第一章 王立ツカルギア学園

第6話 少しの異変

 現在クロウは11歳になっている。あれから5年、今ではある程度ではあるが魔法も狩りの最中に使っても申し分ない程度には成長したのだろう。


 一年に一度アメノに会っては、模擬戦を開始する。これもあって少しづつではあるが強くもなっているだろう。そして妹のクロネも4歳にまで成長した。かわいい。


 クロウはクロネに対してとても甘い。それはもう魔法の訓練をしつつ妹を楽しませることを考えている。クロネも兄の事は大好きだった。



「お兄ちゃんは今から狩りにいくから待っててな。」


 頭をなでながら優しく話しかける。クロネは笑顔で兄の顔を見る。


「うん!!!」


 ......かわいい


 父が母に対して甘いと思う所をこの11年間で感じていたが今ではわかってしまう。同じ感情ではないとは思うがそれでも甘やかしたくなってしまうのだ。


 今日はすぐ帰る。そう妹のために...。クロウはすぐ狩りの準備をして出発しようとする。


「気を付けるんだぞ、あまりに遅いと母さんも心配するから。」


 そう声をかけるのはカイ。この光景も見慣れている。車椅子生活を余儀なくされてからクロウが狩りに出かける時は毎日こうして見送ってくれる。


「わかった!でも明日のこともあるし今日はすぐ帰ると思う!」


 明日の事というのは、年に一度、アメノが来ることに言っている。あれからというものアメノは月に一度クロウに手紙を出していたのだ。


 実はクロウがアメノにとって初めての弟子と呼べる存在だった。もちろん仕事の関係で魔法を教えることはあったが、体術や戦い方も含め親身になって教えたのはクロウが初めてだった。

 

 ようはアメノもクロウを可愛がっているのだ。


「そうか、わかった!母さんにも伝えておく」


 そう会話を続けるとクロウは颯爽と山の中に消えていくのだった。





 5年前のことがあり、クロウは油断しない。いくら魔法を使えても魔力には限界がある。以前よりも魔力は増えているがそれでも魔力切れで動けなくなってしまっては危ない。


 カイに教わった通り、罠を貼る。今までの経験から罠の完成度もしっかり高くなっていた。工夫も凝らす。素早く罠を貼りまた別の所に罠を貼る。まだ獲物を見つけておらず、罠を張る作業だけを行っていく。


......おかしい。


 動物が居なさすぎるのだ、あの時のように。


「まずい、今日は帰ろう」


 仕掛けた罠は無駄になってしまう。しかし5年前と同じこの状況、苦い記憶しかない。クロウはそのまますぐ帰るが...


—サッ


 そんな音とともに目の前に2mほど位の大猿が現れる。大猿はニヤニヤしながらクロウを見つめる。


(やばい...)


 初めて見た生物にクロウは驚き、戦闘態勢になる。額からは汗が流れる。幸いまだにやけていて油断しているのだろう。


「ウキィーーーーーーー!!!!!」


 そんな大声にクロウは一瞬たじろく。そんな隙を見逃さず大猿はクロウの腹めがけて蹴りを入れる。

 何とか防ぐことはできたが吹き飛ばされてしまったクロウ。追撃を警戒したが...


「ウキッ!ウキッ!ウキッ!」


 興奮しながら手を叩き鳴いている。顔はにやけたままだった。


(こいつ、油断してる。)


 そう考え、クロウは策を考える。まともにやったら勝てない。ここで逃したら村にも家族にも被害が出てしまう可能性だってある。


(父さんもこんな気持ちだったかな)


 クロウは覚悟を決める。そしてこの大猿に見せるのだ。今までの成果を...

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