入学試験②

「あなた!調子に乗らないでよね!」


 クロウの体術試験が終わったが、他の受験生の番もある。魔術試験まではまだ時間的な余裕があった。そんなこともあってか、黒く長い髪をたなびかせた少女がクロウに話しかけてきた。癖毛なのか全体的に広がっているような、木のような髪の少女、そんな雰囲気だった。確かクロウの前に試験を行っていた少女だ。確か名前はシースと呼ばれていた気がする...

 

 突然言われた彼女の発言にはあまり理解ができなかった。別に調子になんて乗っていなかったから。


「別に調子に乗ってなんかいませんよ」


「嘘よ!だってあんなに速かったじゃない!力を見せつけたいんでしょ!魔術試験で見てなさい!」


 そう勝手に宣戦布告?を行ってそそくさとクロウと距離を取る。クロウだってまだまだ幼い。そんな発言に少し苛ついていた。


「よしこれで全員終わった。次は魔術試験を行う!」


 苛つきが収まるにはちょうど良いタイミングで試験官が話をした。ずっとさっきの発言を考え続けるよりもずっといい。話しかけられたタイミングも体術試験の終わり際で良かったなんて考えていた。

 ・・・ただ何か視線は感じるが...


「魔術試験ではこの耐魔石たいませきで作った人形に魔法を一度放ってもらおうと思う。」


 そんなことを聞いた受験生たちに動揺が走る。耐魔石は字の通り、魔法を通しにくい石だ。魔力やマナを遮断する素材だが物理的な破壊は可能であり、採取も比較的簡単なため、盾や鎧として加工されることがよくある。もちろん石であるので剣で簡単に破壊することもできない。とアメノに教わったことがある。


 恐らくこの耐魔石を破壊した方が点数が高いのだろう。だがまだまだ12歳から15歳くらいの子供たち。そこまでの威力をもつ魔法を放つ自信はない。


 余談だが耐魔石と答える筆記試験の問題があった。答えはわかったけど正確に字がかけているかがクロウは少し心配していた。


「ではまた呼ばれたものから魔術試験を開始する!」


 そうして魔術試験が始まる。呼ばれたものが順に魔法を放つが良くて人形がかけるくらいだった。


「では次、シース!」


 先程話しかけてきた少女が前に出る。あれほどの大口を叩いたのだ。クロウも魔法の結果が気になる。


 シースはクロウを一度見つめると颯爽と前にでる。どうやら私の魔法を見ろ!ということなのだろう。クロウはシースに注目する。


「はじめ!」


 合図に合わせシースは集中する。掌を人形に向けると真ん中あたりに炎の球が出現する。そしてその球から光線のようなものが放たれる。

 

 魔法が当たった人形は粉々になるとまではいかないが少し抉れている。今までの受験者の中では一番威力が高かっただろう。シースは誇らしげにクロウの方を見る。どうやら口だけではなかったようだ。


 そうしてまたクロウは順番が来るまで待っていた。


「ではクロウ!前へ!」


 どうやらクロウが最後だったようだ。クロウは前に出て集中する。


「それでははじめ!」


 合図と同時にクロウは魔法を発動させようとする。右手を後ろに持っていき何かを投げる姿勢、掌の上には水が出現した。


 これは新たにアメノが教えてくれた新しい魔法。出現した水はドーナツ状になり、さらに薄くなる。円に合わせて水流がものすごい勢いで回る。


 魔法の威力で大事なのは、使用する魔法に対する理解度の固定、この魔法で言うと、薄く円になり水が回ることをしっかり想定で来ていたのか。そして魔力量。この二つのバランスになる。だから前者がしっかりしているのなら魔力量の消費は少なく、前者の理解が甘かったら魔力の消費量を多くすれば威力が上がる。


 今までの経験から魔法に対しての理解度は高い。そう言う訓練をしてきたそしてさらに魔力を込める。


水円すいえん


 そう言うと同時にその水でできた円を投げつける。人形は真っ二つに切断されていた。


 同年代でこの威力の魔法、同じ受験生たちは度肝を抜かれたのだった。

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