第3話 出会い

 クロウは村まで死に物狂いで走った。涙を流しながら、転びながらも、必死に走っていた。


 自分が頑張らないと恐らく父は死んでしまう。ただでさえ自分が何も考えずに駆け寄ったばかりにあんな大けがを負ってしまって。守れないのは嫌だった。


 小石につまずきまた転ぶ。擦り傷ができる。今までは転んだ時に父や母が起き上がる手助けをしてくれていた。でも今は一人。


 痛いのも我慢、早くしないと父が死んでしまうから。涙も、転んで着いた土も払う暇は今はない。必死で走る中、クロウは運命の出会いを果たす。


「どうした、少年」


 こんな山の中に自分の村でも見たことがない服を着た者、現代で言うと巫女のような服を着た奇麗な女性がクロウに声をかける。


 ハノ村は小さな村だ。それこそ村人全員顔見知りのようなもの、クロウでも外から来た人間だということが分かった。


 クロウにとって女性というのは農業や家事を行う存在、だから大きな怪物が居てもなにもできないと思っている。しかしクロウは今、一杯いっぱいの状態。女性でも大人であることに変わりはないことから藁にもすがる思いで今起きていることを伝える。


「かい...怪物が....お父さんが...」


「わかりました、どちらの方ですか?」


 女性はクロウに多くを語らせずともある程度わかった。クロウは泣きながらも父のいる方向を指さす。


「よし行こうか」


 女性はクロウを抱えると


水流走すいりゅうそう


 そう口にした途端、足に水がまとわりつく。そしてまとわりついた水が回転し、高速で移動を始めたのだった。


 それはクロウが初めてみた魔法であり、そしてそんなことをできるこの女性が父を助けてくれると少しばかし期待したのだった。


(まさか被害が出てしまうとは...お亡くなりになってなければよいのですが)


 その女性はアメノという女性だった。アメノは現在商人に頼まれた依頼をこなすためにこの山に訪れていたのだった。


 商人の話によるとこの山を通ろうとしたとき、トーサスネークと呼ばれる魔物を見かけたのだという。今まさにカイを襲っている魔物だ。


「シャアアアアアアア」


 現場に着くとトーサスネークがカイを食らおうとしていた。巨大な口を開け、木にもたれかかっているカイに襲い掛かろうとしている。


「お父さん!!!!!!!」


 聞きなれた愛する息子の声がする方を向く。どうして逃げなかったのか、なぜ帰って来たのか、自分は守れなかったのか。そんな思いと共に息子を抱える女性をみる。

 

 足にはものすごい勢いで回転している水がまとわりついてることから魔法が使えることが確認できた。


(ああ、魔法使いか...だったら安心だ...)


安心したカイは目を閉じる。そしてアメノは左手の拳を握りしめる。


水手みなて


 そう言うと同時に左手から少し離れたところに大きな水でできた握りこぶしが出来上がる。そして拳を振るう行動に連動して水の拳がトーサスネークを殴りつける。


 思わぬ衝撃に顔が吹き飛び、その勢いで体が地中から少し飛び出る。


水糸みないと


 細い水の糸がトーサスネークの頭を括る。そしてトーサスネークの頭は胴体と切り離されたのだった。


「よし、それではあなたのお父さんとこのトーサスネーク村に持ちかえりましょう。道案内をお願いできるかしら。」


 狩りはできないと思った女性に助けられたクロウにはこの戦闘はとてつもなく衝撃的だった。そして村まで案内していく中でクロウはアメノにお願いをする。


「僕もあなたみたいに強くなりたいです。強くしてくれませんか」

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