大猿②
「いいですか、相手がもし自分より強く、周りに自分の事を助けてくれる人がいなければ逃げてください。魔力切れで動けなくなってしまったら命はありません。
もしも...逃げられず相手を倒さなければいけなかったらこの魔法を使いなさい。」
アメノに教えてもらった魔法を思い出す。まだまだ使いこなせるわけではない。だからある程度の準備が必要になる。魔法で生成した水を折れた腕に纏わせる。水の流れを操り、腕を固定、そして自分が思い描くように腕を動かせるようにする。
(まだだ、集中しろ...)
自分に言い聞かせる。そして大猿を見つめる。大猿にとってその眼が気に食わなかった。自分が本気を出しても諦めないその眼が...
大猿はクロウに迫る。だがクロウは妙に落ち着いている。そう過去最高に。
(やることは決まってる...あとは気合。)
迫りくる大猿の猛攻、連打が来る。しかし迫りくる拳に合わせクロウは横から拳に手のひらを当てる。そしてまとわりついた水が攻撃の軌道を変えるよう流れを作る。
攻撃が当たらないことに対して苛立ちを覚える大猿。後ろを向き、尻尾で横薙ぎをする。実はこの大猿、一番怖いのは尻尾による攻撃であったりする。体の硬さはどこも一緒なのだが、尻尾の動きは殴りや蹴りよりも速度がある。受け流されることのない最高威力の攻撃、大猿もこの戦いが終わったのかのように思えた。
バキッ
音もある、勝利を確信し、もう一度クロウの方を向くと、顔面にクロウの拳が迫っていた。避けられるわけもなく攻撃を受けるがこのダメージはない。ただあるはずの尻尾の感覚はなかった。
「
トーサスネークを殺したのもこの魔法ですね。糸のように伸ばすので相手には気づかれにくいです
ただし、ここまでの威力にするにはクロウの実力ではまだ足りないと思います。工夫を凝らしなさい。」
繊細な魔力操作を伴うこの魔法、当然今のクロウでは再現できない。だからクロウには高い威力のためにクロウは考えた。この魔法で大切なのは細さと水の速さ。この二つの両立はまだ難しい。
だから糸の放出口を小さくすることで速度を出すことにした。ホースの口を狭め水圧を上げる要領だ。そしてその水流の中にクロウは金属を細かくしたものを生成し、威力を上げた。
これが今まで練習した
だが多少、尻尾を切ったくらいでは大猿の勢いは止まらない。金属の生成による魔力の消費と出血により、片膝をついてしまう。魔力量的にはまだ余裕はある。だが出血が重なり、少し足元がふらつく。
そんな隙を見逃すわけもなく大猿はクロウの足を掴むとクロウの体を振り回す。体が木に、地面に叩きつけられる。
(痛い)
もう声も出ない。遠心力で頭からの出血が少しずつ勢いを増し、内臓も傷ついたのか吐血をしながら体を振り回される。
(ここで死んじゃうのかな)
そんなことを思いながらクロウは家族のことを考える。大好きな母、尊敬する父、そして可愛い妹。父が怪我を負ってからクロウは父の代わりに狩りを始めた。辛い生活だったかもしれない。でも幸せな記憶の方が多かった。
(だけど、ここで死んだら)
この大猿は村を襲うかもしれない。明日アメノが来てくれる。自分がここまで戦えた相手、師匠が負けるわけがない。でも間に合わないかもしれない...
(ふざけるな...もう誰も失わない。あんな悲劇をもう起こさない。俺はもう...)
そんな思いが駆け巡る。心を燃やす。失うことへの憎しみを。そして自分を燃やしたあの炎を思い出す。
そんな気持ちに呼応してクロウの両拳が燃え上がる。
「図に乗るなよ、クソ猿」
大猿は生まれて初めての恐怖を覚える。生まれてからずっと獲物を狩っていた、弱者を蹂躙していた大猿が初めて感じる死の感覚...
初めての感覚に大猿はクロウの体を遠くへ放り投げる。そして距離を取ろうとしたが...
「待てや、ゴミ」
クロウは勢いよく炎を噴出し、大猿に急接近。
「死ね」
右の拳で大猿の顔面を殴りつけ地面に叩きつける。勢いはまだ収まらない。火力を上げそして大猿の顔が焼き尽くされたのだった。
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