第12話 寮

  現在、クロウは王立ツカルギア学園の講堂にいる。入学が決まり、入学式を行っている。無事入学が決まって今後の生活に思いを馳せている。色々なことを学び、これからどんどん強くなれる。そんな思いを胸に入学式を受けていた。その場にいるのは教師陣に加え、約80人ほどの生徒たちだった。

 今年の入学者はこの80人だろう。もちろん全ての科の者たちが集まっている。基本的にはこの講堂で全体的な連絡を行うのだろう。


 はっきり言って話なんて聞いていなかった。そんなことよりも強くなりたい。そんな思いに満たされていた。


(色々なことを学ぼう、強くなろう、初めての友達もでき...)


―――ッッッ


 クロウは急に立ち上がる。突然感じる悪寒...トーサスネーク、鱗猿とあったときのようなそんな感覚。周りの者たちはいっせいにクロウを見た。どうやら何も感じていないようだ。


「そこの者、座りなさい。」


 声の方向を見つめる。壇上に立っているその人物。年なのか立派に長いひげも、髪も白、穏やかそうな老人だが悪寒を感じたのはこの人物からだった。浮ついた気持ちで参加していた入学式の進行を思い出す。

 確か今は学園長、ニコエル=ダーマンの話の途中だったと思う。クロウは言われた通り席に着く。


「話の途中だったかな。最後にこの言葉を贈ろう。私の好きな言葉だ。常在戦場。これは全ての科に言える。人によっては異なる戦場があるのだろう。別に戦う場だけが戦場じゃない。


 要はそのくらいの意気込みで学び続けろという事じゃよ。以上。」


 そんな言葉で締めくくられた。


(あの怖さは勘違いなんかじゃないと思う。あれが学園で一番強い人、学園をまとめる人...)


 自分がまだまだだったということを自覚する。そしてあれほどまでに強い人からも学べるかもしれないということに強い期待を宿すのだった。


「いかかがですか。今回の入学者は」


 学園長の秘書が尋ねる。その問いにニコエルは笑みを浮かべた。


「一人、面白そうな子がおった。あの子は修羅場を超えたことがあるのじゃろう。将来化けるぞ。」


「それはあの立ちあがった少年ですか?」


「それは秘密じゃ。」


 学園長もまた、生徒たちの成長を、何を成し遂げるのかを考え、期待を胸にするのだった。





 ツカルギア学園は全寮制だ。例外はない。そして部屋割りなのだが科ごとに分かれておらずむしろ違う科の生徒、そして性別や年齢もバラバラなものたちが一つの部屋を共有し、生活を共にする。


 自分とは違う科、違う人種、そして違う考えを持つ同士で考えたことを共有し、刺激を与えあうことを目標としている。無論男女ということもあり就寝時や着替えなどで覗きといった問題が起きないよう魔道具が設置されている。


 クロウは自分の寮部屋に着くと荷物を整理する。魔術科、騎士科、総合科、修学科の生徒がそれぞれ意見交換ができるよう、4人部屋が基本だ。どうやらクロウが最初に部屋に到着したようだ。


 荷物を整理していると部屋に続々と一緒に生活するものが訪れる。


 クロウの次に来たのはツインテールが似合う女の子、その次に来たのは丸い眼鏡をかけたおかっぱの女の子、そして最後に来たのは金髪の長い髪で糸目が特徴の女の子...


(ああ、やばい)


 クロウが暮らしていたハノ村には、クロウと同年代の人がいない。それほど過疎化した村だった。ましてや女の子など...どう接していいかわからない。シースは敵意が向こうにあったからかろうじて普通の会話ができていた。


「では自己紹介をしましょうか、あなたから科と名前となにか伝えたいことがあったら話してください。」


「ハイ!」


 緊張からクロウの声が裏返る。


「クロウです!総合科です!男です!」


 端的に伝えたつもりが見れば分かる性別についてなぜか話す。周りには緊張がばれているのだろう。


「次は私っスね!初めまして!ミカグラから来ました、ハジメです!騎士科です!女の子です!」


 自分に合わせて性別を言ってくれたことに対して胸が痛い。今は優しさがクロウを傷つける。ツインテールの子はハジメというらしい。


「エルナです...魔術科です...」


 おかっぱで丸眼鏡の少女はエルナというらしい。声が小さかったが、全神経を集中させていたおかげで聞き取れた。


「最後は私ですね。修学科、シロナ=ツカルギアです。この国の第三王女ですが、そのようなこと関係なく接してくれると嬉しいです。」


・・・どうやらクロウの最初に当たる壁は寮生活だったらしい。

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