第8話 強くなる理由

「あれここは...」


 クロウが目を開けるとそこには見慣れた天井が見えていた。体を起こし周りを見渡す。そこにはマリア、カイ、そしてクロネが自分のベットの周りで眠っていた。よく見るとマリアとクロネにはひどく泣いていた跡のようなものがついている。窓の外を見るともう夜になっていた。


「目が覚めましたか」


 久しく聞いていなかったがどこか懐かしい声がした。声の主はアメノだった。


「師匠...あれ!大ざ...ゴホッ、ゴホッ」


 慌てたのかせき込むクロウ、咳に合わせて体のいたる所が痛む。よく見ると体には包帯が巻かれている。


「あなたが倒しましたよ。聞いた話によると、大けがを負ったまま村に到着してそれと同時に倒れたらしいです。」


「そうなんですが...」


 クロウにはそんな記憶がない。どうやって倒したのかも、どうやってここまで来たのかも。アメノの話はなんだか他人事のように感じる。


「私も様子を見に行きました。あの大猿は鱗猿といって、体毛の硬質化が特徴のサルです。戦闘の跡を見た感じですが恐らくあなたが炎の魔法で倒していましたよ。」


 そんなことを聞き、クロウは驚く。クロウが得意なのは水を使う魔法、最高威力の水糸みないとで尻尾を切った記憶はある。ただ炎の魔法を使って倒した記憶が全くない。


「鱗猿と戦ったあなたなら分かるでしょう。生半可な魔法では倒せるような魔物ではありません。ですがあなたの腕の火傷の跡を見る限り、あなたが倒したとしか思えません。」


 まるで夢の様だった。死を覚悟していたのに鱗猿は倒されており、しかも倒したのは自分で、得意な水の魔法ではなく炎の魔法で。


 そしてアメノは元々考えていたことを告げる。


「今回の件で確信しました。あなたには才能があります。来年に12歳のあなたには王立ツカルギア学園に通う権利があります。そこで魔術、体術、そして勉学を学びませんか」


 王立ツカルギア学園、ツカルギア王国にあり12歳から魔術、体術、そして一般教養や経営学などの学問を学ぶことができる施設だ。


「生活はどうするんですか?僕がいなかったら狩りに行けません。」


「王立ツカルギア学園では優秀な生徒を育てるために可能な限りの援助を行うことができます。あなたが優秀な生徒になればこの村に仕送りを送ることができます。


 優秀な生徒に選ばれるよう私が今日から入学まで鍛え上げます。それまでは私が食料などを送りましょう。


 それほど私はあなたに可能性を感じています。そして現在の段階で鱗猿を倒せるほどの実力なら必ずその優秀な生徒に選ばれるでしょう。」


「......少し考えさせてください。家族と話します。」


 そんな会話をしてアメノもクロウも眠りにつく。




 翌日になり、目を覚ますと朝食の良い香りがした。体を起こしベットから出る。まだまだ体は痛いが動けないほどではない。一階に向かうと家族全員がこちらを向く。


「クロウ!!!」「おにーしゃん!!!」


 マリアとクロネは泣きながら駆けつけクロウを抱擁する。


「もう...お母さんに心配かけないでよ...」


「おにーしゃんがぁぁぁぁ、おにーしゃんが」


「ごめん、母さん、クロネ...」


 車椅子の父も涙ぐみながらこちらを見つめている。。


(ああ、もっと強くならなきゃ)


 そんな家族の顔を見て強く思う。自分のことを愛してくれている家族を守りたい。もう心配をかけたくない。そんな思いが強く、強く...


「みんな、僕、王立ツカルギア学園に通いたい。」

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