第9話 いざ王立ツカルギア学園へ

 アメノはハノ村に来たときは基本、クロウの家で寝泊まりをする。クロウ一家とアメノが朝食を食べ終わると、先ほど話していた王立ツカルギア学園についての話をする。


「ではクロウにも昨日軽く説明しただけなので詳しくお話ししますね。


 王立ツカルギア学園は入学する年に12歳になるもの。クロウにとっては来年からですね。その年齢以上のものが誰でも入ることができる学園です。ただある程度の年齢にもなると職に就いていると思うので、クロウの同年代の子供が多いでしょう。


 学園では、魔術、体術、学問を学ぶことができ、4年間通ってもらいます。専用の寮があるので住居の心配はありません。幅広い才能を得るために入学試験の受験は無料です。入学後もツカルギア王国以外からの学園生に対しては金銭の支給もあるので仕送りは大丈夫です。


 そして優秀な生徒には学園を続けてもらうためある程度の要望なら聞き入れてくれます。恐らくこの家庭に食料を送るといったことはできると思います。


 ツカルギア王国までは馬を走らせて1週間くらいの距離になります。ただこれからはこの距離を魔法込みで3日くらいの速度で帰れるようクロウを鍛えたいと思ってます。


 試験があるので確実に合格するためにクロウにはこれから私と一緒に王国まできてもらい、入学試験まで鍛え上げようと思っています。学園からの食料がこの家に届く目途が立つまでは私が送ります。」


 アメノは必要だと思ったことを全て丁寧に話した。だがマリアやカイの顔から不安の色は消えない。クロネは話が難しくて一人で遊んでいる。


「クロウとは4年間も会えないのですか?」


「いえ、基本一週間のうち1日しか休日はありません。しかし夏の時期には大型の休日があるのでそこでは帰省が可能でしょう。春にも入学前に2週間ほどですが休日が与えられます。そこでも帰ることは可能であると考えています。」


「クロウが死んでしまうことはあるんですか?」


「その可能性はあると思います。」


「試験って何があるんですか?」


「学園には総合科、騎士科、魔術科、修学科の4つがあります。それぞれの科で試験は違いますが、私は総合科をお勧めします。騎士科は体術、魔術科は魔術、修学科は学問に重きを置いてます。そして総合科は体術、魔術、学問を4:4:2の割合で学べると考えてもらって構いません。


 ですので試験もその3つを同じくらいの比率で採点します。」


 三人がそれぞれ質問をしてそれに対してアメノが答える。


「やっぱりだめよ!クロウが死んじゃったらもう...戦わなくてもいいじゃない!なんでクロウが戦わなくちゃいけないの!」


 マリアが感情を爆発させる。今までにない母の叫び、クロウも動揺する。


「この村では僕が一番強いと思います。もし鱗猿のような魔物が村を襲ったとき、対処する術を用意してもらえますか?」


「実は今回その件についても話したいことがあります。現在少しづつではありますが魔物の出現率が高くなり始めています。そこで王国領の村や町に魔物除けの魔道具を用意しようと思います。」


 魔道具というのは魔力を流すことでその特有の効果を使用する道具だ。このことを聞いてクロウの決意は固まった。


「安心したんだ。」


 クロウは静かに語り始める。


「死にそうになって。でも生きていて。お母さんとお父さん、クロネの顔を見て僕は家族が大事で、大切に育てられて、幸せで


 ...だからこそ、強くならないといけないんだ。みんなを守るために」


 クロウは胸に手を当てる。幸せな記憶を、自分の弱さのせいでその幸せを奪われそうになった記憶を思い出す。


「でも!それはクロ...」


「母さん、もういいよ。クロウ、もう決めたんだな?」


 マリアの言葉を制止して父がクロウに確認する。


「うん。お母さんももう大丈夫だよ。もう負けないから。心配させないくらいに強くなってみせるから。安心して待っててよ。」


 その言葉に大量の涙を流す。なぜ自分の息子が危ない目に合わなければいけないのか。自分に力があったのなら自分が守ってやりたいのに。


 でも優しく述べたクロウの気持ち、その言葉に成長を感じた。同年代の子と比べてもおそらく早い子供の自立。マリアだってわかっているのだ。このクロウを言葉で止めることが難しいことを。悔やんでも悔やみきれない己の弱さに涙が止まらない。


「お母さん、僕のことを信じてよ」


(あぁ、そんなこと言われちゃったら...母親として信じてあげなきゃいけなくなっちゃうでしょ。)


 その日の夜はみんなで寝た。6歳の頃から一人の部屋で寝ていたクロウ、そのクロウと妹のクロネを包み込むようにカイとマリアが横になる。母が隣で寝ることなんて久々で、少し恥ずかしくもある。それでも当分味わえないであろう家族の愛を、感じて就寝したクロウだった。

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