第5話 魔法

 クロウが魔法を教わるという方針が固まってから一週間が過ぎた。クロウはアメノに言われた通り、魔力を操れるようにはなってきている。しかし、速さについてはまだまだだった。


「魔力操作に関してはこれから練習を重ねるうちに良くなるでしょう。では本格的に魔法を教えます。」


 クロウは頷く。魔法を覚えることは今後のためではあるが、初めて魔法を見たときに覚えていたのは感動だった。その魔法が使えることにクロウは少し興奮している。


「まず第一に魔法を使う上で重要になってくるのはマナです。マナはあらゆるものに宿っており、それは大気中にも存在しています。そのマナに干渉する力が魔力であり干渉した結果が魔法という形で現れます。」


 アメノがそう言うとアメノの目の前に炎と水、風の塊が出現する。さらに足元の土が槍のように盛り上がり、その土の槍にまとわりつくように木が生えてきた。


「ですから自身の頭で考えたことを魔力で伝えることができれば魔法はなんでもできます。これが疎かになると魔力の使用量が大きくなったり、威力が弱まったりしてしまいます。」


 話が終わると魔法を解除したのかその場の空間が元に戻る。そして真剣な顔でアメノはクロウに話す。


「いいですか、できてしまうのです。理論上では、人を蘇らせることも、時間を巻き戻すこともできるでしょう。


 いいですか魔法を悪用しないでください。それが最初の魔法の教えです。」


 クロウも真剣な眼差しのまま頷く。


「よろしいでしょう。ではまず理解しやすい水の魔法を教えます。あなたはこれから毎日ずっと水に触れ観察するようにしてください。


 水への理解がそのまま魔力の使用量、威力にも関わってきます。ゆくゆくは他の魔法も使えるようになるでしょう。」


 アメノが得意な魔法は水を使った魔法だった。故に最初に教える魔法も水であり、今後の人生でクロウは水の魔法が得意になるということはこの師匠による影響であるのだろう。


 この日より本格的な魔法を使用しながら訓練を行った。言われた通り水を観察し、触れることを欠かさず行う。さらには体力増強のために体術もアメノに少しずつ教えてもらった。


 生活もあるので午前中に体術、午後は狩りに行き、帰ってきてから魔法の練習、そんな生活を一か月間行うと、まだまだ粗削りだが魔法を使えるようになっていた。


「お見事です。まさかこの一カ月でここまで成長するとは」


 一カ月というのはアメノがこの村を出て行ってしまう時期であった。アメノにもアメノの国での生活がある。一カ月で中途半端な実力だとかえって危ないと考えていたのだが、クロウの成長はすさまじいものだった。


(本当は国に連れてゆき、さらに訓練を行いたいのですがね)


 アメノは少し残念そうな顔をしてクロウに問いかける。


「答えはわかっていますが、聞いておきます。このまま私と一緒に行きませんか。あなたの才能を、成長を見守っていきたいです。」


 その誘いはクロウにとっても嬉しいことだった。辛いこともあった。魔力を消費しすぎて倒れることは日常茶飯事で、さらに狩りにもいかなければならない。


 ただクロウは魔法が好きだった。最初は強くなるためだったが今では魔法の魅力に気づいている。それでも...


「いえ、僕は、この村で家族を守ります。」


 クロウの決意は固い。そんな答えを聞けて残念でもありながら同時に自分の弟子の意思の強さに嬉しさも覚えている。


「わかりました。では今日でとりあえずのさようならです。ですが訓練は続けてください。私もあなたの成長が楽しみなので一年に一度、この村を訪れましょう。」


 それが師匠であるアメノと弟子のクロウの最後の言葉だった。一カ月という短い時間であったが中身の濃い一カ月だった。しばしの別れにクロウは師匠を見送り終わると泣いていたのだった。


 そこからのクロウの生活は一変した。今までは師匠が狩りに付いてきてくれたのでそこまで恐怖は無かったがこれからは一人で狩りをしなくてはならなかった。


 一人で行く前にカイに狩りについての教えを聞く。カイはというと足も動かず、左腕の動きもままならない。車椅子での生活をしながらクロウに、狩りについて教えることしかできない。


 午前中は狩りを行う。ある程度狩り終わると今度は魔法の練習をした。アメノから教わった水の魔法を練習しつつ、土、炎、風といった自分がやりたい魔法も独学で続けていくのであった。








「おにーしゃーーーん!」


元気でかわいい声がする方向をクロウは向いた。


「クロネ!!!」


 駆け寄ってくる妹、クロネをクロウは抱擁する。あの時、マリアのお腹にいたのはクロネという女の子だった。


 アメノに魔法を教えてもらってから5年の月日が経っていたのだった。

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