生まれ変わった人生は穏便に
カマキリキリ
序章 運命の分岐点
第1話 生まれ変わり
その男は自分の現状と今までの事を振り返る。
思えばたくさんの人を殺してきた。自分や国に歯向かってきた者も、ただ怯えるだけの者も、子どもも大人も、女も男も。
神様から平等に与えられた命には終わりがあり、違いは早いか遅いかのみ。ただ終わる順番が回ってきたというだけの事だった。
だから現在の己の姿は仕方のないことだと割り切っていた。右目を貫かれ、左足と右腕を失い、横腹にも穴が開いている。出血がひどくもう間もなく命が終わるだろう。
生きることに未練がない訳ではない。家には愛する家族がいた。生まれたときから戦いしか知らなかった自分に感情を、愛することを教えてくれた家族。もっと色々なことをしたかった、色々な思い出を作りたかった。この先もずっと一緒に居たかった。それに今負けたら恐らくその家族も殺されてしまう。守りたかった。
そんな後悔はあった、それでも結果は変わらない。自分はここで死ぬ運命だと悟った。
(あぁ、もし来世があるのなら、今度はこんな血塗られた人生は嫌だなぁ、)
そんな叶うかもわからない願望を胸にその男は息を引き取ったのだった―――
「クロウ!そろそろ起きなさい!ご飯よ!」
そんな声で現在6歳のクロウは目を覚ます。瞳からは涙がこぼれていた。
「なにあんた、泣いていたの?」
そう尋ねてきた金髪の長髪が似合う美しい女性、クロウの母であるマリアが不思議そうにクロウを見つめている。
「何でだろうね?わかんない!」
何か悪い夢を見ていた気がするクロウは母の顔を見て安心したのか元気な声で返す。
「そう?それならご飯食べましょう!」
最初はなかなか起きてこないクロウを叱ろうかとも思ったがそんな顔をされると母親としては心配が勝る。
「それなら早く行きましょう、今日はお父さんと狩りでしょ?」
一カ月前に丁度6歳になったクロウは今日まで父親から狩りの基礎を教わっていた。そして今日が初めての実戦経験となる。
「うん!早く行こう!」
母親と話してさっきまで見ていた夢の内容も忘れクロウは元気よく朝食を食べに行くのだった。
クロウ達家族は、ハノ村というとても小さな村で暮らしていた。もっと大きな国であったら、様々な仕事があり、それらの仕事を行って生計を立てていくのだが、いかんせんこの村は都会とは程遠い場所に位置している。基本的な生活は自給自足である。
もちろん貨幣という文化自体あるが、商人がこの村を訪れたときに野菜や獣の肉や皮といったものと交換してもらうときくらいしか村人の持つ貨幣の総数が上がらない。
そう言ったことから国まで行く資金もなく、人生がこの村で完結するものが多く貨幣の利用価値が時々来る者に対してしかないので、物々交換が主流だった。
そして男は狩り、女は農業という固定観念が固まった村でもある。そう言うこともあり男であるクロウは必然的に狩りについて父に教えられていたのだった。
「よしクロウ、ここら辺に罠を仕掛けよう。」
朝食を食べ終えたクロウと父親であるカイは今、狩場である山の中にいる。今回は初めての実践ということで基本的なことをクロウに任せようとしたカイがクロウに指示を出す。
カイとマリアはお互いに32歳である。村の中でも若い方になる二人は、体力を使う仕事を頼まれやすい。そんなこともあってカイは引き締まった体をしている。身長は180cmほどであり、黒髪短髪であるので好青年という印象を受ける。これを言われると彼は青年という歳ではないと否定するのだが、村の人たちから見ればまだまだ青年だという事らしい。
クロウの黒髪はカイからの遺伝なのだろう。
「父さんできた!」
クロウの嬉しそうな声がかかり、罠の具合を見る。まだ6歳ということもあり、作りが甘い部分があったりもするが、それでも及第点くらいはとるできであった。
「まあ作りが甘い部分があるけど...よく一人でできた!えらいぞ!」
練習でも何度も行ってきた罠の作成、及第点とは思ったものの可愛い我が息子の罠。何度でも褒めたくなってしまう。カイは家族にとても甘かった。クロウの頭をなでるとクロウは嬉しそうな顔をする。
「よし!それじゃあ兎見つけてこの罠まで追い込もう!」
そうして二人は兎を探すため、罠を設置しつつ兎を探し始めるのだが罠の設置した数が増えていくだけでなかなか兎が見つからない。まだまだ6歳という幼いクロウにはこの作業が苦痛であり、疲れが見え始める。
カイは父親として初めての実践を成功させたいという思いも強かった。だがここまで探して兎が居ないことに違和感を感じ始めている。普段はこのようなことが起きない分、狩人としての自身の勘がこの辺でやめておいた方が良いという思いも存在していた。
「罠も大分張ったし、今日はもう少し探して帰ろう!もしかしたら明日来たら罠につかまっているかもしれないし」
自分の父として、狩人としての考えの折衷案としてこの提案をした。クロウもこの案を聞いて兎を捕まえられないという残念な気持ちと、終わりが見えたことに対する安堵とが混在していた。
「わかった!そしたらもうちょっと探して帰ろう!」
子どもながらに父を気遣い、捕まえられないという残念な気持ちを出さないように努めた。もし自分が捕まえたいと言ったら、父は捕まえるまで手伝ってくれるだろう。しかしクロウも父が捕まえさせてあげたいという気持ちも危険かもしれないという気持ちも僅かながら感じ取っていた。
今思えばここがクロウにとっての人生の分岐点だったのだろう。この時、カイが父としてではなく、狩人としての勘を信じていればもっと違う人生をクロウは歩んでいたのかもしれない。
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