第10話 入学試験

 あれから約半年ほどだろうか。今日まで様々なことを学んできた。魔術や体術はもちろん、筆記による学力の試験もあることからそれらの勉強も行ってきた。そして今日がその試験当日だった。


「そこの君、ツカルギア学園の入学試験を受けに来たのかい?」


 衛兵のような恰好をした男性に声をかけられる。


「はい」


「そしたらこの学園内に入っていきな、受付の人が案内してくれるよ。」


 試験当日はアメノは別の用事があり、クロウ一人で試験を受けに行かなければならない。衛兵の指示通り、学園内に入り、案内係に道案内される。どうやらまず、筆記試験を受けるようだ。次に体術試験、そして最後に魔術による試験になるようだ。


 筆記を受ける試験会場に座る。開始までここで待つことになるらしい。


(大丈夫かなあ)


 クロウにとって試験の中で一番不安なのが筆記試験だ。村では学問など学ぶ必要が無く、そして面白くない。一番やる気が出づらく、一番遅れているという理由からあまり好きではなかった。


「よしでは時間通り、筆記試験を始める。問題用紙を配られたものから解いてもらって構わない。」


 いよいよ試験がスタートしたのだった。




 何とか筆記試験を乗り越え、次は体術試験だった。筆記の自信は...まあぼちぼちという所だろう。5割は取れた...はず...。


 試験官に案内され、体術試験の会場に着く。試験会場は闘技場のような場所であり50名くらいの人が集められていた。


 体術試験は同じ受験者との戦闘だった。しかし注意点として、武器は学園側が用意したものしか使えず、魔法の使用も不可だった。単純な身体能力が試される。次々と受験者が呼ばれいよいよクロウの出番となる。学園が用意した武器は木製で死人が出ないような工夫がされている。ただ本物と同じ扱いのようなので、本物だったら死んでいる攻撃を受けた場合も負けになるらしい。


 「クロウ!カセ!前へ!」


 試験官に呼ばれ前にでる。


「武器は使用するか」


 試験官は用意された武器をクロウとカセに見せる。クロウは武器を使用しない。理由はアメノと同じ戦闘スタイルだからだ。アメノは水の魔法を利用して機動力や破壊力を身につける。攻撃は基本的に水の魔法を使ったもの。武器は単に枷でしかないのだ。


 クロウもその戦闘スタイルを叩きこまれているため武器の使い方などわからない。しいて言うなら今までの生活で使ってきたナイフや猟銃ぐらいしか使える物がないのだがどちらも用意はされてなかった。


「僕は使いません」


「俺は剣を使わせてもらうぜ」


 相手のカセはどうやら剣を使うらしい。


「素手で勝てるわけないだろ、馬鹿だな」


 あざ笑うようにカセはクロウに言う。


「私語は慎むように。では二人位置につけ」


 試験官に注意されカセは顔を赤くし、責任転嫁するようにクロウをにらむ。別にクロウが悪いことしたわけではないのに。


 二人は位置につく。クロウは集中するように一度目を閉じる。一方相手のカセはまだクロウの方をにらんでいる。


「でははじめ!」


 試験官の合図とともにカセがクロウに向かって走り出す。


「死ねぇぇぇぇ!」


 死ぬはずもないのにカセは走った勢いのまま剣を振り下ろす。実はこのカセ、今年で16歳になる。クロウよりも5歳上だ。だから相手がクロウだと知った時、勝利を確信していた。


 一方のクロウ、迫りくる剣を見ながら考え事をしていた。


(遅いなぁ)


 クロウの戦闘経験は、鱗猿、そして幾度となく行っていたアメノとの模擬戦。修羅場を一度も経験したこともない、強者と一度も戦ったこともない相手に後れを取るわけがなかった。ただここまでの経験をしてくるような子供はこの世界にはそうそういない。


 振り下ろされた剣の腹部分を左手で押して軌道を逸らす。そして鋭いクロウの右拳がカセの顎を穿つ。


 そこでカセの意識は途切れた。


(こんなところでつまずいていられない)


 そんなことを考えて次の魔術試験に臨むのだった。

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