第14話 本音
学園生活を始めて一週間が経過した。授業内容は意外にも座学が面白かった。教師の教え方もさることながら、試験のために詰め込んだ知識のように暗記だけではなく、考えることの方が多かった。そんな新たな知識を蓄えるという行為は初めての経験であり、知識を蓄えることに快感を得ていた。
一方の魔術や体術は思っていたものとは違う印象を受ける。アメノから教えてもらっているときとは違い、全員に教える必要があるため、自分にあった訓練ということができない。自分の得意を伸ばし、苦手を克服するというよりは、できることを増やすという感じだった。
得意を伸ばすことは休日に行うことに決めるクロウだったが、問題はそこよりも班員なのだろう。まだ連携は取れない。というか会話もままならない。セインは訓練を見ていた中、的確にそのことに気づいていた。
「お前たち、なぜ呼ばれたかわかるか。」
セインが1班のメンバーをある教室に集める。
「訓練についてですよね」
恐る恐るセイニャが答える。
「そうだ、今は4月、ダンジョン攻略まではあと3か月くらいしかない。今のままではダンジョン攻略を行えないぞ。」
その言葉に焦るクロウ、ダンジョンには行きたい。というよりも自分の実力を上げるためには実戦も必要だと考えている。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「別に、俺は退学しなければいけなくてもいいや」
「カセ、そう思っているのはお前だけかもしれないぞ、一度このメンバーで話し合って今後どうするか決めろ。それで俺に伝えに来い。」
そう言ってセインは出ていく。居残ったメンバーで話し合う必要があるのだが。
「まあさっきも言った通り、俺は別に出なくてもいいと思ってる、ただ退学は嫌だ。卒業して職に就く。それにリーダーがクロウってのもいけすかねえ。だからリーダーの命令は聞きたくねぇ」
これがカセの本音。恐らく学園をしかも難関の総合科を卒業したとなればこの先職には困らないのだろう。
「私は...別にダンジョンに出なくてもいい。危ないし、怖いし、この学園に通ったのも就職のためだし。」
これがセイニャの本音。セイニャも就職するためということがメインなのだろう。
「うちもリーダーがクロウなら命令には従わない。別にダンジョンに行かなくても卒業して軍に入れば嫌でも強くなれるし。うちはパパが軍の人だから軍に入るのは決まってるし。」
これがシースの本音。班員には伝えてないのだが王立戦闘部隊第四部隊隊長、グレンの娘はシースだ。だからこそ自分より強い同年代のものがいるとプライドが許さない。
「ふざけるな!!!!」
それぞれの言い分にクロウの堪忍袋の緒が切れた。クロウは初めて他人に激怒した。その姿に一同が驚く。なぜ怒鳴られたのか分からないのだ。
「なんだよそれ!ふざけるなよ!!僕は強くなりたいんだ!
お父さんに守られて、師匠に守られて!!
強くなったと思ったのに死にかけて家族心配させて!
そんな思いをもうさせないように!
大切なものを守れるように、だから強くなるんだよ!!!
嫌でも強くなるとか、就職のためとか、今死んだらどうするんだよ!!!
弱いせいで将来が無くなるんだぞ!!!
そんな甘い考えで僕の足を引っ張るな!!!」
これがクロウの本音だった。クロウの目は涙で滲んでいる。母と約束したのだ、心配させないくらいに強くなると。それができなくなるかもしれないと考えるだけで胸が詰まる。
「今回だけは従ってやるよ」
「うちも今回だけね、別に強くなりたくないわけじゃないから」
「クロウさん...ごめんなさい!私も精いっぱい頑張ります。」
三人がクロウの本音に心を少しだけだが動かされた瞬間だった。4人でダンジョン攻略に参加する旨をセインに伝えに行く。
「そうか、あの教室では自分の本音が出やすくなる魔道具が設置されている。本音を話して結果がそれなら大丈夫だろう。」
それからというもの、1班は訓練でみるみる成長していったのだった。
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