らないアリは初めて笑う。先ほどまで攻撃を避け続けていた。厄介な人間がこんな簡単に攻撃を受けるとは思っては見なかった。
「オロカ」
そんなことを吐き捨てて、貫いているクロウを横に吹き飛ばす。彼はもう虫の息、取り敢えず元気そうな三人から始末しようと考える。相手の恐怖に浮かんだ顔が、アリを喜ばせる。その感情を楽しむかのようにゆっくり右手を振り上げる。
鋭く硬い自身の手で相手を確実に貫けるようゆっくり、ゆっくり...
(ああ、こんな感じだったか)
アリがシースたちにとどめを刺そうとしていた時、吹き飛ばされていたクロウは鱗猿との戦闘を思い出していた。同じような死の危険がある状態に陥ったのでその時のことが思い出される。
次の瞬間、今度はアリが横に吹き飛んでいた。初めての強い衝撃にアリは困惑する。何が起きたのか一瞬分からなかった。だが今感じている頬の熱さも、自身の顔にひびが少し入っていたのも現実だった。
「シャァァァァァァァァ!」
初めての憤怒の感情、アリは生まれて初めて心のそこから怒った。怒りの矛先は恐らく攻撃してきたであろう、手と足が炎で燃え上がっている少年に向けられていた。
「僕も今、燃えてきたところだ。」
体も心も燃え上がるクロウ、ここからが第二ラウンドだった。
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