第15話 メルキラ洞窟

 1班が一致団結とまではいかないがダンジョンに行くという意見を固めてから約2カ月ほどが過ぎる。不安だった寮生活も今ではなれたものだ。むしろ良かったとも思える。

 寮生活の一部で科ごとでの今日あったことを意見交換する会を行う。他の部屋はどうかわからないが、なんせここには王女がいるのだ。真面目に行うというのは目に見えている。だが実際話を聞いていくと面白いことをたくさん聞ける。


 特に興味深いのはエルナの話だった。一度試験についての話をする機会があったのだが、魔術科の試験も耐魔石たいませきでできた人形の破壊だったらしい。

 しかも色々な方法で破壊するという、一回きりの総合科の試験とは違うものだった。

 そんな試験でエルナは火、水、木、土、重力の五つの魔法で完全な破壊を行ったという。重力についてはクロウにはなじみがないのだが、魔法に関しては明らかにエルナの方が上だった。そんな彼女からは学ぶことは多い。

 実際、彼女の勧めで休日の午前中は図書館で本を読むことが習慣になった。


 そんな中、残り一カ月ということもあり、セインが各班ごと集め、ダンジョンの詳しい説明を行っていた。


「1班はメルキラ洞窟に行ってもらう。このクラスでは一番マナが濃く危険なダンジョンになると思う。そこで一日過ごしてもらう。


 注意点は一日で帰れる距離までしか移動を行わないこと、無理をして奥まで進まないこと、一人で行動しないことの三つだ。洞窟の前では俺が待機している。一日で帰ってこなかった場合、俺が救助に行く。場合によっては命を落とすこともある。たとえば一人で行動して迷って一日で帰ってこれなかったみたいなことがあったら退学もあり得るからな。」


 そう言い残すと今度は他の班に説明を行っている。恐らくダンジョンは班によって違うのだろう。




 そんな話を聞いた夜、いつも通り寮の人たちと会話をする。実はそこでクロウが話したいことがあった。今までも感じていたこと、だが言うのが恥ずかしかった、自分の弱さを見せるようで。

 だがダンジョン攻略が間近になり流石にこの状態は良くないとも感じている。そこでクロウは勇気を出して自分の不安に思ってることを話す。


「僕の班は最初仲が悪くて、本音で話し合ったんだけど、ダンジョンに行きたがっているのは僕だけなんだ。ダンジョンは危険な場所、だけど自分が強くなれる場所でもあると思う。


 でも...僕が先に行こう、行こうとして誰かが傷ついてしまったらと思うと怖いんだ。」


 そんなクロウの不安の吐露に三人は真剣に耳を傾ける。そして次に話をしたのがシロナだった。


「それはあなたがリーダーという自覚があるからですあなたの意志に従うものたち、従うと決めたのは彼らなのかもしれません。でも彼らが選択したからと言って、彼らにけがを負ったのは自己責任と押し付けるような人間はリーダーに向いていないでしょう。


 彼らの選択はあなたを信じるという選択、あなたについていけば大丈夫だと信じる選択、だからリーダーは選択を間違えてはいけないのです。間違えたことを選択する可能性を考えたその恐怖は、リーダーとして必要な資質なんです。


 だから簡単に考えすぎなんて言いません。あなたは不安を無くすのではなく、不安を抱えた上で正しい選択を取り続ける術を学ぶべきなのです。それでも辛くなるのなら、どうしてダンジョンに行くのか考えるべきなのでは、そうすれば答えが見えるのではないでしょうか」


 クロウの心に合った不安がスッと消える。いや消えたんじゃなくて不安を受け止める心構えができたのだった。


「ありがとう!」


 クロウはシロナに感謝して手を握る。シロナの言葉に救われて、感情が高ぶっていた。


「感謝を伝えるのは良いですが、女性の手を急に握るのはよくないですよ」


 クロウは慌てて手を離す。次の訓練から心なしか動きが良くなっている気がした。そしてダンジョン攻略当日を迎えるのだった。

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