第8話
「うわぁ! 見た!? 今のジャンプすごいねぇ!」
先輩ははしゃいでいるように見える。
「あれってどれくらいの高さまで跳んでいるんでしょうね」
でも、やっぱりどこかで硬い部分があるように感じる。
当たり前か、さっき知り合ったばかりの異性の後輩と身体半分密着しているんだ。
俺だって今が正気なのかどうかわかっていない。
「ビルの三階くらいまでは飛んでそうだよねぇ。あれなら水族館から跳んで逃げ出せるんじゃなーい?」
「なるほど、確かにあり得ますね」
ほら、せっかく話を振ってくれたのに、気の利いたことも言い返せない。
「ハハハハハ……」
俺だって今の会話には乾いた笑いしかできないだろう。
気がつくとイルカショーは終わっていた。
先輩と密着していた状態から開放されて、ホッとした気持ちと、残念だという両方の気持ちが湧いているのに気がついてしまった。
「いやぁ、スゴいショーとスゴい人だかりだったねぇ。久しぶりにこんな体験した気がするよー」
「俺も子供の頃に見てはいるんでしょうけど、大きくなってから見るとまた新鮮な気持ちで楽しめましたよ、ありがとうございました」
実際、状況が状況だったから頭の中に全然残らなかったが、見ているその時は掛け値なしにすごく面白いと感じた。
「暑いですし、そろそろ館内に戻りましょうか。雅彦とヒカリも追いかけなきゃいけないですし」
「そうだねぇ、行こうかぁ、後輩くんよぉ」
俺が立ち上がるのと同時に先輩も立ち上がろうとしたが、先輩の膝がガクンと折れて横に倒れそうになった
――危ない!
そう思うよりも早く俺は手が動いていた。
倒れそうになる先輩の肩を力強くつかみ、抱きしめるように引き寄せた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、ちょっとフラッとしちゃったぽい、ごめんよぉ」
先輩は軽く笑っていたが、笑い事じゃない。
何かあったら俺のせいだ。
飲み物を用意してくれたのも先輩だし、席を確保してくれと指示したのも先輩だし、俺は何もしていない。
俺が何かしていれば先輩は倒れずに済んだかもしれない。
「ね、熱中症かもねぇ。もう大丈夫だから、一緒に涼しい所に戻って休憩しよっか」
痛いくらいに掴んでいた手を慌てて離し、先輩は一人でフラフラと立った。
熱のせいか顔が少しだけ赤い先輩を見て、自分の情けなさを痛感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます