第2話 遭遇

 クロウとカイはまだ兎を探している。朝食を食べ、狩りの準備を行ってからこの山に入ったのでまだまだ日は出ている。途中、山菜や木の実を見つけては口にしていたので、お腹がすくということもないが、それでも少しだけ、帰りたいという気持ちもだんだん強くなってきた。


「そろそろ帰ろうか」


 これ以上探しても見つからない。さらにここまで兎が見つからないということから違和感がだんだん強くなってきたカイは、クロウに提案をする。


「うん」


 流石にここまできて見つからないことから今日は諦めてしまうことに対して残念だという気持ちもある。しかし父の意見は正しいとも思うのでクロウは渋々その提案に賛同する。その時、


―ガサッ


 近くの茂みから音が鳴る。


「お父さん!兎かも!」


 今まで探してきて動物の気配すら無かったのに、急に茂みに何かいるようだった。今までの苦労が報われると思ったクロウはついつい嬉しくなり、音の方へ駆け寄る。


 そう。兎に限らず、小鳥やリス、その他の生物さえ...


「だめだ!クロウ!」


 今までの違和感、そして急に聞こえた茂みの音。何もかもが怪しすぎる中、カイはクロウの方へ駆け出す。


(間に合ってくれ)


 流石に大人と子供の全力疾走だと大人が勝つ。カイはクロウの服の首元を後ろから掴むと後方に投げ飛ばす。


「いてッ」


 初めて聞く父親の焦った声、そして数メートル飛ばされおしりから着地したことへの痛みで目を瞑ってしまっていた。そして次に目を開けたときだった。


 父親の左腕には大蛇が噛みついており、大量の血液が流れるのを見た。


「あ、あぁ...」


「逃げろ!クロウ!!」


 泣きそうになったが父親の𠮟責で何とか泣くのをこらえる。そして父親に言われたことを思い出す。


「いいかクロウ。もし父さんが危ないと判断したら逃げろって叫ぶからそしたら振り返らずに村にもどって状況を知らせるんだぞ。いいかこれだけは絶対に守れよ。それが父さんの命にも繋がるから。」


 いつも自分には優しい父さんが久々に見せた真剣な顔での約束。それを思い出した。


 クロウは父の教え通り、村に走って戻っていった。


「よし...それでいい」


 クロウが走ったことを確認したカイは腰からナイフを抜き、大蛇の左目に突き刺す。


 その痛みに思わず大蛇は噛みつくのをやめた、しかしそのお返しとばかりに大蛇は頭を振りカイを後方に吹き飛ばした。


「ガハッ」


 後ろの大木に思い切り衝突したカイは肺から空気が噴き出た。そこでカイは大蛇の姿をきちんと見ることができた。


 普通の蛇のような顔だが頭には触角のようなものが一本生えており、恐らくその触覚が茂みを揺らしたのだろう。そして頭が出てはいるが、体の大半は地中にある。顔の大きさだけでも1mほどあるのだ。体長となるとどれほど大きいものになるのか想像できない。


「魔物か」


 この世界には世界中のあらゆる場所にマナが漂っている。マナはあらゆるものに良い影響を与える。それは動物でも変わらない。マナを大量に内包した生物は、特殊な力を宿す。人間で言ったら魔法を使えるようになる。そしてその他の生物では体の強度や、特殊な技能を持つこともある。それが魔物である。


 この大蛇は大方、普通の蛇の中でマナを多く内包したものが突然変異を起こしたものなのだろう。


(左腕は使い物にならない。武器もナイフと猟銃だけど猟銃は今の状態じゃ満足に使えないな)


 絶望的な状況だが自身がすぐつかまってはクロウが危ない。それに死んでしまっては今後の家族の生活も危うい。


 カイは覚悟を決め、死に物狂いでこの大蛇の時間稼ぎをしようとしていた。

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